広島こそ上場

〜シリーズ「村上ファンドの阪神株」(2)〜

Originally written: Oct. 17, 2005(mail版)■広島こそ上場〜週刊アカシックレコード051017■
Second update: Oct. 17, 2005(Web版)

■広島こそ上場〜週刊アカシックレコード051017■
村上ファンドが提唱した阪神タイガースの株式上場に反対する世論が高まり、制度上も球団の上場が一切不可能になると、実は広島カープが困るのだ。
■広島こそ上場〜シリーズ「村上ファンドの阪神株」(2)■

■広島こそ上場〜シリーズ「村上ファンドの阪神株」(2)■
【前々々々々々々回「計画的解散〜シリーズ『9.11総選挙』(3)」は → こちら
【前々々々々々回「龍の仮面(ペルソナ)文庫版〜05年10月発売」は Web版はありません。】
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【前々回「亡国のイージス〜北朝鮮版『桶狭間の奇襲戦』?」は → こちら
【前回「阪神 vs. 村上広告代理店〜村上ファンドの阪神株買い占めで『プロ野球のJリーグ化』?」は → こちら

前回述べたように、元通産官僚、村上世彰(よしあき)率いるM&Aコンサルティング(通称「村上ファンド」、村上F)は阪神電鉄の発行済み株式の4割弱(05年10月11日現在39.77%)を保有して筆頭株主になったあと、子会社阪神タイガースの株式を上場することを提案した。タイガースも加盟する日本プロ野球組織(NPB)のプロ野球協約(第28条)は、球団(の株)の所有者が変わったらその都度NPBに届け出ることを義務付けているので(上場すると毎日の市場取り引きで所有者が頻繁に変わるので)球団自体の株は上場できない。そこで村上は(ファンの意見を聞いたうえで)球団株を持つ持ち株会社を作って、その持ち株会社の株を上場してはどうか、と阪神電鉄に提案した(産経新聞05年10月12日付朝刊3面「村上氏『球団上場 投票で』」)。

これに対して巨人の渡辺恒雄会長(ナベツネ)は「(持ち株会社方式でも)協約違反」「ファンの声を聞いて上場するなんて言うやつは偽善者だ」と反対した(スポニチWeb版05年10月12日「渡辺会長 村上氏は『インチキ野郎』」)。

タイガースファンの「世論」もおおむね反対のようなので、めずらしく彼らと渡辺の意見が一致して、現時点ではタイガースの上場は難しそうだ。

が、この意見の一致が野球協約の改正(球団持ち株会社禁止の明文化)など先鋭化した方向に向かうと、実は広島東洋カープが困るのだ。
なぜなら、カープを上場すべきだという意見が、ファンやマスコミではなく、広島市議会にあるからだ。

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●カープ上場問題●
カープは75〜91年に6回リーグ優勝したが、この全盛時代を支えたのは、山本浩二外野手、北別府学投手ら、当時のNPBが球団間の戦力均衡を目的として維持していたドラフト制度で入団した選手たちだった。

93年にドラフトに逆指名制度が導入され、アマチュア球界の有力選手が、巨人など資金力のある一部の球団に集中するようになり、また同年に導入されたフリーエージェント(FA)制度を利用してカープの有力選手が(たとえば00年シーズンオフには江藤智内野手が巨人に、02年オフには金本知憲外野手がタイガースに)流出するにおよんで、カープの戦力は著しく低下。98年からは8年連続Bクラスに低迷している。

そのうえ、本拠地の広島市民球場は老朽化し、娯楽施設としての魅力にも乏しいため、観客動員数は頭打ちだ。04年度末の球団収支はいちおう6600万円の黒字だが、経営が「ジリ貧」なのは間違いなく、このままでは「(04年の近鉄バファローズの消滅に続く)第2弾の球界再編があったら、生き残れない」という不安が地元広島では根強い(中国新聞Web版05年10月5日「新球場『中身』にも関心」)。

そこで、広島市内に新球場を建設する動きが96年頃からある。
当初、カープは自前の球場を持とうと考え、球団を中心に複数の民間事業者が建設資金270億円を集めて球場と同時に隣接地に複合商業施設を造る案を模索した(中国新聞Web版01年6月2日「ヤード跡地利用 球団の積極性に注目」)。

が、これは結局挫折し、05年、広島市は約90億円の建設費でJR東広島駅貨物ヤード跡地に新球場を建設する案をまとめ、そのための建築コンペ実施予算案が10月4日、広島市議会で可決された。市では建設費90億のうち26億を新球場からの収入で賄い、残り64億のうち半分の32億を税金で賄うとしている(中国前掲記事「新球場『中身』にも関心」)。

そこで、残りの32億円を賄うため、また税金の投入総額をもっと減らすため、カープ自身が上場会社となって資金を調達すべき(たとえば、ファンが一株株主になるべき)という意見が、広島市議会議員のあいだで少なくない(中国前掲記事「新球場『中身』にも関心」)。

