不買運動が必要

ナベツネ召喚

〜シリーズ「球界再編」(6)〜

Originally Written: Sept. 20, 2004(mail版)■ナベツネ召喚〜週刊アカシックレコード040920■
Second Update: Sept. 20, 2004(Web版)

■ナベツネ召喚〜シリーズ「球界再編」(6)■
弱い権力は譲歩できない。プロ野球各球団の経営陣は球団間の対立が激しく結束力が弱いので選手会に対して譲歩できず、04年9月18〜19日のストを回避できなかった。ならば、いまだに隠然たる影響力を持つ渡辺恒雄・前巨人オーナーを「不買運動」で恫喝して12球団経営陣を結束させ、譲歩案を出させるしかない。
■ナベツネ召喚〜シリーズ「球界再編」(6)■

■ナベツネ召喚〜シリーズ「球界再編」(6)■
【前回「セパ不一致〜シリーズ『球界再編』(5)」は → こちら

2つの組織が対立するとき、一般に敵味方の対立が注目される。しかし現実には「味方同士の対立」が「敵との対立」より激しいことが少なくない。

拙著『龍の仮面(ペルソナ)』は、台湾問題をめぐる中国と米国の対立を、中国内部の権力闘争を中心に描いた近未来小説だが、これは多くの書評家や読者が指摘するとおり、膨大な軍事・経済データを駆使して事実に基づいて描いた、一種の「予測」である。

中国(中華人民共和国)は台湾を一度も支配したことがなく、台湾はとっくに事実上独立しているにもかかわらず、中国政府は「台湾が独立を宣言したら、武力で併合する」などと軍事技術的に不可能な、バカげたメッセージを建国以来半世紀以上も内外に発して来た。

その理由はけっして「中国の国家権力が国内を独裁的、一元的に支配していて、強大だから」ではない。中国は、国内の言語が何十、何百もあって民族差別が激しいうえ、豊かな都市部・沿岸部と貧しい農村部・内陸部との、貧富の格差の拡大も深刻で、常に国家分裂の火種を抱えている。「中国4000年の歴史」の半分以上は分裂の時代で、分裂はいつ起きても不思議ではない。中国が中国共産党による事実上の一党独裁体制をとり、複数政党制による政権交代のルールを認めないのも、「チベット独立党」「広東独立党」などができて国家が分裂するのがこわいからだ。

中国のような、内部の結束力の弱い組織(国家)は、常に外に敵を求め、それに対して強硬姿勢をとることによってしか内部の結束を維持できない。中国政府が台湾問題で、実現不可能なバカげた強硬論を言い続けるのは、中国政府の権力が強いからではなく、弱いからだ。

これは、米国と比較すると一目瞭然だ。米国では、国民の大半が英語を話すキリスト教徒であり、所得水準も全米各州とも世界トップクラスにあるため、(中国と違って)国民の同質性が高く、結束力が強い。また中国と違って複数政党制に基づく民主的な政権交代を、建国以来一貫して実施しており、どの政党が政権を握っても権力が強く、安定しているので、外部への譲歩が容易にできる。

20世紀の米国は、日本の沖縄、パナマの運河地帯などの地域を支配下に置いたが、それぞれあとで日本、パナマに返還している。領土問題でこのように大幅な「譲歩」を政府が行っても、政府が国民から「弱腰」と非難されたり、どこかの州が「沖縄のように米国から脱退したい」と言ったりしないのは、米国内部の結束が強く、国家権力が強いからだ。

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04年9月17日、球団数の削減阻止を求める労働組合「プロ野球選手会」と、削減を画策して来た日本プロ野球機構(NPB)の球団経営陣との対立は解決せず、9月18〜19日、選手会はストを実施した。

これは一見すると、選手会と経営陣の「敵味方の対立」のように見える。
が、現実には「味方同士の対立」なのだ。

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●古田 vs. 近鉄選手会●
選手会は9月11〜12日にもストを予定していた。が、前日10日の交渉をふまえて、古田敦也選手会長は「セパ両リーグの交流戦を導入した場合の影響を踏まえた分析(シミュレーション)を行って、(近鉄球団がオリックス球団に吸収される形での合併、球団数削減を阻止して)近鉄球団を存続できる可能性を(1%でも)経営側が探してくれるなら」という理由で、11〜12日のスト実施を見送った。

