同日選をねらった

予定の行動

〜シリーズ「年金政局」(2)〜

Originally Written: May 19, 2004(mail版)■予定の行動〜シリーズ「年金政局」(2)■
Second Update: May 19, 2004(Web版)

■同日選の可能性〜シリーズ「年金政局」(2)■
04年5月14日に民主党新代表就任をいったん受諾する以前(5月12日)に、小沢一郎代表代行(当時)は「自身が国民年金保険料未納(未加入)問題で返り血を浴びる覚悟で、国会議員全員の年金状況を公開させ、小泉政権を追い詰める」(代表に就任してもすぐ辞任する)と周囲に語っていた。
■予定の行動〜シリーズ「年金政局」(2)■

■予定の行動〜シリーズ「年金政局」(2)■
【blog版臨時増刊「小沢は知ってた!」から続く。】
【前回のメルマガ「クーデター」は → こちら

04年5月15〜16日、筆者は遠出して私的な会合に出席した。出席者は政治学者、国会議員、地方議員、税理士、経営コンサルタント、法科大学院の教官と学生などで、内容は原則的にすべてオフレコだ。

とはいえ、これはべつに、04年米大統領選に出馬するブッシュ現米大統領とケリー米上院議員(米民主党大統領候補に事実上決定)がともに所属するエール大学OBの秘密倶楽部「Skull and Bones」(骸骨と骨)のように「会合の内容を外部に漏らしてはいけない」という掟があるわけではない(04年5月4日放送のフジテレビ『ニュースJAPAN』)。だから、会合参加者の不利益にならないように配慮しつつ、部分的に紹介することは可能だ。

上記のような顔ぶれが集まると、当然、話題は政局になる。直前の5月14日に飯島勲・首相秘書官が記者会見を開いて「小泉首相には、議員になる前の浪人(予備校生)時代も含めて国民年金保険料の未納(未加入)期間がある」と明らかにしていたので、まずその話題になった。

税金などに詳しい出席者の1人は「(5月14日、民主党の新代表就任受諾を記者会見で表明した)小沢一郎は、慶應大学にはいる前に浪人(多浪)しているので、(小泉首相の浪人時代の未納を追求するマスコミの基準をあてはめると)彼も『未納』でアウトなのでは?」と指摘した。

たしかに、その場合は、与党自民党の小泉首相と野党民主党の小沢新代表は「相打ち」になり、必ずしも04年7月の参院選で民主党が有利になる見通しは立たない。
が、筆者は反論した:

「マスコミ(『週刊ポスト』)の、首相の年金問題追及の、入り口はたしかに『未納』だが、出口は『厚生年金違法加入』(後出)だ。マスコミはいずれ、追求の矛先をそちらに替えるから、そうなると、小沢より小泉のほうが痛手が大きくなる」

その場には民主党関係者もいたが、だれも小沢が新代表に就任しない、などとは思っていなかった。

●予定の行動●
しかし、筆者が旅先から帰宅したあと、17日発売の雑誌を午前中に買って読んだところ、なんと、小沢は「代表に就任しても、すぐに辞任する可能性がある」と、14日以前に周囲に語っていた、と書かれているではないか:

「オレが代表になったら、国会議員全員が年金(保険料)を払っているか調べる。しかも、(国会議員も)国民年金に強制加入となった'85年の前も後も、すべて調べるんだ。はっきり言って、オレにとっても危ない話だ。オレだって払っていないかもしれない。(中略)それでもオレを(代表に)担ぐんだな?」(『週刊現代』04年5月29日号 p.39 「小沢一郎『公設秘書の年金未納を調べろ』」)。

これは、17日発売の『週刊現代』が、「14日(午後2時台)の代表就任受諾記者会見以前の12日に、民主党の小沢一郎代表代行(当時)が、民主党幹部に語った」と報じる記事である。雑誌の印刷や配送にかかる時間を考慮すると、この記事が14日以前に書かれたことは間違いない。

