台湾五輪

〜米国とIOCの、見えない蜜月〜

Originally written: July 14, 2005(mail版)■台湾五輪〜週刊アカシックレコード050714■
Second update: July 14, 2005(Web版)

■台湾五輪〜週刊アカシックレコード050714■
台湾に五輪を招致する動きがあり、実現すれば、米国はそれを利用して台湾の中国に対する独立と安全を確立できる。これには、ソウル五輪を利用して韓国の安全を確立した先例がある。
■台湾五輪〜米国とIOCの、見えない蜜月■

■台湾五輪〜米国とIOCの、見えない蜜月■
【前回「地デジ vs. 堤義明〜シリーズ『2011年のTV』(3)」は → こちら

05年7月6日、12年夏季五輪開催地がロンドンに決まった日、台湾(中華民国)の謝長廷首相(行政院長)は20年夏季五輪を台湾に招致する考えがあると表明した。

台湾は実質的には独立国だが、中国(中華人民共和国)から「自国の領土」とみなされているので、その意味で「分断国家」の片割れである。中国は、台湾独立が国際的に既成事実化するのを恐れて、国際スポーツ界に圧力をかけて来たため、五輪のような重要なイベントが台湾で開催されることは一度もなかった。

が、空手、カヌーなど五輪に参加していない競技の世界大会ワールドゲームス(WG)を09年に台湾第2の都市・高雄で開催することがすでに決まっている。謝首相は記者団の前で、WGのための施設を五輪に転用できる利点を強調した(中日新聞05年7月7日付朝刊4面「2020年五輪台湾で」)。

他方「2020年はアジアの年」とみなして東京への五輪招致をめざす動きが日本国内にある。(夏季)五輪は5大陸持ちまわりが原則なので「08年がアジア(北京)、12年が欧州(ロンドン)なら16年は北米、20年はアジア」というヨミだ。夏季五輪はいまや世界の200か国・地域から選手だけで1万人、コーチ、報道陣、観光客などをあわせるとのべ数十万人が集まる巨大イベントなので、開催決定前から元々ホテルや交通機関が充実していて、政府がテロ対策のための膨大な警備費を支出できる先進国の大都市でなければ開催不可能と見られている(産経新聞05年7月7日付朝刊3面「『大都市化』の流れ」)。こうした五輪の現実を踏まえれば、日本の大都市が20年五輪に立候補するのは義務とさえ言える。

日本オリンピック委員会(JOC)にも、昨04年アテネ五輪で史上最多の37個のメダルを獲得し、08年北京五輪用の選手強化施設(ナショナルトレーニングセンター)の建設が決まったこの時機に「スポーツ大国化」への流れを加速させたい思惑がある。竹田恒和JOC会長も「一度の立候補では難しい。20年大会の招致を目指すには、16年に名乗りを上げておくことが重要」と意欲を見せる(産経新聞05年7月7日付朝刊15面「さあ『2020 TOKYO』」)。

となると、東京(または福岡など日本の都市)とまったく同じ理由で、高雄(などの台湾の都市)も16年五輪招致をめざして立候補する必要がある。もし何かのはずみで東京が16年五輪開催地に決まってしまうと、5大陸持ちまわりが原則の(夏季)五輪は、当分アジアにはまわって来ないからだ。幸いにWG開催を通じて施設整備や警備ノウハウの蓄積も進むので……とここまで書いて来て、筆者は気が付いた。これは、88年ソウル五輪開催を決めた80〜81年と同じことが08〜09年に起きる、ということではないか。

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●ソウルの先例●
韓国も台湾と同様に分断国家であり、北朝鮮から「自国の領土」とみなされていたため、独立以来30年以上の間、五輪を開催できずにいた。

が、韓国は五輪につながるイベントとしてまず86年アジア大会をソウルに招致することに成功し、そのための施設整備に着手した。そして「将来アジア大会の施設を転用して五輪も開こう」と夢見ていたところ、88年夏季五輪招致を目指して名古屋が立候補することが明らかになった。