これには「一度オーナー会議で決まった合併が覆るはずないのに」といった批判が、選手会を支持する論客(古田の「師匠」の野村克也・元ヤクルト監督など)からも発せられた。

しかし、古田がマスコミの前でたびたび語ったように、選手会が野球ファンから集めた百数十万の署名のうち半分は合併反対を求めるものであり、その署名運動を踏まえて合併対象球団の近鉄選手会は「無期限スト」などの強硬論を唱えていた。

無期限ストを行えば、日本シリーズもなくなり、セパ両リーグ優勝チームの選手やファンの反発が予想される。合併対象球団以外の、10球団の選手にとっては、対象球団の選手が「救済ドラフト」で自分の球団に割り振られて、その余波で自分がクビになることが最大関心事であり、(近鉄)バファローズという球団が残るかどうかはさほど重要でない。

そこで、古田はまず近鉄選手会をなだめるために、(ムダと知りつつ?)経営側に交流戦実施時のシミュレーションを依頼し、彼自身「1%しかない」と認める「大阪にバファローズを残せる可能性」を探ってもらったのだ。

そうやってストを延期すれば、ストの対象試合数を減らしてペナントレースへの影響を小さくできるうえ、近鉄選手会に「(たとえ球界に新規参入する企業があったとしても)もうバファローズは大阪に残れない」と悟らせることができる。

16日に「やっぱり合併しかない」という結論を押し付けるための赤字金額だけを書いた、粗雑なシミュレーション結果を経営側から受け取った近鉄選手会は、自分たちの親会社がまったく球団を経営する意志も、球団存続のために身売り先を探す責任感もない、極端な無能者だと悟り、合併反対を断念した。

11〜12日のスト回避には、近鉄選手会と他球団の選手会とを結束させる効果があった。古田はこの結束をふまえ、「合併凍結要求を取り下げる(合併は「経営権の問題」とする経営側の主張を認める)代わりに、新規参入球団を募って合併新球団からこぼれた選手を吸収し、来季(05年)の2リーグ12球団体制を維持してほしい」という大幅な譲歩案を提示して、16〜17日の経営側との交渉(協議交渉委員会)に臨んだ。

古田に大幅な譲歩が可能だったのは、選手会が球団を超えて強く結束していたからだ。つまり、古田は「強い権力」なのだ。

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●セパ不一致●
ところが経営側はばらばらだ。スト突入に際して、選手会が発表した声明文の執筆者(組織)は「日本プロ野球選手会」だけだが、経営側が発表した声明文には、NPBのほかに12の球団名が独立して連記されていることを見ても、経営側の「不統一性」は明らかだ(NPBはいわば「首相のいない12党連立内閣」だ)。

前回述べたように、パ・リーグ球団の大半が、1リーグ制や巨人のパ・リーグ移籍などの大幅な「リーグ再編」によって対巨人戦を導入し、その放送権料などで億単位の増収をねらっているのに対して、セ・リーグの巨人以外の5球団は、リーグ再編で巨人戦が減って巨人戦関係収入が減ることを恐れる「セパ不一致」の状態にある。

巨人以外のセ5球団(穏健派5球団)は、選手会とほぼ同じ意見を持っている(朝日新聞Web版04年9月18日「経営者側も意見割れる」)。パ・リーグに新規参入球団がはいれば2リーグ12球団体制に戻り、「10球団1リーグ」や「巨人のパ移籍」の可能性が消え、自分たちの巨人戦収入が大幅に減る可能性もなくなるからだ。彼らは「セ6パ6」(パ5球団以上)を希望している。

これ以外の球団(強硬派球団)は、大幅な再編のため、パでもう1組合併を成立させて球団数をさらに削減したい。彼らの目標は「セ6パ4→1リーグ制移行」または「セ6パ4→巨人のパ移籍→セ5パ5」だ。

