テロとの戦いは幻想」という幻想

〜英BBC検証番組が現実のテロに敗北

Originally written: July 31, 2005(mail版)■テロの幻の幻〜週刊アカシックレコード050731■
Second update: July 31, 2005(Web版)

■テロの幻の幻〜週刊アカシックレコード050731■
米国の言う「アルカイダの脅威」「テロとの戦い」はすべて幻想であると証明する英BBCのTV番組『テロとの戦い≠フ真相』は05年1月に放送され、4月に権威ある賞を受賞したが、7月にはその内容を「無効」にする爆弾テロがロンドンで起きた。
■「テロとの戦い≠ヘ幻想」という幻想〜英BBC検証番組が現実のテロに敗北=。

■「テロとの戦いは幻想」という幻想〜英BBC検証番組が現実のテロに敗北
【前回「台湾五輪〜米国とIOCの、見えない蜜月」は → こちら
【臨時増刊「産経新聞1面に登場〜台湾『五輪招致』なら、中国が日本を応援!?」は → こちら

イスラム原理主義過激派の世界的なテロリスト組織のネットワーク「アルカイダ」は存在せず、それを倒すための、米国政府(ブッシュ現政権)の言う「テロとの戦い」はすべて幻想である………このように断定する「過激な」史実検証番組が、05年1月18〜20日、3夜連続で英BBC(BBC2)から放送された。

この番組は『The Power of Nightmares』(I: Baby It's Cold Outside、II: The Phantom Victory、III: The Shadows In The Cave)という3回シリーズで、05年4月17日、英国のアカデミー賞とも言うべき the British Academy of Film and Television Arts (BAFTA)でシリーズドキュメンタリー部門賞を受賞した(British Academy Television Awards Press Release, 14 April 2005 )。

日本ではNHK-BS1で05年6月5日に『“テロとの戦い”の真相』((1)イスラム過激派とアメリカネオコン、(2)アフガン戦争 幻の勝利、(3)幻のテロ組織を追って)という題で3本まとめて放送され、6月25日にも再放送された(NHK Web 05年6月5日「今週の主な番組」)。

【筆者はネオコンという用語に賛成しない。べつにネオコンという名の「悪の秘密結社」があるわけではない。アルカイダと同様に、その、組織としての存在は幻想だ。またネオコン(新しい保守、Neo-conservative)といいながら、その起源は1950年代と古く、主義主張も「『自由の敵』に対して国民は団結せよ」などと古めかしいので「古い保守」(オールドコン)「保守的な保守」(コンコン?)と呼ぶほうがふさわしい。が、この番組では、ラムズフェルド国防長官、チェイニー副大統領、ウォルフォウィッツ前国防副長官(現世界銀行総裁)、パール前国防政策委員長らブッシュ米政権の主要メンバーをネオコンと定義している。】

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●テロとの戦い≠フ真相
この番組は以下のように証拠(証言)を挙げて主張する:

#01: オサマ・ビンラディンは確固とした組織を持たない(PRビデオに映った、彼を取り巻く大勢の兵士は、臨時雇いのエキストラ)

#02: 98年8月7日の「在ケニア/在タンザニア米大使館同時爆破事件」の犯人として、実行犯でないビンラディンを起訴する(欠席裁判にかける)ために、01年1月、米司法当局は、昔ビンラディンと行動をともにしていたスーダン人ジャマル・アルファドルの「ビンラディンを頂点とする、彼が名付けたアルカイダという強固な組織がある」という証言を採用

#03: アルファドルの証言を根拠に、米司法当局はアルカイダをマフィアのような犯罪組織と認定。「以後、ビンラディンが声明を出した事件にかかわった者はだれでも簡単に起訴できるようになった」(大使館爆破事件弁護人サム・シュミット)

#04: しかしアルファドルは莫大な報酬と引き換えに偽証していた(『アルカイダ』の著者ジェイソン・バーク)