「5大陸持ちまわり」のため、もし88年五輪を名古屋が獲得してしまうと、20世紀中の韓国での五輪開催は不可能になる。かくして韓国は国際大会開催経験が乏しく「時期尚早」なのは百も承知で「アジア大会の施設が利用できる」ことをセールスポイントに招致合戦に参戦せざるをえなくなった。

もちろん北朝鮮は猛反発し、名古屋対ソウルの一騎打ちとなった81年国際オリンピック委員会(IOC)総会の決選投票では「名古屋に入れてくれ」と友好関係にある社会主義諸国(中国、ソ連、東欧諸国)に陳情してまわった。

が、結局、大方の予想を覆してソウルが88年の五輪開催を勝ち取った。このため、いままで韓国と国交を持たず、「朝鮮半島に存在する国家は北朝鮮だけ」と韓国の存在すら認めていなかった中ソを含む社会主義諸国の大半がソウル五輪に参加し、かつそれを機に韓国と国交を樹立し、(かつ、日米など、韓国を承認し北朝鮮を承認しない西側主要国の大半が、両国との関係を変えなかったため)国際政治力学上、韓国の北朝鮮に対する優位が確定した。

北朝鮮はソウル五輪妨害のために87年に大韓航空機爆破テロを起こしたので、軍事侵攻も懸念されたが、五輪開催中は米軍の空母が日本海で軍事演習を行って北朝鮮軍を威嚇したため、北朝鮮は切歯扼腕するほかなかった。

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●2008年決戦●
16年五輪の開催地を決めるIOC総会は09年に開かれるが、その決選投票に出たい都市は、その前年08年2月頃までにIOCに立候補を届け出なければならない。

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【IOCは国または地域がNOC(国内五輪委員会)を持つことを認めており、中国、香港、台湾のNOCは対等なので、台湾の都市は台湾NOC(中国台北五輪委員会)の許可があれば、中国NOCの許可がなくても立候補できる。】

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台湾では07年12月に国会議員(立法委員)選挙、08年3月に大統領(総統)選挙がある。05年現在、台湾政界では「独立派」の民主進歩党(民進党)が政府(大統領職と大統領任命の首相職)を支配し、国会(立法院)でも第一党だが、同じく独立派の政党・台湾団結連盟(台連)とあわせても過半数には達しない。国会では反独立(親中国)派(国民党と親民党)が多数派を占めている。

他方、08年8月には北京五輪が開幕するので、その時点で独立派が政府や国会を支配していれば、開幕日に「独立宣言」をすることができる。

「台湾が独立を宣言したら武力を行使し、北京五輪を返上してでも独立を阻止する」という趣旨のメッセージを中国政府は発しているが(小誌05年4月30日「北京五輪返上?」)、もし五輪期間中に中国と台湾の間にある台湾海峡(国際法上の公海)で米空母が(88年と同様に)軍事演習を行えば、中国政府はその意志とは無関係に、物理的に台湾を攻撃できないので、その場合は北京五輪はそのまま開催される。

中国政府は「(日米などの支援を得て)台湾が独立すると、中国の国民感情が傷付く」とも表明しているので(小誌前掲記事)米軍の演習中に台湾が独立を宣言したら、たとえ米国が台湾の独立を承認しなくても、中国国民は深く傷付いて荒れ狂い、米国大使館や台湾から来た五輪選手団に対してデモや暴動を起こすはずだ。

が、05年4月の、日本大使館などに対する反日デモ・暴動の激化が国際的非難を浴びたため、中国政府は北京五輪開催中はその種の騒動を起こさせない厳戒態勢を敷き、国の威信を保とうとするはずだ。だから、五輪開催中の17日間騒動は起きず、また、騒動が起きていないことが、五輪のために世界中から集まったテレビカメラによって全世界に生中継されることになる。

かくして世界はTVを通じて、台湾が独立宣言をしても中国の国民感情が「傷付いていない」ことを知ることになる。五輪が終われば、世界各国がぞくぞくと「独立台湾」への国家承認を表明するはずだ。

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【この場合、米国は最初の承認国になる必要はない。何十か国もの中小国に先に承認させ、十分に既成事実が積み上がったあとに「国際情勢が変わった」という理由(民法の事情変更の原則)で台湾を承認すれば、台湾独立を認めないとする78年の米中共同コミュニケなどには違反しない。】

