失業革命

〜「技術神話」が生む不況〜

Originally written: May 28, 2009(mail版)■失業革命〜週刊アカシックレコード090528■
Second update: May 28, 2009(Web版) Third update: June 18, 2009(Web版)

■失業革命〜週刊アカシックレコード090528■
情報技術(IT)を始めとする20世紀後半のテクノロジーはあまりにも急速に普及し、劇的に生産性を高めたため、あらゆる業界から雇用と利益を奪い、次第に参加者を減らしながら創業者や開発者(のみ)を儲けさせる「逆ネズミ講」を実現してしまった。
■失業革命〜「技術神話」が生む不況■

■失業革命〜「技術神話」が生む不況■
【小誌2007年4月14日「国連事務総長の謎〜シリーズ『中朝開戦』(4)」は → こちら
【小誌2007年7月3日「『ニセ遺骨』鑑定はニセ?〜シリーズ『日本人拉致被害者情報の隠蔽』(2)」は → こちら
【小誌2007年10月22日「軽蔑しても同盟〜シリーズ『中朝開戦』(11)」は → こちら
【小誌2008年3月6日「中朝山岳国境〜シリーズ『中朝開戦』(13)」は → こちら
【小誌2008年9月8日「福田退陣の謎〜東京地検 vs. 公明党〜福田首相退陣は政界大再編の前兆」は → こちら
【小誌2008年10月1日「公明党の謀叛!?〜連立政権の組み替え?〜『中朝戦争賛成派』が小池百合子新党に集結!?」は → こちら
【小誌2008年11月27日「究極の解決策〜勝手にドル防衛?」は → こちら
【小誌2008年12月1日「人権帝国主義〜シリーズ『究極の解決策』(2)」は → こちら
【小誌2008年12月4日「イラク戦争は成功〜シリーズ『究極の解決策』(3)」は → こちら
【小誌2009年1月8日「70年周期説〜シリーズ『究極の解決策』(4)」は → こちら
【小誌2009年2月5日「逆ネズミ講〜シリーズ『究極の解決策』(5)」は → こちら
【小誌2009年3月31日「巨人、身売りへ〜読売、球団経営から撤退を検討」はWeb版はありませんが → こちら
【前回「巨人の身売り先〜シリーズ『巨人、身売りへ』(2)」は臨時増刊なのでWeb版はありません。】

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情報技術(IT)を始めとする20世紀後半のテクノロジーはあまりにも急速に普及し、劇的に生産性を高めたため、あらゆる業界から雇用と利益を奪い、次第に参加者を減らしながら創業者や開発者(のみ)を儲けさせる「逆ネズミ講」を実現してしまった。

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●失業問題の原因●
最近、中国の失業問題が深刻化しつつある。

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そう聞くと、ほとんどの読者の方々は、「2008年9月以降の、米リーマンブラザース証券(投資銀行)の破綻に端を発する金融危機の影響で、不況に陥ったからだ」と思われるだろう。

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が、この「最近」とは、実は金融危機の前、2007年のことなのだ。
柯隆(か・りゅう)富士通総研主席研究員によると、「中国では2001年には(国内総生産、GDPベースで)10%の経済成長で1100万人の雇用が生まれたのに、2007年には、同じ10%の経済成長をしたと仮定して計算しても、500万人の雇用しか生まれていない」という(2008年12月16日放送のNHK『クローズアップ現代』「失速する中国経済」)。

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この原因は、機械設備投資にある。
中国の工場ではどこでも常に、国際競争に勝つために最新式の生産機械設備を導入する努力をしている。柯隆によれば、そのメカニズムは以下のようなものだ:

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「(中国経済は)経済モデルで言えば、過去30年投資主導の経済をやって来た。わかりやすく言えば、機械化がどんどん進んで、労働生産性が上がる。同じ付加価値を作るのに、必要とされる労働量が減っていく」(前掲『クローズアップ現代』)

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そもそもテクノロジー(技術)というものは、生産性を高めるために開発される。

