〜シリーズ「年金政局」〜

クーデター

〜付・「首相も未納?」〜

Originally Written: May 12, 2004(mail版)■クーデター〜年金政局■
Second Update: May 12, 2004(Web版)

■クーデター〜年金政局■
民主党の鳩山由紀夫・前代表は本人の、菅直人・現代表は息子の、国民年金「未納」問題をそれぞれ抱えていることを、民主党の若手の一部と小沢一郎・代表代行は02年から知っていた。彼らは02年に由紀夫を、04年に菅を、それぞれ葬ることに成功した(「首相も未納?」は末尾)。
■クーデター〜年金政局■

■クーデター〜年金政局■
【blog版臨時増刊「『辞める』と言えない理由」から続く。】
【前回のメルマガ「事情聴取の差」は → こちら

04年5月、民主党の菅直人代表(党首)は、自らの国民年金(保険料)未納(正確には厚相時代の96年1〜10月に「未加入」)問題を追及されつつ、マスコミで「年金制度一元化に道筋を付けたい」と訴えつつ辞任を表明した。

が、民主党代表は1年半前にも似たようなことを言っていた。鳩山由紀夫前代表は、代表選再選後の人事で、代表選への立候補を途中でやめて由紀夫支持にまわった中野寛成副代表(当時)を幹事長に抜擢したことが「露骨な論功行賞人事」と民主党の若手幹部の反発を買った。それに、菅直人らが同調し、四面楚歌になっていたのだ。

そんな中、由紀夫は「なんとか民主党と自由党の合併に道筋を付け(てから代表を辞め)たい」と奔走したが、肝心の小沢一郎・自由党党首(当時)に無視されたため、「道筋」を付けられないまま、みじめに代表の座を追われた。

由紀夫退陣のとき、菅直人は「いじめる側」にまわって、自身は02年12月の両院議員総会で代表に選出されたが、04年5月には一転して「いじめられる側」にまわっている。

奇妙な話だ。02年9月に民主党は正規の手続きで由紀夫を代表に再選させたのに、その任期(04年9月まで)が完了しないうちに二度も異常な「代表降ろし」が起きている。

カギは民主党の、野田佳彦・国対委員長らの若手幹部だ。彼らは、前回も今回も大先輩の代表を「いじめる側」にまわっており、しかもその動きは常に、部分的間接的にせよ小沢(現民主党代表代行)の支持を受けている(blog版臨時増刊「『辞める』と言えない理由」)。

この2年間の民主党の党内政局は、若手による「鳩菅」大先輩追い落としのクーデター、ないし、小沢による民主党の「乗っ取り」に見える。2人の代表が相次いで不正常に失脚したのが、若手と小沢の陰謀なのかどうか、は彼らが事前に何を知っていたかによる。

●年金政局●
以下はこの2年間の民主党の大事件である:

02年09月:民主党代表選
03年09月:民主党が自由党を吸収合併
03年11月:衆議院議員総選挙
04年01〜06月:年金国会
04年07月:参院選

このうち総選挙は、小泉首相がいつ解散権を行使するかによって変わるとはいえ、衆議院議員の任期が最長4年と憲法で決まっている以上、遅くとも04年夏までにあることは事前にわかっていた。

また、04年通常国会で年金制度改革が重要な争点になり「年金国会」とでも言うべき状況になることも予測可能だった。なぜなら、年金制度は5年に1回大改訂(財政再計算)をすることが決まっており、04年がその年にあたるからだ。

とすれば、民主党の若手や、民主党との合併をめざす小沢一郎・自由党党首(02年当時)は、こう考えたに違いない:

「03〜04年の選挙に向かって、04年の『年金国会』で政府・与党の年金政策の不備を追及して選挙に勝ち、政権を取ろう」

彼らに政権を取る気があるのなら、年金問題を念頭に置いて02年9月の代表選に臨み、03年の「民・由合併」を進めたはずだ。

●由紀夫の未納●
02年8月、野田、前原誠司、河村たかし、松沢成文(現神奈川県知事)の4衆議院議員は「鳩山(由紀夫)代表には、党首討論のとき小泉首相に対して迫力がない」などと意味不明の理由で、代表選への出馬(由紀夫降ろし)を表明した(産経新聞02年8月2日付朝刊4面)。

