計画的解散

〜シリーズ「9.11総選挙」(3)〜

Originally written: Sept. 08, 2005(mail版)■計画的解散〜週刊アカシックレコード050908■
Second update: Sept. 08, 2005(Web版)

■造計画的解散〜週刊アカシックレコード050908■
日本一正確な世論調査は自民党の独自調査だ。小泉首相はその調査結果に基き「いま解散すれば総選挙は圧勝」と読んで05年8月、郵政民営化法案と無関係に衆議院を解散した。
■計画的解散〜シリーズ「9.11総選挙」(3)■

■計画的解散〜シリーズ「9.11総選挙」(3)■
【前々々回「テロとの戦いは幻想」という幻想〜英BBC検証番組が現実のテロに敗北」は → こちら
【前々回「『刺客』に女優M?〜9.11総選挙」は → こちら
【前回「造反ホイホイ〜シリーズ『9.11総選挙』(2)」は → こちら

05年7月、郵政民営化関連法案の審議が山場を迎えると、与党自民党の郵政族議員ら反対派の抵抗が激しくなった。この法案の成立に執念を燃やす小泉純一郎首相は「成立しなかったら衆議院を解散する」と言い、自民党執行部(武部勤幹事長)には「法案に反対した者は処分する」(解散後の総選挙で党公認候補とせず、追放する)と言わせ、反対派を恫喝した。

この「郵政解散」論を当初、反対派やマスコミは嘲笑していた。選挙分析の権威である宮川隆義・政治広報センター社長は05年7月、総選挙になれば連立与党(自民党と公明党)は敗北し野党に転落するという認識は、郵政民営化反対派にも賛成派にも共通しており「野党に転落したくなければ郵政民営化法案に賛成しろというのが自民党執行部の論法」と分析(05年7月28日発売の『週刊文春』05年8月4日号 p.134 「9.11衆院選『全選挙区』完全予測」)。

そのうえで宮川は「唯一人、小泉首相の認識だけは違っている」「(小泉は)改革に反対する政党(民主党)が、総選挙に勝つはずがないと、自公与党勝利を確信する発言を裏では続けている」「(自公で)絶対安定過半数(269議席)は確保できるとも思っている」と指摘し「願望が昂じた錯覚か妄想」と酷評する(『週刊文春』前掲記事)。

酷評の根拠として宮川は、直近のマスコミ各社の世論調査でも、国民には郵政民営化法案の成立を望む声は少なく、むしろ解散・総選挙(による政権交代)を望む声のほうがはるかに強いことを挙げる(『週刊文春』前掲記事)。

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●成立しても解散!?●
常識的には、自民党は負けるはずだ。

前回03年11月の衆院選で民主党は、自由党との合併を成し遂げた菅直人代表のもと議席を一気に137から177に増やした。翌04年になると、当時の菅代表や、その後継とされた小沢一郎代表代行(現副代表)が、年金保険料の未納(未加入)問題で代表職を辞任(辞退)して、急遽岡田克也幹事長が代表に昇格するという混乱はあったものの、7月の参院選では、民主党は改選議席121のうち50を獲得し、49しか取れなかった自民党を初めて上回った。

民主党の隆盛は明らかで、次の衆院選での、民主党への政権交代は十分予想された。日本政治総合研究所の白鳥令・東海大教授は、自民党に「逆風」が吹き、前回衆院選で自民党に投票した有権者の3%が民主党に鞍替えすると、民主党の議席は(前回の177から)230に増え、逆に自民党は(237から)194に減り、公明党を足しても民主党を下回る、と予測する(産経新聞05年1月21日付朝刊5面「保守新時代3」)。

その一方で、05年、上記のように小泉は「安定過半数確保も可能」と思っていたし、永田町界隈には6月から「小泉は解散したがっている」「(郵政法案が)成立しても解散する」という説も流れていた(『日刊ゲンダイ』05年6月22日付「小泉 郵政法案成立でも9月解散」 山本一太Web 05年7月28日)。