広島市も他の自治体と同様に財政が苦しい。02年ワールドカップ(W杯)サッカー本大会の際には、国際サッカー連盟(FIFA)から「ぜひ平和都市広島でも開催したいので、スタジアム(広島ビッグアーチ)の観客席にFIFAの開催基準に従って屋根を付けてほしい」と頼まれたにもかかわらず、広島市は財政難を理由にこれを断り、W杯開催地の栄誉を棒に振ったことがある(平野博昭・広島市議会議員Web 02年5月24日「サッカー王国広島の復活について」)。

このように広島の「財政赤字解消」への市民意識はかなり強いので、新球場の建設費(64億円)を全額税金で賄うことは不可能だ。だから、もし球団上場による資金調達が許されないと、新球場建設を柱にしたカープの経営再建は挫折し、球団存亡の危機に陥る恐れがある。

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●巨人戦放送権問題●
いや、新球場問題がなくても、カープの経営はもう危機的状況にあるのだ。なぜなら、前回述べたように、来年(06年)からはカープが主催する対巨人公式戦11試合のTV放送権料が、今年(05年)の1試合1億円から大幅に下がり、おそらく5000万円前後になるからだ。

それはカープの安定収入源が5億5000万円前後減ることを意味する。今年05年の黒字が昨04年とほぼ同じだったとしても、その黒字はすぐに消し飛び、たちまち5億円以上の大赤字に転落するのだ。

カープは、本来市民球団として発足し、その後球団名にもなっている東洋工業(現マツダ)の支援を受けたが、その関係の持ち株比率は34.2%にすぎない。持ち株比率50%以上の、はっきりした親会社がないので「赤字になっても親会社が補填すればいい」という、昔の近鉄バファローズのような放漫経営はできない。単純に考えれば、赤字転落を防ぐには05年オフに1億円プレーヤーを5人放出する必要があり、それは野球チームとしてのカープの崩壊(05年の楽天イーグルスより弱い、史上初の「年間100敗」チームの誕生?)を意味する。

そうなれば、ファンは愛想をつかしてますます観客が減り、赤字は増え、結局カープは倒産するかもしれない。

04年の近鉄バファローズとオリックスブルーウェーブの合併に端を発する球界再編騒動では、渡辺は当初、球団数の削減による1リーグ制への移行をめざしていた。

これはプロ野球選手会とファンの強い反対に遭って(05年の時点では)断念した。が、カープが潰れれば、また「縮小再編」への流れが生まれる。現時点で渡辺がカープをどうしたいのかは不明だが、上記の意固地な「上場反対」(インチキ野郎)発言を見ると、結果的に彼が中心になってカープを潰す恐れは十分にある。

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●3/4●
カープに限らず全球団が来年06年からは、巨人戦の放送権料の値下がりにより、その分減収になる。それを補う手段としては、前回述べた、すでにJリーグが実施している「球界全体として(1業種1社、合計数社の)公式スポンサーを募り、その広告収入を全球団で分ける」方式があり、今年05年11月以降、これがNPBで議論される可能性はある。

なぜなら、01年にカープとともに270億円の新球場建設案を立てたのは、例の(Jリーグと関係の深い?)大手広告代理店(A社とする)だからだ(中国前掲記事「ヤード跡地利用 球団の積極性に注目」)。

つまり、カープは球界の「代理店派」(A社派)と予想されるのだ。
球界全体として(A社が仕切る)「NPB公式スポンサー」制度を採用するには、野球協約(第22条の2、第17条)によりNPBオーナー会議で12球団の3/4、9球団以上の賛成が必要だが、Jリーグのコンサドーレ札幌と本拠地を共同利用している北海道日本ハムファイターズは、前回紹介したような(球場ではなく球団と球界が広告を管理する)広告ビジネスに慣れ親しんでおり、カープがそういう方式を提案すれば、賛成すると思われる。ほかに、A社と合弁でネット広告事業を営んでいるソフトバンク(ホークスの親会社)も同調する可能性が高く、「A社派」は最低3球団はありそうだ。

もしもタイガーズの親会社の大株主、村上Fがこれに賛成なら、いまや球界一の観客動員を誇る「盟主」となったタイガースもこの列に加わるので、そして「盟主」には多くの球団が同調するだろうから、A社派は一気に増える。

しかし、A社のライバルの広告代理店と密接な関係を持つ、巨人の親会社、読売新聞社は当然これには反対だ。A社主導で公式スポンサー制が導入されれば、球界でA社の発言力が高まり、逆に巨人の発言力は落ちるからだ。

巨人に頼まれて球界に参入した楽天(イーグルス)も反対だろう(『週刊文春』04年10月7日号(「仙台ウォーズ ナベツネ帝国の逆襲 楽天 三木谷に『ライブドア潰し』を哀願した巨人軍」)。

そして、横浜ベイスターズも反対にまわる可能性が出て来た。05年10月13日、楽天がベイスターズの親会社TBS(東京放送)の発行済み株式の15.46%を取得して筆頭株主になったからだ(産経新聞05年10月14日付朝刊1面「楽天 TBSに統合提案」)。

