セパ不一致

〜シリーズ「球界再編」(5)〜

Originally Written: Sept. 07, 2004(mail版)■セパ不一致〜週刊アカシックレコード040907■
Second Update: Sept. 07, 2004(Web版)

■セパ不一致〜シリーズ「球界再編」(5)■
04年9月8日のオーナー会議で提起される見通しのパ・リーグの「もう1組の合併」を承認する義理はセ・リーグにはない。リーグ再編か交流戦の導入によって巨人戦(のTV放送権料)が減ることを恐れる巨人以外のセ5球団が反対すれば、パは球団数を6に戻す方向に追い込まれる。
■セパ不一致〜シリーズ「球界再編」(5)■

■セパ不一致〜シリーズ「球界再編」(5)■
【前回「本命ソフトバンク〜シリーズ『球界再編』(4)」は → こちら

3か月間パ・リーグで議論されて来た、オリックス・近鉄の球団合併と異なり、04年9月8日の、日本プロ野球機構(NPB)オーナー会議で提起される見通しの、パ・リーグの「もう1組の合併」(たぶん西武とロッテ。スポニチWeb版04年9月7日「堤氏が重光オーナー代行らと極秘会談」)(「大穴」として、西武と横浜。夕刊フジWeb版04年9月2日)を承認する義理はセ・リーグ各球団にはない。リーグ再編か交流戦の導入によって巨人戦(のTV放送権料)が減ることを恐れる巨人以外のセ5球団が反対すれば、パは球団数をふたたび6に戻す方向に追い込まれる。

●経営権は守った●
04年9月6日、労働組合「プロ野球選手会」は、神戸で臨時運営委員会を開き、「オリックス・近鉄の球団合併の1年間凍結」を求めるとともに、凍結期間中「球団新規参入要件の緩和」「ドラフト改革」「収益分配策」を協議し、球団数を削減しない経営改善策を主張した。そしてこれらの要求が、04年9月10日午後5時までに受け入れられなければ、9月11日以降、9月中毎週土曜と日曜の全試合でストライキを実施する、と決めた(産経新聞04年9月7日付朝刊1面)。

同日都内で開かれていた、NPB加盟12球団の代表者(球団社長、球団代表らの経営者)とセパ両リーグ会長によるプロ野球臨時実行委員会は、上記のスト決定を知ったうえで(合併凍結の仮処分を求める選手会の訴えが、04年9月3日と6日に東京地裁・高裁で退けられたことも踏まえ)オリックス・近鉄の合併を正式に承認した。「合併は経営権の問題だから」というのが12球団経営者側の言い分で、ここまでは(広島の代表者が、採決を棄権したものの)球団合併を拒否しないことで、12球団の態度は一致していた。

彼らにしてみれば、経営上の問題に対する選手会の発言をいったん許せば、今後も同様の事態を招き、経営がやりにくくなる、という思いがあったことは想像に難くない。

なら、噂されるパ・リーグのもう1組の合併についても、同じように「経営権の問題だから」と承認するか、というと、ことはそう単純ではない。

すでに、オリックス・近鉄の合併に関して選手会の要求をはね付けて「承認」したことで、経営者側は経営権は守ったのだ。ここから先は、各球団の利害が交錯し、経営者側はばらばらになってしまう。

●あとは知らない●
1組の合併を承認すると、球団数はセ6、パ5で、計11球団となる。これでは、1リーグ制移行などのリーグ再編を行うには数が多すぎる。巨人の渡辺恒雄前オーナーも04年7月7日のオーナー会議以降「11球団なら2リーグ」と公言して来たこともあり、この場合(パは球団数が奇数になって日程編成が難しくなり、試合数が減って収入が減るが)、パはセから見捨てられることになる(毎日新聞Web版04年9月3日)。

セ・リーグの巨人(渡辺)からは、パでもう1組の合併が成立したら「10球団1リーグ」か、巨人がパに移籍して、セパ両リーグの交流戦を大幅に取り入れた「5対5の2リーグ制」という、パ・リーグ救済案が非公式に提案されている(毎日新聞Web版04年9月3日)。

しかし、これは、巨人以外のセ5球団には、百害あって一利もない案だ。
合併に伴って球団が選手を大量解雇すると、選手会は「自分たちの雇用問題」としてストなどの強硬手段を行使するための、完全無欠な大義名分を得てしまう(から、「経営権に干渉する違法なストだから損害賠償を請求する」といった脅しはできなくなる)。経営者側はこれを避けるために、身分は一軍選手から二軍選手に落とすかもしれないが、とにかく「再ドラフト」などによって、合併対象球団の選手は全員どこかの球団で雇用する、と主張して来た。

