ロックフェラー家から鳩山家まで

フリーメイソンの世界

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Originally written: Dec. 13, 2002(mail版)■フリーメイソンと鳩山家〜鳩山家の謎(1)■
Second update: Dec. 13, 2002(Web版)
Third update: Dec. 14, 2002(mail版)■鳩の花道〜鳩山家の謎(2)■
Fourth update: Dec. 14, 2002(Web版)

■フリーメイソンと鳩山家〜鳩山家の謎(1)■
■鳩の花道〜鳩山家の謎(2)■

■フリーメイソンと鳩山家〜鳩山家の謎(1)■
【前回「秘密結社〜保守本流の別働隊」の関連記事です。】

●「差別本」無用●
フリーメイソンと聞くと、おどろおどろしいもの、あるいは絵空事を連想して敬遠する人が少なくないが、その理由は、巷に溢れる、知的水準の低い連中によって書かれた駄本やホームページにある。これらはいずれも、ユダヤ機関とフリーメイソンを混同し、非論理的な記述でユダヤ人や白人に対する人種差別をたきつけようとしているもので、読むに値しない(とくにひどいのはオウム真理教が「教科書」にしていた第一企画出版の新書判)。

以前、筆者は小誌Web版のユダヤ問題関連記事に関して「あなたがあの有名な本(その筋の某有名人の書いた反ユダヤ本)を読んでいないとは考えられない」というファンメールを頂いたことがある。

が、念のために申し上げると、筆者は差別主義者ではないので、ああいう本を読むこと自体まったく考えられない。まともな大学で一流の学者から政治学教育を受けた者は、ああういう「差別本」は読まないのが普通なのだ。

【筆者は、韓国の大ヒット映画『シュリ』をガラクタと言い、2002年W杯サッカーで韓国がベスト4になったことも審判の誤審によるインチキだと酷評したが、べつにこれは韓国人差別ではない。事実関係を積み上げて「だめなものはだめ」と言うのは言論の自由として認められるべきで、「あばたもえくぼ」のように韓国のことはすべて誉めないと「日韓友好」に反する(あるいは過去の植民地支配の歴史に照らして申し訳ない)などという価値観を押し付けるのは「言論統制」であり、到底認められない。】

フリーメイソンについて学ぶには差別本は要らない。一流の版元から出ている一流大学教授などの書いた学術書で十分だ。W・K・マクナルティ著『フリーメイソン』(吉村正和・名古屋大学教授訳、平凡社94年刊)や湯浅慎一著『フリーメイソン』(中公新書90年刊)などが、薄くて値段も手頃なので、おすすめだ。

●秘密結社●
フリーメイソンとは何か……実は、単なる親睦組織(友愛団体)である。なんらかの宗教を信仰していて、すでに組織のメンバーになっている者2名から、知性と人格にすぐれていると認められた者が推薦され、組織に新メンバーとして迎えられる。
メンバーは様々な秘密の儀式を経験し、これをメンバー以外の者にけっして口外しないことで連帯感を維持する。
儀式は……期待されるほど過激なものではない。(^^;) 目隠しをされて組織の建物を引っ張りまわされたり、誓いの言葉を言わされたりするが、基本的に心身の健康を害することは何もない(詳しくはマクナルティや湯浅の前掲書を参照)。

そんなバカな!と「差別本」の愛読者は思うだろう。フリーメイソンには、ジョージ・ワシントン(初代)やジェラルド・フォード(第38代)など多数の米大統領が加盟していたことが知られており、ほかにもキッシンジャー元米国務長官や鳩山一郎元首相(由紀夫の祖父)ら各国の有力政治家がメンバーだったことが公表されているのだから、国際政治に陰謀をめぐらす(悪の)秘密結社に違いない、などと興奮する方は少なくあるまい。

もしこういう「興奮」が正しければ、フリーメイソンを禁止すれば「陰謀」は阻止できることになる。たとえば、76年の米大統領選挙で、フリーメイソンのメンバーである米共和党のフォード大統領が、メンバーでない米民主党のカーター候補に敗れて再選できなかったのは、米民主党(当時は連邦議会下院の多数党)がフリーメイソンを禁止したからか?……とんでもない! その後もその前もメンバーでない政治家が、メンバーである政治家を倒すためにフリーメイソンを弾圧したことなど、米国史上一度もない。理由は、フリーメイソン自体にはなんの罪もないからだ。