しかし、パ・リーグのもう1組の合併(ダイエーとロッテ)が容易に成立しなかったため、強硬派は、経営難に陥っているダイエー球団の親会社(ダイエー本社)の自主再建計画がまとまる04年10月下旬か、あるいは、産業再生機構を活用した、国家管理による再建計画のまとまる04年11月下旬まで(再建計画によって、球団保有が不可能になると判明するまで)とにかく当面、パ・リーグが6球団に戻らない(ダイエー球団の消滅や吸収により9月10日の労使間の暫定合意が無効になって「パ4」になりうる)状態(パ5球団以下)を維持しておかなければならなくなった。

【9月17日の交渉で経営側が、「来季05年に向けて」新規参入を促す「最大限の努力をする」という選手会が求める文言を合意文書に入れるのを拒み、「新規参入は05年以降(06年から)」と言い張ったのは、ダイエー球団が窮地に陥る04年11月下旬まで「パ5」で時間稼ぎをしたい強硬派が、穏健派を(僅差で)制したからだ。】

9月10日に選手会と経営側が取り交わした合意文書に「来季(05年)セ6球団、パ5球団以上」とすることに「暫定的に合意する」と書いてあるのは、選手会側と経営側の妥協の産物というよりむしろ、経営陣内部の穏健派(パ5以上派)と強硬派(パ5以下派)の妥協の産物だ。

12球団経営陣の結束力は弱い。NPB(経営陣の集合体)は、選手会(古田)と違って「弱い権力」なのだ。だから、経営側は選手会に対して譲歩することができず、18〜19日のストが回避できなかった。

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●ナベツネ不在●
なぜこんなに経営側は弱くなったのか?……経営側には選手会の古田に相当する「まとめ役」がいないからだ。

従来この役は、巨人の渡辺恒雄・前オーナー(読売新聞社会長。通称ナベツネ)が務めていた。渡辺は、最大の人気球団である巨人との対戦カードの利益を求めてセ5球団がすり寄って来ることを利用し、巨人の「球界の盟主」としての地位を守って来た。

たとえば渡辺は90年代、巨人に一流選手が集まるように、ドラフトの逆指指名制やフリーエージェント(FA)制を導入すべく野球協約の改正を画策した際、他球団が反対すると「NPBを脱退して新リーグを作って、おまえらが巨人戦をやれないようにしてやる」と恫喝して服従させ、オーナー会議の多数決を思い通りに操って協約改正を実現した。

もし04年9月現在、渡辺がまだ巨人オーナーであり、渡辺がその強大な権力を握ったまま「譲歩する」と決めれば、経営側は選手会に対して一致して譲歩でき、ストは回避される。

ところが04年8月13日、渡辺はオーナーを辞任してしまった。
形式上は、巨人のスカウトが大学野球の一流選手を入団させるために「ドラフトの裏金」を渡すという協約違反を犯したので、その責任を取って辞任したことになっている。が、これは別件逮捕ならぬ「別件スキャンダル」だ。

辞任のほんとうの理由は、04年7月8日に渡辺が、渡辺との面会を求める古田のことを「たかが選手」と口汚く罵ってファンの反発を買い、読売新聞への不買運動が広がったことにある。それ以来「独裁者ナベツネは辞めろ」などと主張する「不買運動サイト」がインターネット上に多数出現していたのだ(夕刊フジWeb版04年7月23日「渡辺オーナーに北風…ネットで『読売不買』運動 」)。

が、この無邪気な不買運動が事態をかえって悪化させた。「ご希望どおり」渡辺が第一線から退いたため、まとめ役を失ったNPB経営陣は空中分解を始め、各球団のオーナーはそれぞれ勝手なことを言うようになった(04年9月11日放送のTBS『ブロードキャスター』での、西村欣也・朝日新聞記者の発言)。

こうなると、経営側には譲歩できるほど強大な権力を持った者がだれもいないので、選手会側は何を要求してもムダだ。経営側は、台湾問題で譲歩できずバカげた主張をせざるをえない「弱い中国」と同じ状態になってしまったので、ファンも選手会も今後は「相当にバカげたこと」が起きると覚悟しなければならない。

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●ナベツネを出せ●
しかし幸いに、オーナーを辞めたあとも巨人の親会社の会長である渡辺は、球界に対してまだ影響力を持っている。それは、04年8月28日にもうオーナーでない渡辺が「巨人のパ・リーグ移籍」を口走って、その発言が大きく報道されたという事実にはっきり表れている。