1組合併すると、事実上1球団が消滅するのと同じなので、単純計算で約70名の選手が余剰人員となる。それを11球団で均等に割り振って引き受けると1球団あたり6名前後だ。

これだけでも、広島、中日のようなあまり裕福でない球団にとっては重い負担だが、もう1組合併すれば、引き受ける「余剰人員」の数は倍になる。その人件費は1球団あたり1億円を超えるはずだ。

しかも「もう1組の合併」が成立すると、パは4球団になるので、「10球団1リーグ制」か、巨人がパに移籍した「5対5の2リーグ制」への移行か、どちらかが現実的な球界再編案としてオーナー会議などの議題にのぼって来る。このような再編が行われると、セ・リーグの広島や中日の場合、現在年間14試合ある対巨人の主催試合が大幅に減り、TV放送権料の喪失などにより、年間数億円の減収となる(毎日新聞Web版04年9月7日「巨人パ移籍ならセ5球団赤字の試算」)。

つまり、パの「もう1組の合併」は巨人以外のセ5球団にとっては、支出(人件費)が増えて収入が激減し、経営を悪化させるだけで、得るものは何もない、という計算になる。

それならば、セ5球団は、04年9月8日のオーナー会議で「もう1組の合併」を承認する必要はない(すでに6日の臨時実行委員会における、広島の「棄権」にその兆候が見て取れる。スポーツ報知Web版04年9月7日「臨時実行委 オ近合併を正式承認」)。セ5球団の経営者は「合併反対」というと、選手会の経営権干渉要求に屈した形になるので、そう言わないだろうが、6日の臨時実行委員会ですら具体的な合併対象球団名が示されなかった点をふまえ、「あまりに唐突なので、もう1組の合併は継続審議にしよう」と主張することはできる。これはビジネスマナー上も非礼にはあたらない。

野球協約上、球団合併などの承認には総球団数(12)の3/4、つまり9球団以上の賛成が要る。したがってセ5球団が「継続審議」を唱えて反対すれば、パの、もう1組の合併は成立しない。

それでも、パ側は「来季、球団数が奇数では困るから」「あと1か月くれれば具体的な条件をまとめるから」などと哀願し、なんとか「セの慈悲」にすがり付こうとするだろう。

しかし、セは昔から自分勝手だ。約10年前、近鉄のオーナーが土下座して「パ救済のために、セパの交流戦を導入してくれ」と頼んだときも、セ5球団の経営者は、自分たちが巨人戦で得ている利益を守るためにこれを拒否している(04年9月6日放送のフジTV『すぽると!』)。彼らが急に慈悲深くなることはありえないので、おそらく彼らは今回、パにこう言うだろう:

「この時期(9月)に球団数が5か4か決まらないのは遅すぎる。もう来季の日程を決めて営業活動を始めないと商売上がったりだ」
「もう交流戦も、巨人のパ移籍もなしだ」
「セパで話し合うのは、オールスター戦と日本シリーズの日程だけでいい。セはセだけで公式戦の日程を決める」
「パはパでお好きなように、いつまででも5か4かで悩んでいてください。もうセには関係ないから」

04年8月中に具体的に球団名が出なかったことをもって、すでに「もう1組の合併」は時間切れ、とみなす球界幹部は少なくない(時事通信Web版04年9月5日「阪神社長、『もう1組の承認は無理』」、サンスポWeb版04年9月7日「事実上、来季はセ6・パ5の変則2リーグ制となる公算が」)。

●妥協点●
6日の、選手会・臨時運営委員会のあとの記者会見で、古田敦也・選手会会長は「8日のオーナー会議で球団数が削減されるような決定がされるようであれば」ストをする、と言った。が、「何がなんでも、オリックス・近鉄の合併を凍結せよ」とは言っていない。そして、合併凍結の「付帯決議」で、球団の新規参入要件の緩和に言及している。つまり、球団数が減らなければいいのであって、オリックス・近鉄の合併成立後に、どこかの企業が新球団を設立して球界に参入して、「余剰人員」の選手を引き取ってくれるなら、それでいいのである。

【前回述べたように、すでにIT(情報技術)関連企業のライブドアが、そのような新球団を設立したいと表明しているし、参入したい企業はいくらでもあるので、心配は要らない(小誌04年9月1日「本命ソフトバンク」)。】