これは、茶道が単なる芸術であって陰謀の手段でないのと同じである。戦国時代、大名や豪商は茶道(当時はまだ茶の湯)を嗜み、茶室(数寄屋)という「密室」で交際した。このような「秘密クラブ」で有力なライバル(大名)が密談を重ねることは、中央の権力者にとって心休まることではない。

が、戦国乱世を平定して誕生した徳川幕府はべつに茶道を禁止しなかった。茶道は単なる芸術、交際の手段であり、それ以上でも以下でもないからだ。禁止したところで、交際の手段に使える芸術は連歌でも能楽でも、ほかにいくらでもある。むしろ重要なのは、大名同士が勝手に「反幕府同盟」を結ぶのを防ぐことで、幕府はそのために武家諸法度を定め、たとえば大名同士の縁組みを幕府の許可制にした。芸術(による交際)より縁組み(による同盟)のほうが、はるかに恐ろしいからだ。

これと同じように、フリーメイソン自体は単なる友愛団体でそれ以上でも以下でもない。もちろん、そこで知り合ったメンバー同士が政治の陰謀をめぐらす可能性は十分にあるが、それはフリーメイソンを禁止しても防げない。禁止しても、名門大学の同窓会(の分科会)など他の秘密クラブが取って代わるだけだからだ。

そもそも米国にはフリーメイソンのメンバーは数百万人いるので、高等教育を受けた白人男性の5〜6人に1人はフリーメイソンという計算になる(女性や黒人やユダヤ人はゼロではないが 、あまり多くはない)。米国では「石を投げればフリーメイソンにあたる」ので、日本のようにこの話題が出るたびにいちいち「陰謀だ!」などと興奮していると身がもたない。

なお、フリーメイソンが重視している(と思われる)価値観に「血筋よりその人自身の人格を見る」というものがある。米国は英国の貴族制度を否定して生まれた国で、その建国の父ジョージ・ワシントンがメンバーであることは、米国がフリーメイソンの殿堂であることを表している。

フリーメイソンは「自由な石工」という意味で、古代エジプトの巨大な石材を使ったピラミット等の建築術に象徴される、科学技術や理性の正統な継承者を自負する知性の集団である。
欧州の、いわゆる「中世暗黒時代」にはローマカソリック教会が巨大な権力をもって各国の君主を従え、その君主の下に貴族(荘園領主)が、その下に農民が、こんにちの言葉で言うと、個人の尊厳も自由も人権も情報もない、奴隷のような状態で土地と迷信(宗教権力者のウソ)に縛り付けられて支配されており、他方、そういう体制を批判する知性のある者は、体制側(教会、君主、貴族)から批判を通り越して即座に弾圧され「宗教裁判」「魔女裁判」などにかけられていた。
このような過酷な状況下で、高度な建築技術を持つ石工など一部の例外的な人々は、各地の教会や聖堂を建設するため、特定の土地に縛られることなく移動する自由を教会や国家から認められ、広い視野を得て体制を批判する知性を磨き、「いつかバカどもの迷信が支配しない、まともな国を作ろう」との考えを抱くようになった。
彼らが秘密裏に情報交換し、連帯したのが、近代フリーメイソンの起源であり、そこから生まれた思想が、ジョン・ロックらの近代啓蒙思想である。

●反貴族主義●
そもそも「だれそれは名門一族のお坊ちゃまだからメンバーにしてあげましょう」などという世襲の価値観を持つなら、血筋をもとに組織を作ればよい。わざわざ血のつながらない他人を集めて「秘密の儀式」を通じて連帯感を作る、などと手間のかかることをするのは、世襲制(血のつながり)を否定しているからにほかなるまい。