となると、小泉は頭がおかしいのだろうか。なんの根拠もなく、解散すれば総選挙に勝てると思い込んで解散を強行し、郵政民営化反対派(造反議員)の選挙区に対抗馬を立てようとしてあわてて人材を探したら、運よく高級官僚や著名人の「刺客」が大勢みつかり、彼らがマスコミの注目を集めて民主党の存在感が薄れ、たまたま「自民優勢、過半数の勢い」「与党安定多数」になった、ということなのだろうか(朝日新聞05年9月4日付朝刊1面「本社情勢調査」)。小泉は運がいいだけで判断力のない(変人でなく)「狂人」なのだろうか。

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●党独自の世論調査●
8月30日の総選挙公示が近づくと「自民党独自の世論調査では、自民党は単独過半数(公明党とあわせて安定過半数)を取れる、と出ている」という情報が流れた(産経新聞Web版05年8月27日「自民、単独過半数も 党独自調査」)。

しかし、この独自調査の結果について自民党内では「(楽観的な)数字が独り歩きする(自民党支持者が安心して投票に行かなくなる)ことへの警戒感」が強かった(産経前掲記事)。

また、この調査を含む各種世論調査の信頼性への疑問もある。
電話帳に電話番号を載せない人が増えて来た昨今は、コンピュータでランダムに電話番号を発生させて電話をかけ、個人宅にかかった場合のみ電話調査を依頼するRDD方式が採用されるようになった(産経新聞05年8月29日付朝刊1面「『そのつど支持層』急増」)。
が、平日に電話をすれば、サラリーマンは不在だから回答者は主婦や高齢者に偏るし、週末に電話をしても、平日の通勤で時間も体力も奪われる多忙な人は調査に協力しない。自民党支持者には主婦と高齢者が多く、逆に民主党支持者にはサラリーマンが多く女性が少ないので、RDD方式でも世論調査は信用できない、という意見は少なくない(05年8月31日発売の『週刊新潮』05年9月8日号「『主婦と老人』だけが答えたので『自公圧勝』になった選挙調査」)。

だいたい、世論調査をしているマスコミ自身が自社の調査を信用していない。朝日新聞は自社調査について「投票先がはっきりしない人が全体で3〜4割、無党派層ではさらに多くを占めることから、情勢はかなり流動的」と、予測がはずれた場合に備えて予防線を張っている(朝日前掲記事)。産経新聞も、選挙当日や投票所で支持政党や候補者を決めることの多い「そのつど支持層」(松本正生・埼玉大教授)と呼ばれる無党派層が最近都会で増加し、東京都内では6割にも達しているため「結局、選挙をめぐる世論調査は『接戦』や『無党派層』には弱い」と、自ら信頼性の低さを認めている(産経前掲記事)。

しかし筆者はふと、4年前、01年7月の参院選後に読んだ記事を思い出した。この選挙は「非拘束名簿式比例代表制」が導入されて初の選挙で、著名人候補者が大量得票すればその票を同じ党の比例代表候補の得票と合算して(同僚候補に分け与えて)当選者数を増やせる仕組みになっていたので、自民党の政治学者・舛添要一や民主党のタレント・大橋巨泉らが何百万票も取るのではないかと注目されていた(『週刊朝日』01年8月3日号 p.33 「“トップ当選”は舛添か巨泉か、それとも高祖…? 参院選比例区」)。が、(当時の)自民党執行部は選挙前から「100万票を超えるのは舛添だけ」と正確に予測してい(て、そのとおりになっ)た」という記事を、筆者は選挙後、たしかにどこかで読んだのだ。

当時読んでいたのは産経新聞か朝日新聞か『AERA』か『週刊朝日』だろうと思い、@niftyの「新聞・雑誌記事横断検索サービス」で調べてみたが、結局みつからなかった(読者のなかでご存知の方がおられたら、お教え頂きたい)。

とはいえ、筆者の記憶が正しければ、自民党は独自の世論調査によって、マスコミよりはるかに正確に選挙結果を予測していたことになる。となると、小泉は狂人などではなく、05年6〜7月以前から「解散すれば圧勝」という正確な情報を得て、郵政民営化法案とは無関係に、自民党の議席数を増やすための解散・総選挙を冷静にねらっていた可能性が出て来る。