この代表選の時点でも、また由紀夫が再選されたでも、この「若手4人組」が、どうして「由紀夫代表」を毛嫌いするのか、当時の筆者には容易にはわからなかった。そこで仕方なく「由紀夫は頭が悪いと思われているから」と結論付けた(小誌「反鳩山クーデター」)。

が、04年の年金国会で小泉政権閣僚の「未納」問題が発覚し、それを菅直人が糾弾(前原の盟友、枝野幸男・民主党政調会長は閣僚に辞任を要求)したことですべてわかった。「若手4人組」は、02年8〜9月の時点で、由紀夫に「未納」があることを知っていたのだ。
由紀夫はのちに告白している:

「私が国民年金を払っていなかったことに気づいたのは平成9年(97年)でした。確か、その当時の社会保険庁長官にお伺いをし、調査をしていただき、議員になってから国民年金に入っていなかったことが分かりました。それまで私は年金に疎く(中略)議員が、議員年金と国民年金の双方に加入しなくてはならないとは、恥ずかしながら、存じなかったのです」(由紀夫のWeb 04年4月29日)。

この時点で由紀夫の「未納」が民主党内周知の事実となったことは、想像に難くない。遅くとも02年9月の時点で「若手4人組」はこのことを知っていたはずだ。なぜなら4人組のなかに河村たかしがいるからだ。

●河村たかし●
河村は年金問題の専門家だ。彼は03年2月の時点ですでに、国会議員だけが過剰に優遇されている「議員年金」制度の廃止を訴えているから(産経新聞03年02月12日付朝刊4面)……まさか国会議員の総スカンを食いかねない政策を(田中真紀子元外相ならともかく)「思い付き」で言うはずはないから……少なくともその前年、02年には年金制度全体について相当に研究し、自身の年金納付状況も確認していたはずだ(が、02年中は代表選で同僚議員の支持を得る必要があるので、民主党でも、だれも議員年金廃止とは言いようがなかった)。

「若手4人組」は02年8〜9月頃は「自分たち世代の代表選候補を一本化しよう」などと頻繁に話し合っていたから、おそらくその時点で、河村は他の3人に「おみゃー、自分の年金、確認したほうがええがや」と名古屋弁で言っているはずだ。
(^_^;)
おそらく河村はかなり以前から年金制度を研究し、由紀夫ら党幹部の年金状況も本人に聞くなどして調べたはずだ。由紀夫は97年の時点で自分の「未納」を知っていたのだから、河村の問い合わせにあっさり答えたと推定される。

が、それでは困る。そのまま04年9月の任期満了まで由紀夫を代表にしておくと、年金国会の最中に由紀夫がバカ正直に「実は私は年金に疎く…」などと告白しかねない。それでは民主党は、政府・与党が(官僚の言いなりで)守ろうとする年金制度の不備を追求する際迫力を欠き、与野党対決の構図は作れず、衆参両院の選挙で勝つのは困難だ。

なんとしても由紀夫だけは引きずり降ろしておかないと、党が沈没してしまう。かといって河村らは02年の時点では「由紀夫代表は実は『未納』なんで、代表を辞めてほしい」などと、党の恥をさらすようなことは言えない。だから、4人組は仕方なく「党首討論のとき迫力がない」「論功行賞はケシカラン」などと言いがかりを付けて由紀夫を葬ったのだ。

●小沢はシロ●
ちなみに、02年当時から民主党の「合併相手」とされていた自由党の小沢に年金の未納がないことは、当時から確実だった。なぜなら、小沢も河村並みに年金に詳しいからだ。93年に100万部の大ベストセラーになった小沢の著書『日本改造計画』(講談社93年刊 p.p236-242)にはすでに、年金制度への彼の見識が十分に表れている。

かつて80年代「リクルート社関連企業(リクルートコスモス)の未公開株の譲渡を受けて(当時は違法ではなかったが)株公開後の値上がりで差益を得て『濡れ手で粟』のボロ儲けをしたのはケシカラン」とマスコミと野党が自民党の政治家や高級官僚たちを「魔女狩り」のように追求したことがある。この過程で、有能な政治家多数が第一線を退いたが、当時自民党国会議員だった小沢はこれを生き延び、党内で権力を確立した。

少なくとも02年の時点で、河村らの若手と小沢は、年金「未納」問題を使って04年に「魔女狩り」をやれば「確率的に見て」複数の閣僚を含む、多数の与党議員を失脚させることが可能だと知ったはずだ。それはリクルート事件並みの「大政局」となり、選挙で民主党に(政権交代が展望できるほど)有利に働くはずだ。

ただ、この魔女狩りを実行するには、自身が未納と知っている由紀夫が代表ではダメだ。では、菅直人はどうか?