したがって、英国の名門貴族ロスチャイルド家(ユダヤ人)や、その影響下にある者(米民主党や英保守党の主力)は当然メンバーではない。貴族制はすなわ世襲制であり、フリーメイソンの価値観と相容れない。また、親がその宗教を信じると半ば自動的に子供が同じ宗教を信じることになっている宗教、すなわちユダヤ教やカソリック系キリスト教も、世襲を批判して生まれたフリーメイソンの理念とは合致しないので、これらの宗教の信者もフリーメイソンのメンバーには多くない。

他方、プロテスタント系キリスト教には、出生時に親から洗礼を「強制」されて信者になった者に、物心付いたあと自分の意志で「そのままキリスト教徒でいていいかどうか」を確認させる儀式「堅信礼」があり、これはきわめてフリーメイソンの価値観に近いので、必然的にメンバーにはプロテスタントが多くなる。

また、これは血筋による強制や差別を廃し自由と平等を求める、アメリカ合衆国建国の理念ともマッチする。したがって米国の政財界ではWASP(白人、アングロサクソン、プロテスタント)が主流であり建国以来の「保守本流」であり、ユダヤ機関などが政治(陰謀)の主役になることはあまりない。

逆に、建国の理念に反する非主流派(ユダヤ機関、ロスチャイルド家など米国の建国を妨害しようとした英植民地主義者の手先、南北戦争の際の南軍、米民主党などの「負け惜しみ連合」)が権力を握るには、建国以来の国家構造にさからって相当な無理をする必要があるので、彼ら(自称リベラル派)が権力を握ると、米国の政治経済はかなり歪んだものになる(その典型が93〜00年のクリントン政権時代だ。クリントンは学生時代、貧しい米国人子女を英国の名門貴族の家庭にホームステイ留学させ、血筋と伝統への劣等感を徹底的に植え付けてから帰国させるためのシステム「ローズ奨学金」のお陰で英国に留学しており、一生涯、英国貴族に頭が上がらないのだ)。

なお、米政財界で最強の実力を持つのは石油業界であり(だからこそ、米国では原発について「危険神話」が流布し、地球温暖化につながる石油などの火力発電を抑えようとする国際環境保護条約「京都議定書」を批准したがらない世論が多数派なのであり)その中で最強はロックフェラー家であるが、この一族は当然(世襲によらず)一代(1人)ずつ手続きを経てフリーメイソンのメンバーになっているはずである(その証拠にこの一族から出た政治家の大半は主としてWASP系の政党である共和党のメンバーである。02年現在、ジョン・D・ロックフェラー4世だけは例外的に民主党員だが、これは民主党が政権を取った場合の「保険」か「隠れ共和党員」に相違あるまい)。

●鳩山由紀夫は加盟できず●
鳩山由紀夫・衆議院議員は02年12月13日に民主党代表を辞任し、10日の党首選で選ばれた菅直人と交代するが、筆者はずっと、鳩山程度の政治家がなぜ野党第一党の党首を今日まで3年半も続けられたのかが不思議だった。

「首相に選びたい人」を有権者に聞く世論調査では、由紀夫(2.1%)は、民主党の菅直人(5.6%)ばかりか、民主党よりはるかに議席数の少ない自由党の小沢一郎党首(3.4%)よりも人気がない(産経新聞01年2月27日付朝刊3面「本社・FNN世論調査」)。
菅は厚相時代に薬害エイズ問題で名を馳せており、小沢は自民党幹事長として辣腕を発揮したうえ100万部のベストセラーになった著書『日本改造計画』で優れた政策を提示したし、なにより非自民連立の細川政権を樹立して自民党の一党支配を終わらせた立役者だ。
しかるに由紀夫は有名政治家を輩出した「名門」の家に生まれたという、ただそれだけの男だ。世論が由紀夫のことを「菅よりも小沢よりも劣り、首相にふさわしくない」と言っている以上、民主党はたとえ野党を糾合して選挙に勝って政権を奪っても、党首の由紀夫を首相にすることは難しい……というより由紀夫が野党第一党党首でいる限り政権交代などありえない。