#05: ビンラディンが01年の米中枢同時テロ(9.11)以前に、大使館爆破事件の犯行グループをアルカイダと呼んだ証拠はない

#06: 「9.11」はビンラディンではなく、パキスタン系クウェート人ハリド・シェイク・ムハンマドが立てた作戦(ビンラディンは資金提供と実行犯の人選のみ)

#07: しかし9.11のせいで「アルカイダは強大」という神話が生まれ、以前からそう主張していたネオコンが米政権内で権力を掌握

#08: しかし「9.11以後にテロ容疑で起訴されたグループが米国内でテロを計画していたという証拠は一切挙がっていない」(デビッド・コール米ジョージタウン大教授)

#09: 英国でも、9.11以後テロ取り締まりで逮捕された664人のうち、アルカイダのメンバーとして有罪判決を受けた者はいない(テロ対策法で有罪となった者の多くは、北アイルランドのアルスター義勇軍やアイルランド共和軍IRAのメンバー)

#10: 「テロネットワークは存在しない。それはわれわれの幻想が生み出したもの。社会全体が大騒ぎするほど根拠のある話ではない」(英キングズカレッジ安全保障分析センターの研究者ビル・デュロディ)

#11: 英エジンバラ爆破計画の「証拠の地図」は、観光名所をマーキングした旅行者の忘れ物

#12: 英国内で「テロリスト訓練学校を経営」の容疑者は、スーパーの警備員1人に護身術を教えていただけ

#13: 毒ガスを使った「ロンドン地下鉄テロ計画」も杞憂

#14: ゆえにブレア現英政権が「予防原則」(証拠がないからといって脅威がないことにはならないので、容疑立証の前でもテロ予防行動をとる)を掲げて、疑わしい外国人を予防拘禁しているのは無駄だし、英上院の判断では欧州人権条約違反

#15: しかし予防原則は証拠を必要としないので、国民からは異論が出ない

#16: 予防原則のもとでは、もっとも恐ろしい幻想を示した者(ネオコン、米英現政権)がもっとも大きな影響力(権力)を持つことになる

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●英BBCの「敗北」●
かなり説得力のある史実検証番組だ。だからこそBAFTAも受賞した。

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【#01〜#10のような「(極端な言い方をすれば)アルカイダは存在しない」という意見はほかにもある。フランス国立東洋言語文化学院のナディーヌ・ピコドゥ教授は「(アルカイダという名の)過激な行動をとりうる者のリストがあり、そこから選ばれてテロを実行すると、アルカイダの犯行、ということになる。他のイスラム過激派組織もみな強固な一枚岩ではなく、数え切れないほどの組織があって、それぞれがある指導者に忠誠を誓っては撤回する、ということを繰り返している」と言う(05年7月14日放送のNHK-BS1『ザルカウィ・イラク武装勢力リーダーの実像』仏アルティクルZ 05年制作)。】

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が、注目すべきは「#13」だ。まるで、このBBCの番組の内容、とくに「地下鉄テロは杞憂」という指摘を嘲笑うかのように、05年7月7日、ロンドンの地下鉄など計4か所で同時爆破テロが発生し、数百人の死傷者が出たからだ。この瞬間をもって『The Power of Nightmares』の「賞味期限」は切れた。

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【この爆弾テロの実行犯4人は全員、地下鉄やバスの車中で大勢の乗客とともに爆死しているので、一見「自爆テロ」に見えるが、4人ともロンドン北郊ルートンの駅で地下鉄の往復切符を購入している。4人は「爆弾を車中に置いて(一定の時間内に)帰って来い」と命令されてだまされ、首謀者の遠隔操作ですぐに爆弾を爆破されて「口封じ」のために殺された疑いが濃厚だ(英デイリーミラー紙05年7月16日付、読売新聞Web版05年7月17日「英同時テロ 実行犯4人の自爆、謀られた可能性も 往復切符購入」 英サンデーテレグラフ紙05年7月17日付)。】