●息子の未納●
04年4月24日、衆議院補欠選挙の応援演説で菅直人は、前日に「未納」が発覚した小泉政権の3閣僚を「未納3兄弟」と呼んで非難したから、この時点で菅直人が自分の未納を知っていたとは思えない。

が、菅直人が年金問題に無知で「脇が甘い」ことは以前から周知の事実だった。02年9月(13日)、菅直人は東京の外国特派員協会で講演し、こう語っている:

「私の2人の息子もちょっとあやしいと思っているんですが、彼らに(年金を)払えといえばですね、じゃ、40年後に保証してくれるのかと。こう言われますと、厚生大臣をやった私としても保証できると言い切れない」(『週刊文春』04年5月13日号 p.30 「菅直人 長男 源太郎も未払いの噴飯」または菅直人のWeb)

菅直人の長男源太郎は、高校中退のフリーターだ。議員同士は党派を超えて議員本人やその家族の冠婚葬祭には花束や香典を贈り合う習慣があるので、上記の講演会のはるか以前から、議員たちは源太郎が独身のフリーターであることは知っていたはずだ。そのうえ、上記の「開き直った」ような講演である。

菅直人を代表に担いだ場合、由紀夫と違って04年の年金国会で「魔女狩り作戦」を始めてはくれるだろうが、その作戦を最後までまっとうできないことは確実だ。

かつて02年2月、発泡酒の酒税問題が衆議院予算委員会で審議された際、民主党の石井一副代表は「小泉首相の息子(孝太郎)が発泡酒のCMに出ているのは、問題だ」と追求した( サンケイスポーツWeb版02年2月)。とすれば、自民党(やマスコミ)が返す刀で、年金国会の最中に、菅直人の息子の「未納」を追及する可能性は当然ある。

たまたま菅直人本人の未納という「おまけ」が出て来たから、源太郎の未納は大ニュースにはならなかったものの、一部マスコミはしっかり取材し、源太郎が「確信犯的に未納だった」ことを暴露している(『週刊文春』前掲記事)。

【源太郎は03年衆院選で岡山1区から立候補し、なんと「年金改革」を訴えて落選しているが、もし当選していたら「未納兄弟」になっていたはずだ。源太郎が党公認候補になった時点で、民主党議員のうち政権を取る意欲のある者たちは「(政権より息子の将来を優先する)菅直人では政権は取れない」と見限っただろう。民主党は04年5月2日に世襲議員の(同一選挙区からの)立候補を禁止するルールの草案を固めたが(朝日新聞Web版04年5月2日)、これは「源太郎が将来、選挙区を岡山から父親の地盤の東京に替える」のを防ぐ効果を持つ。菅親子が党を私物化することに怒っている党員は多いに違いない。】

由紀夫を降ろして菅直人を代表にして年金国会に臨めば、魔女狩り作戦を開始することができ、その過程で政府・自民党の有力者多数と同時に、自分たちの台頭をはばんでいる「鳩菅」も永遠に葬れる……このことを、河村らの若手や小沢は、遅くとも02年9月の時点でわかっていたはずだ。

●あて馬●
もちろん、河村らの若手にしろ小沢にしろ、自分たちがいきなり野党第1党の執行部を掌握することができれば、それに越したことはなかろう。が、02年9月代表選の時点でも12月の「由紀夫降ろし」の時点でも、若手にはそれだけの力(党内での支持やカリスマ性)はなかった。彼らが頼みとする(?)小沢も03年09月までは党外にいた。

そこで仕方なく彼らは、02年12月の「由紀夫降ろし」ではあて馬に菅直人を使い、年金国会が始まると、小沢の口(夕刊フジ04年5月6日発行・7日付「小沢一郎の剛腕コラム」)を借りて(未納を理由に)菅直人に退陣を迫る、という作戦をとったのではあるまいか。

●3党合意●
菅直人は、自身の「未納」のほか、その問題での批判をごまかそうとして(自己保身のために?)年金問題に関する与野党3党合意を結んで「(年金一元化への)道筋を付けた」ことでも非難されている。この「3党合意」の責任問題が興味深い。