00年6月、自民党など連立与党が、小渕首相の危篤に乗じた「密室5人組の決定」で首相になり「神の国」発言などもあって極端に人気のない森喜朗首相を擁して衆議院選挙を戦った際、由紀夫党首率いる民主党は大幅に議席を増やした。が、自民党は議席は減らしたものの与党3党では安定多数を保ち、政権交代は実現しなかった。

このとき議席を増やしただけで「勝った勝った」と喜ぶ由紀夫に、日経新聞(00年6月27日付朝刊社説)は失望し「政権奪取の千載一遇の好機を逸した」「たとえ共産党と選挙協力をしてでも、自民党をもっと追い詰めるべきだった」と嘆いた。

「やる気がないなら、やめちまえ」

政治家としてなんの実績もなく、親(祖父)の七光りだけで政界入りしたような者はクビにして「さっさと党首を替えるべきだ」と、筆者は知人(出版業界の政治事情通)の前で怒りをぶちまけたことがある。すると、意外な答えが帰ってきた。

「鳩山家は資産家で、民主党には莫大なカネを注ぎ込んでる」
「鳩山家の党への献金は、由紀夫が首相になると思えばこそで、ほかの党員が首相になるならカネは出さない」
「鳩山家は民主党のオーナーであり、由紀夫は党首を辞めたくても辞められない」

ユキオくんは、御幼少のみぎりより偉大なるお父様おじい様のあとを継ぐべく教育ママに育てられてきたので、自分にリーダーの資質がないなどということは(はらの底でわかっていても)絶対に認められず、鳩山家の家長のペルソナ(立場)としては無理にでも首相をめざさなければならないのだ(だから02年12月11日の、党首として最後の定例記者会見で未練がましく「再起はめざす」と言い続けたのだ)。

上記のごとく、小沢はかつて野党勢力を糾合して非自民連立政権を作ったことがある。その彼が、政権を奪還するうえでの最大の障害は自民党ではなく、むしろ由紀夫ではあるまいか。

●目くそが鼻くそを笑う●
由紀夫はよく「友愛」(フリーメイソンのキーワード)を口にし「政治は愛」などの発言(迷言)でも知られるので、また彼の祖父がフリーメイソンのメンバーなので、彼もメンバーだろうと疑う者は少なくない。

が、親の七光りと遺産だけで党首になったような「世襲貴族的な」者をフリーメイソンのメンバー(しかも2名)が推薦するだろうか。由紀夫より、菅や小沢のほうがよほどメンバーにふさわしかろう(小沢の『日本改造計画』の英語版の序文はJ・D・ロックフェラー4世が書いている)。

02年9月の民主党党首選挙で「なんの能もない」由紀夫が再選されたあと、当然のように党内は乱れ、分裂含みで揺れた。すると、由紀夫は奇妙な叫び声をあげる。

02年11月16日、大津での講演で由紀夫は「二世議員が多すぎて、若い人の当選を阻んでいる。(親と)同一の選挙区から数年間出馬できないような制限を加えるべきではないか」と述べた(産経新聞02年11月27日付朝刊5面)。これは「私は世襲貴族に反対するフリーメイソンの価値観の信奉者だ」「だからメンバーに入れてくれ」「フリーメイソンよ、小沢でなく私を応援してくれ」という断末魔の叫びに相違ない。

が、自身が「4世政治家」のくせに、こんな発言をしても失笑を買うだけだ(由紀夫の曽祖父は和夫衆院議長、父は威一郎外相)。筆者が由紀夫のことを完全な無能者と見限ったのはこのときだった。

もちろん、筆者よりはるかに由紀夫の能力や人柄をよく知っている小沢も菅も(02年9月の党首選で由紀夫を支持した、当時の岡田克也・民主党幹事長代理も?)とっくの昔に見限っている。
【以下、次回へ続く。】

■鳩の花道〜鳩山家の謎(2)■
【前回の「フリーメイソンと鳩山家」から続く。】

2002年11月、鳩山由紀夫が、自分が「4世政治家」であることを棚に上げて「2世政治家」を批判するのを聴いたとき、筆者は由紀夫のことを完全な無能者と見限った。

●知らぬは由紀夫ばかりなり〜反鳩山クーデター●
もちろん、筆者よりはるかに由紀夫の能力や人柄をよく知っている小沢一郎・自由党党首も菅直人・民主党新党首も(2002年9月の党首選で由紀夫を支持した岡田克也・民主党新幹事長も?)とっくの昔に見限っている。