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実は、この番組はNHK-BS1では05年7月28日にも全編再々放送される予定だった。少なくとも産経新聞05年7月24日付朝刊TV CLIPと、扶桑社『月刊TVnavi』05年9月号(7.28-8.31、7月下旬発売)、それに7月25日まではNHKのWeb番組表にもそう書いてあった。が、その後、この再々放送は急遽中止された。

この放送中止を「米国のテロとの戦い≠ノ賛同する自民党の政治家の、NHKへの『番組改変圧力』の結果だ!」などと勘ぐってはいけない(小誌05年2月10日「NHK番組改変問題の深層」)。圧力を受けるまでもなく、NHKの良識として、7月7日以降は、この「時代遅れ」の番組を放送すべきでないと判断するのは当然なのだから。

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【しかし、それでもご覧になりたい方は「NHKへのご意見・お問い合わせ」のコーナー にメールを出すか、0570-066-066に電話をかけて、再々放送をリクエストして頂きたい。尚、こちらで番組の動画と視聴者のコメントが見られるが、すべて英語(7月7日のテロのあとも、無責任に番組礼賛を続ける者たちの「人命軽視」コメントにはほとほと呆れる)。】

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●思い上がるな●
上記BBC番組の日本語版を担当したNHKスタッフの方々はもうお気付きだろうが、もしNHKが「アルカイダの脅威は虚構だ」と立証する番組を放送して高い評価を得れば、たぶん日本国内でもロンドンで起きたようなテロが起きる(証拠の有無は問題ではない。関連性を示す証拠がなくても、NHKが日英のテロの関連性を疑えば「関連がある」ことになるのだ)。

そして、それが起きた瞬間から日本でも「テロとの戦い≠ヘ幻想」と主張するTV番組こそすべて幻想となる。だから、もはや米国とその同盟国の国民には「テロとの戦い」を現実のものとして、(たとえ言葉だけでも)それを支持し続ける以外に道はない。

だから日本のTV局の皆さん、人の命が大事だと思うなら、安っぽい正義感に駆られて、軽々しく超大国の国家戦略を否定するような、思い上がった番組を放送するのは、どうかやめて頂きたい。やめれば日本は安全だ。

番組のせいで人が死ぬことはあるが、番組が人命を救うことなどない。「テロとの戦い」を止められる報道番組などありえない。

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【地球の反対側で、日本の同盟国がテロとの戦い≠フ名のもとにどんな悪事?を為そうが、日本の国益にはなんの関係もないのだから、元々番組で非難する必要もないはずだ。同じく地球の反対側の、スーダンのダルフールでアラブ系住民がアフリカ系住民を大虐殺していることに日本国民はほとんど関心がないのだから、米イラク戦争の問題点を無視することぐらい、どうということはなかろう。それなのに、なぜか日本(や英国)のマスコミには「米国が悪者」のときだけ過剰に批判報道をしたがる、偏向した性癖があるようだ。】

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02年6月14日の日韓共催ワールドカップ(W杯)サッカー本大会予選リーグ「韓国対ポルトガル」戦では、全世界注視のTV生中継中に、異例の「レッドカード2枚」という不正判定が行われて、ポルトガルチームが韓国より2人少ない状態になり、韓国が不正に勝利して決勝トーナメント進出を決めた(小誌02年6月13日の、試合前日の予測記事「●いまこそ『奥の手』を〜審判に『期待』」を参照)。この大会では、韓国はその後も何度も不正判定に助けられてベスト4になったが、日韓の大手マスコミはこの不正をタブー視し、3年後のこんにち(05年)に至るまで一切追及していない。

しかし、このベスト4の「好成績」を根拠に、06年独W杯サッカー本大会では、アジア諸国の出場枠が4.5か国に拡大された。このため他のアジア諸国も「事後共犯」となり、上記の韓国の不正について沈黙を守った。