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●命懸けの調査●
戦後、解散は数十回あったが、そのほとんどは自民党政権により、憲法7条(天皇の国事行為)に基いて行われた。衆議院で内閣不信任案を可決され、政権与党が追い込まれて仕方なく解散した例もあるにはあるが、与党党首である首相が「いま解散すれば与党の議席が増える」と判断して勝手に解散したほうが多い。

そういう場合、首相はマスコミの調査結果を鵜呑みにして「いま与党の支持率が高いから」などと気軽に解散するのだろうか………とんでもない。たとえば朝日新聞にとって、世論調査による選挙予測は特集記事の1つにすぎず、それがはずれたからといって、べつに朝日新聞社が潰れるわけでもない。「最近『そのつど支持層』が多いからはずれるかも」と言い訳しながら掲載してもいい程度の問題だ。が、自民党はそうは行かない。

とくに93〜94年に一時野党転落を経験して以降の自民党にとっては、事前の世論調査は死活的に重要だ。自民党は元々主義主張に基いて結束している党ではなく、単に「与党だから」存続しているにすぎない「出世主義者」の集団だ。鳩山邦夫元文相が新進党から、小池百合子現環境相が保守新党から、それぞれ選挙地盤や大臣ポストほしさに与党自民党に寝返った例を見ても、自民党の体質は明らかだ。不正確な調査に基いて間違ったタイミングで解散・総選挙に踏み切ってまた野党に落ちたら、今度こそ自民党は潰れてしまう。「いつ解散するか」は党の命運を賭けた大問題なのだ。

だから自民党は独自の世論調査をする。党の資金を使って敢えて独自に行う以上、その精度はマスコミの調査より上でなくてはならない。「主婦と高齢者しか答えない」RDD方式などに安易に頼るはずはないのだ。

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●情報を制する者が天下を制する●
ところで、民主党も党独自の世論調査をしている。小沢一郎副代表は解散後の8月22日、独自調査で民主党が劣勢なのを知ると、翌23日からTVに出演し始めた。「執行部(岡田代表)任せではとても勝てない」という判断からだ(朝日新聞Web版05年8月24日「〈追跡・政界流動〉小沢氏『表』に」)。

小沢は93年までは自民党にいた。かつては自民党幹事長として、90年の衆院選で大勝し「豪腕」の異名をとった。おそらく、その幹事長時代、小沢は独自調査の重要性を知り、マスコミより正確な調査結果を得るにはどの調査会社に頼めばいいかも知ったはずだ。

その調査はあくまで選挙に臨む政党の視点に立ったものでなくてはならない。
たとえば05年4月、読売新聞は「首相にふさわしい政治家」の世論調査を行い:

石原慎太郎都知事 30.8%
安倍晋三自民党幹事長代理 28.9%
小泉 純一郎 15.6%
田中真紀子元外相 8.4%
小沢 一郎 7.7%
菅 直人 6.0%
岡田 克也 5.1%
神崎武法公明党代表 1.4%
…………

という結果を得ているが(読売新聞05年4月24日付朝刊13面「全国世論調査」)、これは政党にとっては意味がない。
自民党が万年与党で、中小野党が乱立していた時代には、この種の調査は各党(党首)の人気投票としてそれなりに意味があった。が、03年の衆院選で民主党が177議席を得て「巨大野党」になって以降は、小選挙区(比例代表並立)制で行われる衆議院総選挙は「首相にふさわしいのは自民党の党首か民主党の党首か」を問う二者択一の「決戦投票」になったのだ。選択肢に入れるべきは小泉と岡田の2人だけで、この2人への支持率を300の小選挙区と11ブロックの比例区で個別に比較しない限り、選挙結果の予測などできない(真紀子や神崎への支持率を調べるのはカネの無駄だ)。

逆に、それがわかれば選挙結果は正確に予測できる。たしかに「そのつど支持層」の問題はあるが、彼らの浮動票が投票日の9月11日に突如すべて民主党(または自民党)に流れる、などという極端な現象は統計学的に見て起こりえないので、自民党としては投票日の2〜3か月前であっても、300小選挙区(と11ブロック)の過半数で民主党に逆転不可能な差を付けておけば(そして、投票日までに首相が重大な失言をせず、閣僚や与党幹部が汚職を摘発される恐れもないと確認できれば)解散してよい、ということになる。