小沢と菅はかねてから、政権奪取のために、野党勢力の結集(統一会派や新党結成)をめざして親密な会合に重ねていたが、2人とも鳩山家のカネはほしいが、由紀夫は要らないのだ。金持ちのボンボンはカネだけ出してくれればいい。そこで、小沢らは由紀夫を罠にかけることにした。

02年6月10日、小沢は由紀夫とともにフジテレビの『報道2001』に出演し「(野党連合政権の首相候補は)当然、民主党代表(党首)の鳩山さんだ」と持ち上げた。
9月の民主党代表選挙は「国民的不人気」の由紀夫を党首から引き摺り下ろし、選挙に勝てる者に置き換える好機だったが、由紀夫は(鳩山家の資産を選挙資金に注ぎ込んで?)シャカリキになって当選してしまったため、すぐに党内各派から反発を買った(いちおう、由紀夫の「論功行賞人事」、つまり代表選で支持してくれた旧民社党系の中野寛成を幹事長に起用したことで党内若手の反発を買った、ということになっているが……12月の菅直人新党首の「出来レース」丸出しの幹事長人事を見ればわかるとおり……こんなのは、ただの言いがかりだ。要するに、みんなで由紀夫を降ろしたいのだ)。
10月の臨時国会では、小沢は党首討論の自分(自由党)の持ち時間を由紀夫(民主党)にプレゼントして、あたかも統一会派を組んでいるかのような演出を見せたので、由紀夫は益々その気になり、小沢と菅が親密であることなど、けろっと忘れてしまった。そこへ羽田孜・民主党特別代表(元首相)の決定的なひとことが加わる:

「統一会派のトップになる道もある」

そりゃ、私(羽田)はきみの人柄を買ってるよ。でも、選挙に勝つには国民的人気のある菅が党首じゃないとだめなんだ。きみは、党の仕事は小物に任せて、むしろ菅民主党党首と小沢自由党党首を束ねる統一会派の長になればいい。そのほうが首相への道も近いよ……と受け取れるニュアンスで、羽田は由紀夫に「野党結集の思いは重く受け止め、次の執行部で実現する。潔く辞任すれば復権できるが、グズグズしていたら政治生命は終わるぞ」と助言した(産経新聞02年12月4日付朝刊5面「検証 鳩山政局」)。

首相経験者の羽田が言うんだから間違いない、とお人よしのボンボンは思ったのだろう。民主党の幹部とろくに協議もせずに、自由党との合併を公言し、党首を辞任するとまで口走ってしまう。

ブタもおだてりゃ木に登る、というが、飛べないハトでもこんなに簡単に引っかかるのか、と小沢も菅も羽田も腹を抱えて笑ったことだろう。政治の世界では、いったん辞任を口にすれば「死に体」になり、それで終わりだ。そんなことも知らずにこんな発言をした由紀夫には、党首どころかそもそも政治家、いや社会人としての常識すらない。

自らの失言で「辞任モード」にはいってしまった由紀夫は「せめて自由党との合流に道筋を付けて、それを花道にしないとお母様お父様に申し訳ない」と焦り、小沢との党首会談に望みをかけた。が、小沢は「待ってました」とばかりに何日も前から予定されていた会談をキャンセルし、はしごをはずして由紀夫のメンツを丸つぶれにし、党首辞任に追い込んだ(小沢と羽田があらかじめ打ち合わせていなければ、これほどみごとな「連携プレー」はできまい)。この「丸つぶれ」騒動で、由紀夫には、羽田の言う「統一会派のトップになる道」はほぼ完全になくなり、羽田らには、由紀夫に「統一会派の長になれとすすめた以上、そうしてやらなければいけない」という義務はなくなった。

かくして、小沢らの思惑通り、由紀夫は党首辞任表明(12月3日の記者会見)に追い込まれ、12月10日の民主党の両院議員総会の後継代表選挙で、菅が対立候補の岡田を破って党首になった。