また05年6月、この出場枠を使って日韓が06年本大会出場を決めたことで、W杯を主催する国際サッカー連盟(FIFA)がソニー、現代自動車など日韓の一流企業を公式スポンサーに迎えて収益をあげるなら、FIFAも事後共犯になるため、当然、上記の不正に関しては沈黙する。

このように国家的、国際的な、大きなウソ、というものは、その虚構性がどんなに明白でも、ウソが大きな利益を産む構造になっているので、永遠に暴かれることも糾弾されることもない(上記の韓国の不正な勝利を糾弾しなかったジャーナリストにはテロとの戦い≠フ虚構を追求する資格はない)。

おそらく今後、「テロとの戦い≠ヘ幻想」と説く、影響力の大きな者の近くでは必ず、ほんものの悲惨なテロが起きるだろう。もはや「幻想はいつでも現実に変わりうる」とみなして差し支えあるまい。現に、7月7日の爆弾テロ後、英議会下院では、このテロの実行犯、イスラム過激派(のテロ組織?)の存在を急に「現実」としてとらえ直し、(英上院の反対を無視して)テロ対策法を「予防原則」に則って改正強化することに与野党が合意した(産経新聞Web版05年7月20日「英『新テロ法』に合意 扇動者も訴追対象 与野党」によると、政府の改正案では「軍事キャンプで訓練を受けた者やテロを扇動する言動を行った者も訴追」できるという)。

もしもこの番組『The Power of Nightmares』が言うようにネオコンが凶悪な権力を持っているのなら、番組の内容を全否定するテロをイスラム過激派の犯行に見せかけて引き起こすぐらいの工作能力は、当然あるはずではないか。(ネオコンの頭の中ではなく)この番組制作者の頭の中は、完全に矛盾している。

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●ロンドン五輪●
ところで、89年の天安門虐殺事件以降、人権問題を理由に欧州連合(EU)は対中国武器禁輸措置をとっていたが、04年から、EUの盟主フランスは、外貨稼ぎを目的にそれを解除したいと主張し始めた。が、「そんなことをすれば、中国の軍拡が進んで台湾や日本への脅威が増す」という安全保障上の理由で米国は強く反対し、英国もそれに同調して解除には消極的だった(産経新聞04年8月15日付朝刊5面「EUの対中武器輸出解禁 米政府、懸念強める」朝日新聞Web版05年06月18日「EU、対中武器禁輸解除を先送り 首脳会議」)。

そんな中、05年7月6日の国際オリンピック委員会(IOC)総会では、12年の五輪開催地を決める、IOC委員による決選投票が行われた。英国はロンドンを候補都市に立て、スペインの候補都市マドリードと組んで「反パリ包囲網」を形成し、最大のライバル、フランスのパリに競り勝って開催権を得た(朝日新聞05年7月7日付朝刊2面「時時刻刻 豪華合戦、大揺れ決着 2012年の五輪はロンドン」)。大本命パリの落選で、フランスの国家的威信はまるで「制裁」を受けたかのように傷付き、シラク仏大統領は、残り任期2年間、完全に「死に体」になったとさえ言われた(共同通信05年7月6日付「仏大統領に打撃 人気挽回の賭けに失敗」)。

もしロンドン爆破テロが1日ずれて7月6日に起きていたら当然、テロの懸念からロンドンが落選し、下馬評どおりパリが当選していたはずだ。が、それでは、カネほしさに米国のアジア防衛政策を犠牲にしようとしたフランスに褒美を与える形になってしまう。

したがって、ロンドン同時爆破テロが、ロンドン五輪決定の翌日に行われたのは、米国(いわゆるネオコン?)の立場から言えば、至極当然なのだ。

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次回は永田町の政局次第ですが「可決して総辞職」の予定。】

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【この問題については次回以降も随時(しばしばメルマガ版の「トップ下」のコラムでも)扱う予定です(トップ下のコラムはWeb版には掲載しません)。
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 (敬称略)

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