ならば、選手会を支持する野球ファンは、抗議の仕方を変えなければならない。もう「ナベツネ辞めろ」と言っても意味はないので、こんどは「ナベツネ出て来い」と言って不買運動などをする必要がある。

読売新聞への抗議(mailto:webmaster@yomiuri.co.jp)により渡辺を記者会見の場に引きずり出し、以下のようなメッセージを出させれば、04年9月19日現在球界が直面している未曾有の危機は解決される:

謹啓 野球ファンの皆様
昨今のプロ野球界の混乱の責任はすべて私にあります。
私が、堤義明・西武球団オーナーや、宮内義彦オリックス球団オーナーらとはかって球団数を削減してリーグ再編をめざしたのは、球界の発展を願ってのことではありません

(中略)

元々私はけっして、ライブドアなどの新興ベンチャー企業に、球団を経営する能力がない、とは思っていませんでした。私が彼らの球界参入に反対していたのは、彼らが失敗しそうだから、ではなく、成功しそうだから、だったのです。

(中略)

私は読売巨人軍の親会社の会長として、滝鼻卓雄・現巨人オーナーと会談し、これ以上球団削減につながる動きを一切せず、むしろ球団を増やす努力を最大限するように提言します。
すでに巨人以外のセ・リーグ5球団と日本ハム球団は、削減に反対する選手会の主張に理解を示していますので、滝鼻が「最強硬派」の宮内オーナー(朝日新聞前掲記事)を説得しさえすれば、12球団の大半が選手会の主張に歩み寄ることとなり、9月25日以降のストライキは回避できるでしょう。

(中略)

私は読売新聞社の経営から退くことは当面考えておりません。が、巨人軍の経営にかかわることはもうございません。ですから、私の野球経営に関する言動に不快の念を抱かれたプロ野球ファンの皆様も、もう読売新聞への不買運動などはなさらずに、読売新聞、読売巨人軍、そして日本プロ野球界全体への御支持、御声援を賜りますようお願い申し上げます。

敬具
2004年9月24日
-- 読売新聞社会長
渡辺 恒雄
【ナベツネ懺悔の「全文」は → こちら

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●桶狭間の奇襲戦●
読売新聞の購読者数が10%以上減り、読売新聞社への抗議メール:

ダイエー本社とダイエー球団の命運にかかわらず、来季(05年)2リーグ12球団以上を約束する、と渡辺恒雄会長が明言しない限り、私(わが社)は読売新聞を購読・購入しません」

が1万通以上届かない限り、あの傲慢な渡辺がこんなコメントを出すことはないだろう。

が、「大読売」と「インターネット」と、メディアとしてどっちが強いのか、いっぺん試してみる価値はあるのではないか。米国では、インターネット上で「イラク戦争反対」を唱えるblog(ブログ、簡易型ホームページ)同士がコメントを投稿し合ってリンクで結び付き、「反戦」以外にさしてとりえのない、マスコミが軽視していた泡沫候補、ハワード・ディーン前バーモント州知事を、03年後半の一時期とはいえ、米民主党の大統領候補指名争いのトップに押し上げた、という例もある(このため米国ではblogは、日本のように「個人の日記」としてではなく、市民運動の手段として知られている。産経新聞04年3月6日付朝刊21面「正論」)。

この種の運動で効果をあげるには、大勢の参加を容易にするため作戦をシンプルにしたほうがいい。「桶狭間の奇襲戦」と同様に、標的は1つ(読売の渡辺)に絞り、宮内のような雑魚は攻撃対象から除外し、抗議メールの宛先もmailto:webmaster@yomiuri.co.jpに絞るべきだ。

【「リーグ再編の首謀者(1リーグ主義者)は、堤であって渡辺ではない」という説が、野村克也ら球界関係者のあいだでささやかれている。が、それが事実なら、渡辺が読売新聞紙上で釈明すればいいので、やはり目標は「ナベツネ引きずり出し」だけでよい。】

尚、不買運動参加者は読売新聞社のサイトにアクセスしてもよいが、絶対にバナー広告はクリックしないこと。

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【この問題については次回以降も随時(しばしばメール版の「トップ下」のコラムでも)扱う予定です。
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 (敬称略)

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