岡田と菅もグルなのは間違いない。岡田は、両院議員総会の前に菅から「幹事長のポストをあげるから立候補を辞退して候補者を(菅に)一本化してくれないか」と打診され(いったん断ったものの)選挙後にそのポストを引き受けているのだから、出来レースに決まっている。当初、岡田優勢の報道があったが、菅は選挙対策本部を作ったのに岡田は作らず、菅陣営は党所属国会議員への電話攻勢をかけたが、岡田陣営はほとんど何もしなかった。そのうえ岡田は投票直前に「国会議員定年制」を主張して故意に高齢議員の反発を引き出して自分への支持票を減らした(産経新聞02年12月11日付朝刊3面「岡田氏に逆バネ」)。これは、明らかな「八百長」だ。

●政権交代への道●
あー、すっきりした。
邪魔者がいなくなって、これで、政権交代ないし政界再編の可能性が出てきた。自民党以外から首相が出る場合、石原慎太郎のほかに、菅直人という選択肢もできたわけで、政権交代を願う筆者にとっては喜ばしい。

もちろん、民主党の党員たちは、旧所属会派以来の安保観、国家観を引きずっているため、憲法や自衛隊、日米同盟などに関する基本政策が党内で統一されておらず、とても政権など取れる状態でない、という批判はある。

が、自民党を見よ。イージス艦のインド洋派遣や道路公団民営化などの重要問題について、自民党内の有力者、たとえば小泉首相と野中広務元幹事長の意見は正反対ではないか(イージス艦派遣に関しては連立与党の公明党も、首相の派遣決定に反対したが、それでも連立政権から離脱しなかった)。

●族議員政治を終わらせる方法●
基本政策の違いなどどうでもいい。とにかく政権を取ってしまえば「まとまり」は維持できるのだ。
筆者は政権交代を待望する。その理由は、民主党などとの政権交代によって自民党の万年与党的な構造を打破し常時政権交代可能な体制を確立し、さらにそれによって、族議員政治を完全に終わらせてほしいからだ。

族議員政治は「地元の利益」を求める地方の政治家や有権者が、自民党のみに「地元で(無駄な)公共事業をやってくれ」と陳情を繰り返して癒着することで成り立っている。政権が交代すれば、自民党と地方の組織や団体との癒着関係は自動的に切れる。現に、93年の非自民連立政権の発足後、地方の陳情団のなかには自民党を無視して、連立与党の一員であった小沢、羽田らの新生党に陳情するものが出てきた。陳情先が複数あれば、政治献金も票も行き先を求めて右往左往することになり、「癒着」は不可能になり、まともな「請願」や「投票行動」しかできなくなる。

そのまま4〜5年続けて自民党が野党であり続けたら、「癒着」に基づく自民党の地方の地盤は完全に崩壊し、族議員は絶滅したはずだった。が、わずか1年後の94年、社会党(現社民党)が「小沢は人柄が悪い」などとわがままを言って非自民連立政権から離脱し、自民党に擦り寄って自社連立政権を作り、自民党を与党に戻して族議員たちを生き返らせてしまった。

【自社連立政権成立の立役者の1人に、社会党の「日本軍国主義のアジア侵略批判」に同調し、中国などでしきりに過去の歴史を「反省」してまわっている自民党橋本派の野中広務がいる。彼は、米国でクリントン民主党政権ができた翌年の94年に日本で自社連立政権ができると国家公安委員長に就任し、以後、官房長官、自民党幹事長代理、自民党幹事長、橋本派会長などを歴任した。
が、米国の大統領が共和党のブッシュに替わった01年に日本で小泉内閣ができると、野中は政権へのコントロールを失い、自民党内の非主流派に転落した。
この間、00年秋に、米共和党員の経済論客リンゼー(のちにブッシュ政権の大統領補佐官)と政策勉強会を行った自民党の加藤紘一、山崎拓らが野中幹事長体制に叛旗を翻した「加藤政局」は、米民主党政権が続く中で野中の手で鎮圧されているから、野中が米民主党を後ろ盾にしていたことはほぼ間違いない。】