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つまり、より少ないコスト(労働力、資源、資金)でより多くの生産物や利益を得られるようにする技術がよい技術なのである。わざわざ生産性を落とすための技術を開発する技術者など世界中に1人もいない。

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したがって「生産性の向上」は「労働排除」と同じことなのだ。オーストラリアの元科学技術大臣、バリー・ジョーンズは1982年の段階で、日本の自動車メーカー、トヨタとマツダを比較して、トヨタのほうが生産ラインの自動化が進んでいるため、はるかに少ない投下労働量ではるかに多い自動車を生産している事実などに着目し、早々とこの問題を予見している:

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「大規模な財または市場サーヴィスの生産にあっては、雇用は[市場における、財または市場サーヴィスの]需要と逆比例する傾向をもつ」(バリー・ジョーンズ著『ポスト・サーヴィス社会〜崩壊する高度技術社会の神話』時事通信社1984年刊 p.216)

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世界中どこでも「新しい技術が生まれれば新しい産業が生まれ、新しい雇用が生まれる」と信じられているため、各国政府は技術開発やそのための技術者教育、(外国からの)先端技術の導入に熱心である。

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しかし、新しい技術によって生み出される雇用が、その技術によって排除される雇用よりも多いかどうか、事前に確認されることはほとんどない。火力発電、自動車、航空機、コンピュータなどは、それを導入することによって増える雇用と減る雇用とを比較考量したうえで社会に導入されたわけではない。

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【現在、日米欧で話題の、太陽光発電、燃料電池などの新エネルギー政策も、それを導入することによって、石油、石炭などの「旧エネルギー」産業で生まれる失業については、まったくと言っていいほど考慮されないまま、導入が検討されている。いつのまにか、それを「導入するのがあたりまえ」という論調が世界中のマスコミを支配してしまっている。】

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中国では、「1人っ子政策」を採って人口を抑制していても総人口が12億以上と多いため、毎年労働人口が1000万〜2000万増える。その増えた人口に見合う雇用を生み出すためには、毎年8%以上のGDP成長率が必要だと中国政府自身が公言している(中国国際放送局Web日本語版2009年3月5日「中国、今年のGDP成長率が8%を維持」)。
2003年以降はずっと二桁の成長だったからよかったが、2008年7〜9月期の成長率が前年同期比9%増にまで落ちた。

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「これが巡航速度なら問題ない。でも、(対策を)何もしていなければもっと下がっただろうから、こわい。そろそろ景気循環から言って下がるだろう」(前掲『クローズアップ現代』における柯隆のコメント)。

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1980年代に経済の改革開放路線(社会主義市場経済)が本格化して以来、中国は次々に新しい技術を導入して産業を起こしたが、導入するたびに一部の労働者は生産現場から排除された。その排除された労働者(失業者)を雇用するには、さらに新しい技術を導入して新しい産業を起こさなければならないが、それによってまた一部(大多数?)の労働者が排除されるので、さらにさらに新しい技術を導入して……と繰り返しているうちに、2007年頃から、とうとう中国は、技術の導入によっては失業を吸収できない段階に突入したのだ。

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そりゃそうだろう。新しい技術の導入は常に、生産コストを抑えて国際市場における価格競争や品質競争に勝つために行われるのであって、べつに失業対策のために為されるわけではないのだから。

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失業対策としてもっとも望ましいのは、生産現場から最新の技術を排除して生産性を下げ、より多くの労働力が必要な状態を作り出すこと、つまり、労働集約型(雇用吸収型)の生産現場を用意することだ。しかし、そんなことをすれば当然、生産コストが上がり、その生産現場で生産される製品の価格競争力は下がり、国際市場で売れなくなり、それを生産する企業の業績悪化や倒産につながるので、結局、失業対策にはならない。