そして正確な調査結果が出たら、自民党執行部(党首と幹事長)はそれを、外部はもちろん、党内部にも隠し、極秘にしなければならない。なぜなら、それは権力の源泉(拙著『龍の仮面(ペルソナ)』第5章「天子の宝剣」を参照)だからだ。

マスコミより正確な、何億円?も費用のかかった調査結果が自民党内に流出すると、予想外に当選の難しい選挙区から立候補させられると知った候補者は党執行部に反発し、収拾がつかなくなる。また、「自民党圧勝」の調査結果が流出し「必ず解散」とバレた場合はその時点から、党首(首相)に反発する非主流派(旧亀井派ら)が妨害工作を仕掛けて来る可能性がある。解散自体は憲法上阻止できないが、党首(自民党総裁)は党則に基いて党所属国会議員過半数の同意でリコール(解任)できるので、多数派工作により解散のはるか手前でそうなったかもしれない(ロイター05年7月31日付「首相が解散決断すれば両院議員総会で総裁解任手続き」)。

もし05年6月以前の党独自の世論調査で「自民党圧勝」と結果が出ていたのなら、6〜7月に「小泉は郵政法案が成立しても解散する」という説が流れたのは納得できる。自民党の山本一太参議院議員は「成立して解散することなどありえない」と断言するが(山本Web前掲記事)、それなら試しに武部に「解散前の党独自の調査結果を見たい」と頼んでみるがいい。武部は真相を隠したいので、絶対に見せないはずだ。

おそらく現党首と現幹事長以外はほとんどだれも見られないのだ。たとえば加藤紘一元幹事長は解散直後「自公で過半数獲得は微妙」(ロイター05年8月10日付)と述べているから、見ていないのは確実だ。

もしかすると小沢が自民党幹事長だった時代は、幹事長以外だれも見られなかったのかもしれない。だからこそ当時、小沢は選挙に強い、という「小沢神話」が生まれるほどの実績をあげ、絶大な権力を握れたのではあるまいか。

どの調査会社にいくら払えば信頼できるサービスを得られるか(党内にも秘密にしてもらえるか)……それを知っているのは、自民党と民主党の、ごく少数の政治家だけだろう。

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【もしかすると宮川は、週刊誌で公表する以上の情報を握っていながら、それは政党にしか売らない、ということなのか?】

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おそらく05年6月以前の独自調査で小泉と武部は「小泉対岡田の総選挙なら小泉圧勝」と知ったのだ(読売前掲記事でも、岡田は民主党支持者のあいだでも、小沢よりも菅よりも人気がないので、ある意味で当然だ)。
だから武部は郵政法案の衆議院採決前「採決に欠席した者も(反対した者と同様に)厳正に処分する」などと、自民党の欠席予定者に「どうせ処分されるなら出席して反対しよう」と思わせる(否決解散を早める)ような発言をしたのだ(読売新聞05年7月2日付朝刊4面「『郵政』反対派切り崩し」)。
だから小泉も解散後「連立与党の公認候補で過半数を取れなかったら(1議席でも下回ったら)退陣する」(ロイター05年8月29日付)などと、一見大ばくちのようなことが平然と言えたのだ。

これは「郵政解散」ではない。
「刺客騒動」も関係ない。
民主党の政策にも誤りはない。

これは運命だ。
岡田が民主党代表になった日から、すべて決まっていたのだ。

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おまけに小泉は、自分が岡田より人気があることを利用し、さらに人気を煽るために「1年後、06年9月の自民党総裁任期満了で退陣する」と言い切った(朝日新聞Web版05年8月24日「郵政選挙、解けない三つの疑問」)。おそらくこの発言以降首相官邸には「小泉さん、やめないで」というメールが殺到しているに違いない。

05年9月12日、岡田は代表を辞任する。

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【上記は筆者の「予測」であり、「期待」は一切含まれていない。】

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次回も「小泉と武部の計画的犯行(じゃなくて解散)」について分析する予定。】

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【この問題については次回以降も随時(しばしばメルマガ版の「トップ下」のコラムでも)扱う予定です(トップ下のコラムはWeb版には掲載しません)。
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 (敬称略)

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