これには仰天した。が、上記の会合を思い出して、すぐに納得した。
『週刊ポスト』(04年5月7日発売の5月21日号)がすでに報道している「首相の(浪人中の)未納疑惑」路線の延長線上で、小沢自身に未納疑惑がかかることを、アカの他人であるわれわれ(会合出席者)がすぐに見抜いたのだから、本人はもっと早く気付いていたに決まっている。つまり、小沢は14日の受諾記者会見の時点ですでに「自身の未納(未加入)問題(をマスコミに追求される恐れがあること)を理由に、代表就任をいったん受諾したうえで辞退する」と決めていた可能性があるのだ。

筆者が上記の記事を読んでから約8時間後の午後7時30分頃、NHKでニュース速報が流れた。小沢が記者会見し「自身の国民年金未納(未加入)が発覚したので、民主党代表就任を辞退する」と表明したのだ(このニュースの前に、上記の会合の内容をもとに「予言記事」を書いておけばよかった、と筆者は後悔した)。
(^_^;)

【尚、04年5月18日、小泉は国会で「週刊誌が『浪人時代』としている期間、私は大学生だったので、国民年金加入義務はない」と述べ、これを受けて飯島も再度記者会見して「首相には浪人時代の未納はない」と、5月14日の会見内容を訂正した(04年5月18日放送のNTV『ニュースプラス1』)。】

●厚生年金違法加入●
上記のとおり、14日の小沢受諾会見の約3時間後、飯島は「小泉には(強制加入となった85年以前に)国民年金未加入(未納)期間があった」と記者会見で明らかにしたが、奇妙なことに、社会保険庁の資料を見たのではなく、預金通帳など手元の記録で確認した、という。小泉の銀行預金通帳によれば、60年代から年金保険料はちゃんと引き落とされている、と飯島は主張するのだ。

が、当時はまだ年金保険料を銀行で引き落とす制度はなかった(04年5月17日放送のTBS『ニュース23』)。飯島の主張は明らかにウソなのだ。

この、飯島の「社会保険庁のデータを見なかった」という主張は、14日の記者会見当時からマスコミに疑問視されていた。「それなら、正確かどうかわからない」と突っ込む記者もおり(産経新聞04年5月15日付朝刊1面)、それに応える形で仕方なく、飯島は銀行預金通帳云々の言い訳をせざるをえなくなったのだ。

なんで社会保険庁のデータを見るのがいやなのか?(あるいは、見たのに「見た」と正直に言わないのか?)……考えられる理由は1つしかない。社会保険庁で照会すると、国民年金だけでなく、厚生年金の加入状況も同時にわかるからだ。

実は、小泉首相の年金スキャンダルの最大の疑惑は国民年金の未納(未加入)ではない。それとは別に、厚生年金に違法加入していた、という疑惑があり、それを隠したいから飯島はヘンな言い訳をせざるをえない、と解釈するのが自然だ。

小泉は70年4月1日から74年11日1日まで、横浜の不動産会社に勤務し厚生年金に加入していたが、その間、72年12月には衆議院議員に初当選している。この、不動産会社勤務当時、小泉は20〜30代の「若造」だ。どう見てもただのサラリーマン(会社員)であり、会社役員ではない。そして、役員や芸能人ならともかく、国会議員はその職にありながら(ヒラ社員として)会社の仕事をすることは事実上不可能だ。

とすると、小泉は72年12月から74年11月まで、勤務実態のない会社に在籍しつつ、その在籍を根拠に厚生年金に違法に加入していた疑いが濃厚だ(04年5月17日発売の『週刊ポスト』04年5月28日号 p.29 「厚生年金違法加入疑惑」)。この、違法な厚生年金保険料の納付分は当然、所得税の課税対象から控除されるので、それによって節税された分は「脱税」となる可能性がある。また、勤務実態のない会社に勤務したことを理由に将来年金を受け取ると、「詐欺」に該当する恐れもある。

【『週刊ポスト』誌によると、04年5月から、それまで社会保険庁職員が全国のどの端末からもアクセス可能だった、小泉の年金データがアクセス禁止になり、アクセスを試みた者は逆探知されるシステムになったという(前掲記事)。小沢の辞退を受けて民主党新代表に就任した岡田克也は、小泉の違法加入歴を追求すると言うが(04年5月18日放送のTBS『ニュース23』)、それには、同誌が(情報源を明かして?)すでに取得した小泉の厚生年金データを提供するしかない。が、はたして可能か?……同誌は「反小泉・親小沢」なので可能だ、と小沢は考え、側近の藤井裕久を幹事長(後出)として「岡田執行部」に送り込んだのだろう。】