菅直人は、政策決定機関のNC(民主党が政権を取った場合の「次の内閣」、ネクストキャビネット)ではなく、執行部の会合でこれを決めたが、小沢は代表代行として執行部の一員でありながらその会合を欠席した。民主党執行部が自民・公明両党と最終合意したのは04年5月6日だが、民主党内の了承手続きはなく、5月10日の両院議員懇談会でかろうじて了承された(ように見えるが、「懇談会」は党規約にある正式機関「両院議員総会」ではないので、これはインチキだ)。

この3党合意が、参院選での年金問題の争点化を避けたい自民党の思うツボであることを、小沢は見抜いており、両院議員懇談会を欠席することで、反対の意志を示した(3党合意を決めた会合を欠席した小沢にはその責任はない、という理屈も成り立つ。小沢と河村は5月11日の衆院本会議の年金法案採決に欠席し、3党合意に完全に「造反」した)。

●小沢自治大臣● 拙著『中途採用捜査官@ネット上の密室』執筆のため、警察に詳しい元新聞記者に取材した際、筆者は「小沢の閣僚経験は国家公安委員長(兼自治相)だけだが、このとき彼は国家機密に触れたのでは?」と聞いたところ、「そのポストは閑職で、執務室の明かりはいつも消えていた。彼の権力は自治相として培われたのでは?」との答えが帰って来た。

福田康夫前官房長官ら政治家は庶民と違って、高級官僚(『週刊文春』04年5月13日号 p.28 「福田長官独占告白」によると、福田の場合は「首相官邸の総務官」。前掲の由紀夫Webによると、由紀夫の場合は社会保険庁長官)を介して特殊な方法で自分の年金を確認することが知られている。真紀子と違って口が堅く、年金行政にかかわる役所の情報を知る自治省(現総務省)の役人たちに顔のきく立場にあった小沢なら、役人に頼んで、菅直人らの年金状況をひそかに調べることができるのではあるまいか。現に『週刊文春』は情報源を秘匿しつつ、福田の未納を、04年4月28日の公式発表よりも完璧に取材して報道している(前掲記事)。

●首相も未納?●
ところで、菅直人の政策秘書・松田光世によると、小泉首相は国会議員になる前「未納」期間があった、という(『週刊文春』04年5月13日号 p.31。ほかに『週刊ポスト』04年5月21日号が「(小泉は昔)勤務実態のない会社の社員として厚生年金に違法加入」と追求)。

それが事実なら、民主党は「鳩菅」を追放し、小沢、河村らの「完納兄弟」を押し立てて年金問題を争点に「『未納首相』は辞めろ」と参院選を戦い、小泉政権を潰せばいい。そうして民主党が政権を取れば、好きなように年金改革ができるのだから、菅直人の言う「一元化に向けた協議の場を作る」ための3党合意など必要ない。

菅直人は政権を取る気がないから、政権を取った場合の閣僚集団であるNCを無視して3党合意に走ったのだ。政権を取りたい小沢らがそれに怒るのは当然だ。

小沢は菅直人どころか小泉の年金状況も知っているのではないか……もし「小泉はクロ」なら、3党合意どころか小泉政権を潰せるので、小沢は民主党の次期代表職を受けるだろう。が、受けないなら、「クロ」の確証はなく、政権奪取は次の衆院選まで諦めた、ということだろう。

【週刊文春に(厚労省から?)福田の未納情報が流出したことを坂口厚労相は「国家公務員法の守秘義務違反として調査する」と表明(産経新聞04年5月12日付朝刊5面)。これはもしかすると小泉の年金情報の、流出を恐れての調査ではないか?……菅直人ら民主党執行部が、3党合意に造反して本会議を欠席した小沢に処分をするどころか、逆に代表就任を要請しているのも、「3党合意は菅直人のメンツのために整えただけで、どうせ小泉の年金状況がバレれば白紙に戻る」からか?】

小泉自身は「議員になる前も完納」と語ってはいるが(産経新聞04年5月11日付朝刊5面)正式の国会答弁ではない(し、違法加入への言及もない。毎日新聞の岸井成格は04年5月10放送のTBS『ニュース23』で「自民党議員には会社役員が多いため、厚生年金違法加入の露見を恐れて『全議員の年金状況公開』に消極的」と指摘)。

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