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この「台湾独立作戦」が成功するには、米国側が88年のレーガン共和党政権と同様の、反共自由主義(親台湾派)政権である必要があるが、08年まではブッシュ現共和党政権が続くので、この点は問題ない。

他方、台湾側は07年12月の立法院選と08年3月の総統選で独立派(民進党と台連)が勝っている必要がある。
そこで、これらの選挙の際に、台湾国民の独立心や反中国感情が高まっていることが、独立派には望ましい。

幸いに、06年末までに日本の都市が16年五輪へ向けて立候補を表明するので(産経前掲記事)、それに合わせて台湾の都市も立候補を表明し、それを台湾の民進党現政権が支援すると表明すれば、台湾国民の愛国心はおおいに高まるはずだ。

台湾の都市が五輪に立候補すれば当然「台湾独立につながる」と中国が反発する。国民党や親民党はそれを理由に五輪招致に反対することもできるが、そんなことを言えば「愛国心がない」と台湾国民の反感を買い、選挙で負ける。台湾の国際的地位を高めることには超党派の国民的合意があるからだ。

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【高雄では民進党の謝首相が以前市長を務めており、他方、首都台北では国民党の馬英九が現市長なので、立候補するのはたぶん高雄だ。】

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五輪開催時の開催国名が「中華民国」か「台湾共和国」か、という問題もあるにはある。が、五輪開催権は国家ではなく都市に与えられるので、IOCとしては国名はどちらでもかまわない。だから、台湾独立と五輪招致は関係ない、ということにして国際スポーツ界における中国の反対に反論しつつ、民進党政権は高雄などを五輪に立候補させて台湾国民の愛国心(独立心)を高めれば、07〜08年の2つの選挙戦を有利に展開できる。

民進党にとって「五輪招致」という争点の最大のメリットは、独立問題にひとことも言及せずに、事実上の独立を主張できる点にある。

しかし、このような五輪の「政治化」をIOCが望むだろうか?

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●原点はロス五輪●
心配ない。実はIOCは84年以降、米国の世界戦略に忠実なのだ。
76年モントリオール五輪組織委員会が赤字で倒産し、従来の「スポーツ貴族」による五輪運営が行き詰まる中、77年に開催の決まった84年ロス五輪は、「公式スポンサー」を導入し商業化路線に踏み切ることで資金を調達して乗り切った。

このロス五輪は、ソ連、東欧など東側社会主義諸国の大半が不参加だった(中国は参加)。この理由は、マスコミではいまだに謎とされている。五輪でメダルを取ることを国威発揚の手段とする東側諸国にはボイコットする動機がない、というのだ。

が、注意深く五輪中継を見ていた者には、理由は明白だ。はっきり言おう。もしソ連・東欧諸国がロス五輪に参加していたら、メダル獲得どころか「ボロ負け」していたはずなのだ。

当時、日本で五輪中継を見ていた方はご記憶だろう、体操の審判が異常だったことを。
日本チームが「着地さえ決まれば、なんでも10点満点か」とあきれたほど異常判定が続出し、米国男子体操チームは(当時、世界選手権で8位ぐらいの実力しかなかったのに)当時世界トップクラスの中国や日本を押さえて、団体で金メダルを獲得してしまったのだ。

異常判定はボクシングでもあった。とにかくKOされない限り、米国選手は(どんなに劣勢でも)判定では絶対に負けなかったので、出場したほとんどすべての階級で米国に敗れた韓国チームは再三審判に抗議した………体操とボクシングの審判は明らかに買収されていた。

では、ほかの競技はどうかというと、凄まじいドーピング検査態勢が敷かれていた。それまでの五輪におけるソ連・東欧勢の、陸上競技や水泳や重量挙げやレスリングの好成績は実力によるものではなく、国を挙げてのスポーツ医学研究、つまりドーピングによるものだったので、米国はこれらの競技で不正な薬物使用を摘発するための検査技術をロス五輪に向けて開発していた(その証拠に、88年のソウル五輪では、カナダの陸上男子100メートル選手ベン・ジョンソンや、東欧の重量挙げ、レスリングの選手など、米国以外の一流選手が次々に摘発されて失格している。ベン・ジョンソンはロス五輪には参加していたが、まだ金メダルを取るためのドーピングを始めておらず、銅メダルに終わっていた)。