●刺し違え●
04年5月17日、小沢は、自身の、85年以前の国民年金未加入が判明したことを理由に、民主党の代表選出馬を突然辞退した。
が、『週刊現代』前掲記事は、小沢の「全国会議員の年金の未納・未加入を明らかにする」作戦は、首相のクビがねらいだ、と述べている。

もちろん、小沢が、小泉と同じ85年以前の未加入を理由に代表選出馬を辞退したからといって、それで小泉が即退陣するという保証はない(04年5月17日放送のテレビ朝日『報道ステーション』で、加藤千洋・朝日新聞記者)。が、未納(未加入)問題や違法加入疑惑で小泉政権を揺さぶれば、たとえ04年5月22日の再訪朝で小泉が北朝鮮による日本人拉致問題の解決に向けて一定の成果をあげても、そのあとの国会で年金法案を廃案に追い込むことが可能になる。そうなれば、04年7月の参院選で与党・自民党の(惨敗は望めなくとも)少なくとも圧勝を防ぎ、民主党の議席減を最小限に食い止められる。

●クーデター継続中●
小泉が再訪朝によって国民の支持を得ようとすることは、04年2月頃から、山崎拓・前自民党副総裁を北朝鮮当局と接触させるなどしていたことから、予想されていた。一定の成果が見込めない限り、首相が(相手国の首脳の訪日なしに)二度続けて外国を訪問することはありえないから、訪朝が決まれば、なんらかの(世論への目くらまし的な意味かもしれないが)成果はあるに決まっている。そうなれば、7月の参院選は与党自民党に有利に、野党民主党に不利になる。

小沢は5月10日の菅直人・前代表の辞任表明直後は、岡田克也幹事長(当時)に代表就任を要請されても「菅代表の残り任期(04年9月まで)でなく、党規約を改正して2年間の任期を与えてほしい」と言っていた、と伝えられている。

たとえ、自身の未納(未加入)問題がなくとも、小沢がそのまま代表になった場合、7月の参院選で民主党が1議席でも減らせば、「敗北」の責任を問われて04年9月の代表任期終了を迎えることになる。そこで、民主党の一部は当然、他の代表候補を立てて代表選を(たとえ形式的にせよ)戦おうとするから、下手をすれば小沢といえでもその代表選で「落選」し、政治生命もそこで終わってしまう危険があった。

14日に、岡田の説得を受けて代表就任を受諾する際、小沢は、岡田の主張する「話し合い決着」を蹴り、形式的にせよ代表選を行うように訴え、18日に党規約(任期途中で代表が欠けたときの規定)に基づき、両院議員総会による代表選(出手続き)が行われるはずだった。

14日から、この18日までの4日間は、たとえ就任を受諾しても、まだ正式決定ではないから断れる。
現に17日、小沢は断った(ということは、断りたいから「代表選をやってくれ」と言った、ということか)。

しかも、強制加入になる前の未納(未加入)を理由に、小沢が代表就任を辞退したことで、民主党の次の執行部(岡田新代表)は……岡田が菅前代表のもとで幹事長としてまとめた、政府与党が成立をめざす年金法案の成立につながる「(与党と民主党の)3党合意」の存在にかかわりなく……「未納」問題で、政府・与党を追求せざるをえなくなった。

【昨日(04年5月18日午後)に筆者がblog版で予測したとおり、幹事長には、藤井裕久・元蔵相が決まった。藤井は小沢の側近で元大蔵官僚で、小沢とともに3党合意に反対して党の決定に造反し、5月11日の衆議院本会議における年金法案の採決を欠席している。岡田が5月18日の代表就任会見で、小泉の年金未納問題などを理由に「年金法案を廃案に追い込む」と語ったこともあり、これで、民主党が3党合意から離脱することがほぼ決まった。】

民主党幹部のなかには、「(代表辞退という)潔い身の処し方で、小沢が今後代表に就任する芽は残った」という意見があるので(産経新聞04年5月18日付朝刊3面「肉を切らせて骨を断つ」)、小沢が04年9月の代表選に出馬して、小党・自由党の党首から、最大野党・民主党の党首(代表)になるという、前代未聞の「乗っ取り」を完遂する可能性はある。