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【中国国家統計局は2009年4月16日、2009年1〜3月期のGDPは前年同期比6.1%増に留まったと発表した。これは、四半期ごとの統計が公表されるようになった1992年以降最低の成長率である(毎日新聞Web版2009年4月17日「中国:GDP成長に急ブレーキ…1〜3月期」)。「6.1%」という成長率は、「好況でもせいぜい1〜2%」の先進諸国の成長率に比べると高いが、それは先進諸国の場合は分母(前年のGDP)が大きいからそう簡単に伸びないのであって、「6.1」という数字の大きさに目を奪われて中国の経済的実力を「巨大」と思い込むのは、経済の素人である。】

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●マルクスの早合点●
18世紀後半の英国で発明された生産技術は、蒸気機関にせよ水力紡績機にせよ、どれも労働集約的な技術だった。1769年に英国人リチャード・アークライトが発明した水力紡績機は、1785年に米国人エドモンド・カートライトの発明した、蒸気機関を動力とする力織機に取って替わられた。しかし、この17年間で実現した生産性の向上は一次関数で表現できる程度の単純なもの(1.5倍、2倍などの穏やかな伸び)だったから、紡績業は依然として多くの雇用を生み出し続けた。

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18世紀から20世紀初頭にかけての日米欧では、「生産性の向上」はしばしば、新技術の導入ではなく、労働者に対する長時間労働や賃下げの強制によって実現された。だから、工場労働者の苦しみを描いた『女工哀史』などというノンフィクション作品が(1925年に)生まれたのである。

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カール・マルクスは1830年代にドイツで蒸気機関車の鉄道が開通したのを知って1848年に『共産党宣言』を書き、英国生まれの喜劇俳優チャールズ・チャップリンは、1913年に渡米した直後にベルトコンベヤーに追い立てられながら大勢の労働者が肉体労働をして生産したT型フォードを見て、1936年に映画『モダン・タイムス』を作った。

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マルクスもチャップリンも「現状が永遠に続く」と思い込んだらしい。
マルクスは、労働集約型の「原始的な」技術を見て「資本家は労働者を搾取する」と即断したが、それは『モダン・タイムス』の時代が永遠に続くことを前提にした話だ。いま世界中で起きている労働者にとっての最大の受難は「搾取」ではなく「排除」である。

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●指数関数的上昇●
しかし、21世紀の現代人は、マルクスやチャップリンを笑えない。
彼らと同様に、生産性の向上はせいぜい一次関数で説明できる範囲でしか起きないと思い込み、「新しい技術が発明されれば必ず新しい産業が生まれ、新しい雇用が生まれ(て古い産業で生じた失業が吸収され)る」という「技術神話」を信じているからだ。

もう生まれないんだよ、雇用は。

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正確に言うと、生まれることは生まれるが、どこかの業界で雇用が生まれても、その業界かまたはほかの業界でそれ以上のペースで失業が生まれるので、差し引きで雇用は必ず減るはずなのだ。

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アークライトやカートライトの高価な発明品は、にんげんの筋肉労働のごく一部を代替したにすぎなかった。が、コンピュータ、より正確には半導体技術は、にんげんの頭脳労働を安価な電子機器とソフトウェアで置き換えてしまう。
このため、情報通信(IT)技術に代表されるマイクロエレクトロニクス技術は、労働生産性を指数関数的に上昇させる(生産効率が短期間にいきなり数百倍、数千倍になる)。だから、「新しい技術で新しい産業を起こして、それで新しい雇用も…」と考えても、「旧技術」を使っている生産現場で生じる失業の増大するペースが速すぎ、それをカバーするための新技術も新産業もすぐに「タネ切れ」になってしまう。ITはマルクスやチャップリンの思考の大前提を破壊してしまったのだ。

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●失業革命●
資本主義的な意味でも反資本主義的(マルクス主義的)な意味でも、ITの時代には、生産と労働に関する従来の常識は通用しない。いま起きているのは産業革命ではなく、失業革命だ。

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筆者は1990年代にIT業界で働いていたのでよくわかる。
次回 以降は、ITを中心とするマイクロエレクトロニクス技術の生産性向上のスピードの異様な速さ(指数関数的上昇)と、それが社会に及ぼす破壊的、暴力的な影響を、具体的な事例をもとに紹介する。

 (敬称略)

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