ソ連・東欧諸国にとってロス五輪は国威発揚の場ではなかった。もし参加していたら、体操、ボクシングでは米国に敗れ、陸上や水泳ではドーピング検査でメダル剥奪の憂き目に遭う「惨敗五輪」になるはずだった。ソ連・東欧諸国は五輪開催の数か月前にこのに気付き、直前としては異例の、理由を明示しないボイコットに踏み切ったのだ。

米国がそこまでして、ソ連とその同盟国を惨敗させようとした背景には、70年代初頭からソ連が西欧を侵攻できるほどの大軍拡に走り、五輪での国威発揚をそのまま戦争に利用しようとしていたことがある(倉前盛通『新悪の論理』日本工業新聞社85年刊 p.p 182-183)。米国はロス五輪で東側選手団を「返り討ち」にして恥をかかせようとしたが、ボイコットで難を逃れたソ連はかろうじてメンツを保ち、逆に西側のマスコミや市民運動を操って(買収して?)「反核運動」を起こし、ソ連の軍拡に対抗して米国が西欧に導入しようとしていた欧州中距離核ミサイル(INF)の配備を妨害しようとした(が、結局INFは米国の思惑通り配備され、西側との軍拡競争で経済的に疲弊したソ連は崩壊した)。

ロス五輪において、米国の、これほど重大な防衛戦略を理解し、積極的に協力したのはIOC………ではない。政治的素人の「スポーツ貴族」集団にはそんな能力はない。

そもそもロス五輪が開催できたのは公式スポンサーのお陰だ。そして、松下電器、富士フイルム、キヤノン、ブラザー工業などの一流企業をスポンサーとして集めて来たのは、日本の大手広告代理店A社だった(小誌05年5月19日「2011年のTV〜W杯・五輪で勢力図一変」)。

A社はただの広告会社ではない。A社傘下のシンクタンクには中央官庁から高級官僚が天下っており、A社は直接間接に日本の政官界と接点を持っている。当然、日本の同盟国・米国の動向にも敏感だ。

IOCは東西両陣営に対して中立な国際機関なので、米国が直接支配するわけには行かない。そこで、IOCの財政をA社に支配させ、そのA社に、滞米経験のある日本の官僚OBを通じて働きかけることで、米国はその世界戦略にIOCを利用する態勢を確立したのだ。

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●八百長●
88年五輪開催地決定に際しては、米国とA社は韓国の北朝鮮に対する安全保障を確立するため、決選投票にはわざと、国家的支援のない名古屋と国家的支援のあるソウルとを残し、名古屋を負けさせてソウルを勝たせた。

08年五輪開催地決定に際しては、米国とA社は台湾の中国に対する安全保障を確立するため、決選投票にはわざと、国家的支援のない大阪と国家的支援のある北京とを残し、大阪を負けさせて北京を勝たせた。

したがって、16年(20年)五輪開催地決定に際しても、米国とA社は、台湾の安全を未来永劫保障するための「仕上げ」として、みたび日本の候補都市を負けさせるはずである。

「A社は日本の企業だから、金儲けのために日本開催を望むはず」などというのは、素人や一兵卒の考えだ。日本開催で一時的に得られるはした金より、五輪を恒久的に支配することで得られる利益のほうがはるかに大きいので、また、日本企業が五輪を支配していることが露見し国際的反感を買うのを防ぎたいので、A社はけっして「愛国的」には行動しない。

A社の経営者は政治家よりはるかに政治的で、日本の政治家のだれよりも深く米国の軍事戦略を理解している。そうでなければ、非白人国の一企業が五輪をまるごと「支配する」ことなどできるわけがない(小誌05年5月30日「読売の抵抗〜シリーズ『2011年のTV』(2)」)。

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次回は「可決して総辞職」か「パリ五輪落選の真相」の予定。】

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 (敬称略)

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