球団(経営者)側も、とくにパ・リーグの場合、来季の球団数が奇数では困るという切実な事情があり、新規参入要件の緩和(とくに、最大の参入障壁と言われる「既存球団買収なら30億円、新球団設立なら60億円」という加盟料の減額)によって、新球団を迎え入れて「最悪の事態」を回避したい、という気持ちはないわけではない。

6日の臨時実行委員会で、豊蔵一セ・リーグ会長が、加盟料の減額に言及したのはその表れと見てよい(スポーツ報知Web版04年9月7日「臨時実行委 オ近合併を正式承認 加盟・参加料に限度設定」)。

したがって、根来泰周コミッショナーの「(球団経営者側、選手会側双方の主張は)落としどころがない」という意見(産経新聞04年9月7日付朝刊1面)は間違いだ。「落としどころ」ははっきりしている。それは、10日午後5時までに、経営者側が「新球団設立、新親会社参入を促す制度改革を行う」と表明すればいいのだ。これは古田の言う「球団数の削減」ではなく、「球団数の現状維持(または増加)」を意味する。

そうすればストは回避できるし、最悪でも最初の週末の2日間(一軍の試合数にして12試合)で済む(2日ぐらい、台風が来たと思えば、日程編成上どうということはない)。結果的に、6日の選手会のスト権決定は、賢明であり「いい刺激だった」ということになる。

●本命はIT業界●
すでにダイエーとの合併に失敗し、西武との合併にももたついているロッテは、単独での球団経営能力がないことを世間に知らしめた(恥をさらした)形になっており、新規参入要件が緩和されれば、同じ韓国系の経営者率いるソフトバンクなどに身売りする可能性は十分にある。もちろん、前回述べたように、オリックス・近鉄の合併で誕生する新球団(経営権は事実上オリックス単独)を、宮内義彦オリックス球団オーナーとの個人的な関係によって、孫正義ソフトバンク社長が買い取る可能性も十分にある(小誌前掲記事)。

03年からオリックス球団の本拠地「ヤフーBB球場」の命名権を買うという形で、野球ビジネスで実績を作っているソフトバンクグループに、球界参入の意思があるのは、明らかだ。

NTTに対抗して固定電話の基本料金サービス(04年12月開始の「おとくライン」)を始めようとする、この巨大IT企業が球界に参入すると、巨人(の親会社、読売新聞)が「球界の盟主」であった時代は終わる。

単なるマスコミ企業(新聞社やTV局)と異なり、電話会社(ソフトバンクの子会社の日本テレコム)という、生活に不可欠なインフラ企業がはいって来るのは、球界にとっては前代未聞であり、巨人にとって十分警戒すべき事態だ。

じっさい、この状況なら……一部球団の経営者が「球団削減」の陰謀を進めれば進めるほど、「旧球団」から解雇される選手の数が増えるので……ソフトバンクやライブドアがいったんNPBに加盟したあと、そうした余剰人員の選手を集めて「新リーグ結成」をほのめかすことも、その資金力から見て十分可能になる。

いままでは「新リーグ結成」で他球団に脅しをかけるのは巨人の専売特許だったが、これからはどうなるかわからない。

それがイヤだから、巨人は球団数削減によるリーグ再編をめざしたのではあるまいか。球団数が現状維持か、または増加するなら、いずれ成長著しいIT業界から新興企業が球界に参入して来ることは避け難い。球団数が減れば、新規参入は抑制されるので、巨人の主導権は維持される、と巨人(の渡辺恒雄前オーナー)は思ったのだろう。

が、選手会とファンの反発は予想以上に大きく、すんなりと巨人の思惑通りには行かなかったようだ。

【いままで「新リーグ結成」と言って他球団を脅して来た巨人が、今回は「パ・リーグ移籍」と言っている。これは、巨人などの既存球団の経営の失敗によって国内の野球人気が急落し、もはや既存球団の親会社には(新興IT企業などと違って)革新的な行動を起こす体力や知恵がなくなったことを意味している。つまり、「巨人人気に他球団がすがる」という構図のほかに、「巨人が、九州や北海道で絶大な人気を得ている、ダイエー、日本ハムなどのパ球団との新鮮な対戦によって、自らの人気を維持・回復したい」という側面が見えるのだ。】

もちろん巨人には「11球団1リーグ」や、巨人がパに移っての「セ5・パ6の2リーグ制」などという暴論で脅して、セ5球団を承服させるテもないわけではない。が、それをやったら読売新聞への大規模な不買運動が起きるだろうし、新興IT企業の新球団設立・参入はかえって容易になるだろう。

【この問題については次回以降も随時(しばしばメール版の「トップ下」のコラムでも)扱う予定です。
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 (敬称略)

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