これで「読売派」も3球団になるかもしれない。これにあと1球団が加わると、他の8球団すべてが「NPB公式スポンサー制」に賛成しても否決できる。

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●「暴落」回避●
また、楽天のTBS株大量取得を通じて、読売がTBSに間接的に働きかけることにより、巨人戦放送権料の大幅な値崩れを防ぐことができる。読売グループのNTV(日本テレビ)が単独で「来年も巨人戦には1試合1億円の価値がある」と言い張ってもなんの説得力もないが、グループに属さないTBSが「客観的に見て、巨人戦は(たとえ05年の関東地区ナイターの年間平均視聴率が10.2%でも)8000万〜9000万円の価値がある」と言ってくれれば、放送権料の暴落を防ぎ、ある程度「相場」を維持し、それによって巨人の球界における発言力も維持できる(少なくとも巨人戦の放送権料がタイガース戦のそれより安くなることは回避できる)。

もちろん、このような「談合」的な相場維持策には、TBSのほかの株主、たとえば村上Fの猛反発が予想される(毎日新聞Web版2005年10月15日「村上世彰氏 TBSにベイスターズ売却提案」)。05年には関東地区で何度も視聴率1桁を記録した、ゴールデンタイム(GT)の番組としては「失格」(連続ドラマなら放送打ち切り)の巨人戦の放送権に1回2時間で1億円近く払うのは「背任」とさえ言えるからだ。が、10月13日以降、TBS株における楽天の持ち株比率(15.46%)は村上Fのそれ(9月30日時点で7.45%)を大きく上回っているので、楽天がTBSに「8000万円でいい」と言えば、その意見のほうが強い。

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【この「談合相場」の恩恵は対巨人戦を年間11試合主催するセ・リーグの各球団にも(数億円ずつ)およぶので、カープもタイガースも同調する可能性がある。が、球団を子会社として持たないTV局(テレビ朝日)にとってはいい迷惑なので、そういう局は5000万円近くまで非公式に値切るか、または巨人戦を敬遠する可能性もあり、あまり相場を高くすると、何試合かの巨人戦について、放送権の「売れ残り」が出るかもしれない。】

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つまり、05年10月現在、村上F、阪神電鉄、TBS、楽天を巻き込んで展開されている球界とTV界の主導権争いは、大手新聞社と大手広告代理店の「代理戦争」の側面があり、この面からも解釈できるのだ。

渡辺は「村上(世彰)の背後には出資者としてオリックス(オリックスバファローズの親会社)がいるので同じ資本が複数の球団を支配する恐れがある」と指摘し、また「ホリエモン(ライブドアの堀江貴文社長)がカープを買う動きがある」と批判したうえで、「たまったもんじゃない」と斬り捨てたので(産経新聞05年10月14日付朝刊25面「球界再編問題」)、村上Fがタイガースに影響力を持つことや、カープが(上場されたあと)ライブドアに買われることには、反対らしい。04年の球界再編騒動で一時共同歩調をとったオリックスも、もはや仲間ではないようだ。

渡辺は「村上」「ホリエモン」と呼び捨てにする一方で、楽天の三木谷浩史社長のことは「三木谷君」と言っているので、楽天だけは味方にしたらしいが………予想外に早く巨人の味方は減ったようだ。

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●カープを潰す気か●
タイガースは上場しようがしまいが、経営危機には陥らない。オリックスバファローズと合併する場合でさえ営業上の理由で、球団名も本拠地もユニフォームも変わるまい。「永久に不滅」だ。

が、カープはそうではない。危機的状況にあるカープにとって上場は命綱だ。昨05年、球団消滅をめぐってストライキにまで発展する大混乱に陥ったのだから、その経験からタイガースファンも学習してほしい。

タイガース上場問題はタイガースファンが勝手に決めてよい。しかし、カープの上場にまで反対する権利はない。昨05年の近鉄バファローズのような、球団消滅という悲劇を繰り返さないために、タイガースファンには、ナベツネと一緒になって上場反対を叫ぶような余計なことはやめて頂きたい。

もちろん、上場したカープをライブドアが買収する可能性はあるが、その是非は球団の存廃と秤(はかり)にかけてカープファンが決めるべきであり、タイガースファンや渡辺には関係ない。

村上Fは、タイガースを上場するか否かはファンの意見を聞いて決めるべきと言い、阪神電鉄もこれには賛成して、なんらかの方法でファンの意見を調査する、という(産経前掲記事「村上氏『球団上場 投票で』」)。ぜひそういう調査を実施して「球団上場世論調査」の先例になって頂きたい。タイガースがそういう調査を実施すれば、カープも(市議会の要請で)実施せざるをえなくなり、多数の市民株主(予備軍)の賛成が得られると予想されるからだ。

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【上記は筆者の純粋な「予測」(推測)であり、「期待」は一切含まれていない。】

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