●同日選の可能性●
国会での年金法案審議が、「未納」問題などで立ち往生し、かつ、小泉首相が「5月22日の再訪朝により拉致問題などで一定の成果があった(と国民が評価した)」と(国民でなく小泉自身が)思ったら、小泉はその性格から見て、「国会立ち往生」の責任をとって退陣(内閣総辞職)することはなく、解散・総選挙で国民の信を問う……つまり「賭け」に出るほうを選ぶだろう。

なぜなら、5月22日に急遽決まった再訪朝が、すでに「賭け」なのだから。

【もしも、その再訪朝で、日本政府が北朝鮮拉致事件の行方不明者として認定している、横田めぐみさんら10人以外の失踪者……たとえば、山本美保さんや佐々木悦子さん……の消息を北朝鮮側が明かして、帰国させる用意を表明すると、小泉と与党自民党は7月の参院選でかなり有利になる。なぜなら、TV(ワイドショー)がこのような「新たな拉致被害者」について報じる時間が長くなり、その分年金問題を報じる時間が短くなるからだ。TVはすでにさんざん報道した「従来の拉致被害者」については、もうかなり飽きているのでそれほど多くの時間は割かないが、「新鮮なニュース」には飛びつく。とくに、佐々木悦子さんは相当に美人なので(http://page.freett.com/matome2/people_40.html)、報道時間は異常なぐらい長くなるだろう。】

小泉は、首相就任前後に語っていた「自民党をぶっ壊すつもりで改革をやる」という言葉とは裏腹に、「与党としての自民党と、自身の権力とを守るためには、なんでもやる」という、権力欲(虚栄心)のかなり強い政治家のようだ。

それは(靖国神社をどう考えるかの議論はさておき)、自身の思想信条として、「(01年)8月15日には、いかなることがあろうと靖国神社に参拝する」と公約して01年4月に首相と自民党総裁に就任したにもかかわらず、周囲に文句を言われると、あっさりそれを翻して8月13日に参拝してしまったことに典型的に表れている。

また、(道路)族議員を「(改革への)抵抗勢力」と呼んで敵視(する振りを)しつつ道路公団改革を進めると主張しながら、結局は自民党内の権力基盤を固めるために、道路族議員のドンである青木幹雄・参院自民党幹事長と手を組むなどして妥協してしまったことからも、彼の本心が読み取れる。

もはや小泉政権は、なんらかの政策や思想信条を実現するための政権ではなく、完全に政権維持のための政権、選挙に勝つためだけの政権になっている。

民主党に限らず、衆議院議員は全員、解散・総選挙(参院選との同日選)はありうるという覚悟でいたほうがいいだろう。
もし岡田新代表のもとで民主党が「衆参同日選」で議席を伸ばすと、04年9月の代表選で小沢が当選する可能性はないし、逆に、民主党が議席を減らすと、民主党が政権を取る可能性は当面(3年間は)なくなる。

いずれにせよ「小沢首相」の可能性は低い。が、小沢は、その長いキャリアで大臣になったことが一度(自治相)しかないことで明らかなように、珍しくポストをほしがらない(虚栄心の薄い)政治家なのだ。首相の座に執着する小泉とは対照的で、運さえよければ小泉に勝てるだろう。

【首相が再訪朝の帰途、首相専用機に蓮池夫妻の子供らの拉致被害者家族8人を乗せて連れ帰ることはなさそうだ。なぜなら北朝鮮は援助の「取りっぱぐれ」が怖いからだ(04年5月16日放送のテレビ朝日『サンデープロジェクト』で、重村智計・早大教授)。01年10月に蓮池夫妻ら5人を帰国させたところ、日本世論の予期せぬ硬化で(国交正常化後の)援助が得られる見通しが立たなくなった、という苦い経験を北朝鮮はしているので、8人の帰国は「人道援助」獲得後、6月(小泉のために?参院選の直前)まで遅らせるだろう。】

(拉致被害者と失踪者以外は敬称略)

【この問題については次回以降も随時(しばしばメール版の「トップ下」のコラムでも)扱う予定です。
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 (敬称略)

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