小沢の人柄がなんだ!
そんなくだらないことは、ほっておけ。どうしても追求したければ、自民党が4〜5年野党を続けて、族議員が完全に絶滅するのを待ってから追及すればいい。

それを、大人気ない社会党と左翼とマスコミが「小沢の人柄が悪い」「眉毛のおじさん(社会党の村山富市首相)は人柄がいい」などとくだらない偏向報道にうつつを抜かし、「構造改革」の千載一遇の好機を逸してしまった。

もし、あのときあとしばらく小沢らが与党であり続けたら、道路公団など特殊法人の無駄な公共事業による赤字経営問題は、とっくに解決しているはずだし、政府の財政赤字もここまでひどくはならず、今頃経済政策のための予算措置(減税も含む)をする余裕も十分あっただろう。現在日本が苦しんでいるこの「10年の不況」もとっくに解決し「5年の不況」ぐらいで済んでいたはずだ。

同じ失敗は二度と繰り返してはならない。
筆者は政治家の人柄にはなんの期待もしない。小沢であれ、菅であれ、石原であれ、自民党の族議員政治を終わらせてくれるなら、たとえ下半身スキャンダルが出ようが「三国人発言」が出ようが、「数合わせ」で共産党と連携しようが、我慢する。

●鳩の花道●
とにかく一度、族議員どもの地方の支持基盤をぶっこわせ。破壊し尽くせ! ほかのことはいつでも追求できるんだから、国民もマスコミもしばらく我慢してほしい。この先何年、小沢と菅や羽田との「出来レース」が続くかわらないし、もしかすると、近い将来彼らは(政権を取ったあと政権の維持をめぐって?)争うかもしれないが、少なくとも02年12月現在までは鳩山を降ろすことで意見が一致し、協力して行動した。同じことが、国民・有権者にできないはずはあるまい。

ユキオくん。
今後も、小沢らは「次の次の総理は鳩山さんだ」などと言って擦り寄って来るだろうから、その際にはきれいにだまされて、へらへら笑ってカネだけ出して「政界のミツグくん」に徹してほしい。
このままだと、弟の邦夫(元文相)は自民党(野中広務が勧誘)に、党首の座は菅に、カネは小沢らに取られて、名門鳩山家は4代目で終わり、となりそうだが、それが政界大再編と構造改革につながるなら、名誉ではないか。
あなたのような4代目を育ててしまったのだから、鳩山家はとっくの昔に政界での影響力をすべて失っていてもおかしくないのに、これだけ影響を残せたんだから。

それが鳩山家の、政界からの、引退の花道なのだ。間違っても「首相になってから辞めるのが花道だ」などと思い込まないように。鳩山家の家訓やお母様の教育方針は、国民や民主党員にはまったく関係のない、わたくしごとにすぎないのだから。

【投票日が5日後の02年12月19日に迫った韓国大統領選挙についてひとこと。
候補者がノ・ムヒョン(盧武鉉)、イ・フェチャン(李会昌)の2人しかいないので、どっちが勝つか、などという、確率1/2であたる(あたってもなんの自慢にもならない)予言はしません。
が、上記記事との関連で言うと、日本最大の親北朝鮮派の政治家、野中広務は、01年に米国の政権が米民主党から共和党に替わると権力を失っているので、同じことが韓国でも起きると考えるべきでしょう。北朝鮮に媚びる「太陽政策」をとるキム・デジュン(金大中)大統領は、米国の親北朝鮮派、米民主党のクリントン政権時代に当選し、米政権が共和党に替わってからは、今回の選挙が最初の大統領選挙です。当然、こんどの選挙では親北朝鮮派の後継候補、盧武鉉は負けるはずです。
たとえ彼がいったん勝っても、スキャンダルや病気、暗殺などで(鳩山由紀夫と同様に)任期途中で降板するか、あるいは、スキャンダル摘発などで脅迫されて、選挙戦を通じて公約していた「太陽政策(の継続)」をやめるか……いずれにせよ太陽政策は、共和党の支持が得られないので、もう続かないと見るべきでしょう。】

【本件については次回以降も随時取り上げます。
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 (敬称略)

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