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NHK「民営化シフト」か

〜分割もスクランブル化も視野?〜

Originally written: Jan. 07, 2008(mail版)■NHK民営化シフト?〜週刊アカシックレコード080107■
Second update: Jan. 07, 2008(Web版)

■NHK民営化シフト?〜週刊アカシックレコード080107■
2007年12月31日放送のNHK『紅白歌合戦』における変化を見ると、NHKが近い将来「分割民営化」か「有料スクランブル放送化」に至る可能性のあることが窺える。
■NHK「民営化シフト」か〜分割もスクランブル化も視野?■

■NHK「民営化シフト」か〜分割もスクランブル化も視野?■
【小誌2007年2月22日「北朝鮮の北〜シリーズ『中朝開戦』(1)」は → こちら
【小誌2007年3月1日「脱北者のウソ〜シリーズ『中朝開戦』(2)」は → こちら
【小誌2007年3月8日「戦時統制権の謎〜シリーズ『中朝開戦』(3)」は → こちら
【小誌2007年3月18日「すでに死亡〜日本人拉致被害者情報の隠蔽」は → こちら
【小誌2007年4月14日「国連事務総長の謎〜シリーズ『中朝開戦』(4)」は → こちら
【小誌2007年5月14日「罠に落ちた中国〜シリーズ『中朝開戦』(5)」は → こちら
【小誌2007年5月21日「中国の『油断』〜シリーズ『中朝開戦』(6)」は → こちら
【小誌2007年6月7日「米民主党『慰安婦決議案』の謎〜安倍晋三 vs. 米民主党〜シリーズ『中朝開戦』(7)」は → こちら
【小誌2007年6月14日「朝鮮総連本部の謎〜安倍晋三 vs. 福田康夫 vs. 中国〜シリーズ『中朝開戦』(8)」は → こちら
【小誌2007年7月3日「『ニセ遺骨』鑑定はニセ?〜シリーズ『日本人拉致被害者情報の隠蔽』(2)」は → こちら
【小誌2007年9月13日「安倍首相退陣前倒しの深層〜開戦前倒し?〜シリーズ『中朝開戦』(9)」は → こちら
【小誌2007年10月6日「拉致問題依存症〜安倍晋三前首相退陣の再検証」は → こちら
【小誌2007年10月22日「軽蔑しても同盟〜シリーズ『中朝開戦』(11)」は → こちら
【小誌2007年11月16日「先に『小連立』工作が失敗〜自民党と民主党の『大連立政権構想』急浮上のウラ」は → こちら
【小誌2007年11月26日「野球ドーピングクイズ〜北京五輪野球アジア最終予選」は → こちら
【小誌2007年11月30日「誤審の可能性?〜シリーズ『北京五輪野球アジア最終予選』(2)」は → こちら
【小誌2007年12月4日「『星野JAPAN 2.0』はあるか〜シリーズ『北京五輪野球アジア最終予選』(3)」は → こちら
【前回「大賞受賞御礼〜メルマ!ガ オブ ザ イヤー 2007」は臨時増刊なのでWeb版はありませんが → こちら

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昨2007年の大晦日の新聞に、NHKは今年から3年がかりで『紅白歌合戦』を再生させる計画(『紅白』再生プロジェクト?)をスタートさせ、その一環として、歌の持つメッセージ性(NHK用語で「歌力」、うたぢから)を重視し、応援コントなどの過剰演出は抑えることを決めたという趣旨の記事が載っていた(産経新聞2007年12月31日付朝刊20面「NHK『紅白歌合戦』“歌の力 歌の絆”復権へ3年計画」)。

毎年大晦日に放送されるNHKの看板番組である『紅白』の視聴率をNHK経営陣はかなり気にしている。が、その一方で、『紅白』の制作現場のスタッフが出場歌手の「応援」と称して、歌の合い間にお笑いタレントを「乱入」させたり、大勢の出場歌手を動員してコントやゲームなどのくだらないパフォーマンスをさせたりすることは、視聴者の不評を買っており、『紅白』の視聴率低下(関東地区では1963年の番組全体平均81.4%から2006年の第2部平均39.8%へ、ほぼ毎年漸減中)の一因とも指摘されており(産経前掲記事)(視聴率はすべてビデオリサーチ調べ。以下同)、その「コーポレートガバナンス」(企業統治)の矛盾が露呈していた。

なぜこんな矛盾が起きるのか。
NHK職員の知人らの話を総合して推測するなら、それはNHK娯楽芸能番組部門内の「バランス・オブ・パワー」(力の均衡)の問題だろうという結論にならざるをえない。
娯楽芸能番組は、ドラマと音楽・バラエティ番組とに大別されるが、ドラマの制作スタッフには、毎朝8時15分の「連続テレビ小説」(朝ドラ)と毎週日曜日夜8時の「大河ドラマ」という、2つの国民的番組、つまり高視聴率の「晴れ舞台」があり(2007年の「年間視聴率トップ50」に同年の朝ドラ『どんど晴れ』は9月7日放送回の24.8%、同年の大河ドラマ『風林火山』は2月4日放送回の22.9%という、それぞれ自己最高記録でランクインしている。産経新聞2007年12月31日付朝刊20面「年間視聴率トップ50 今年最高の瞬間、ミキティ逆転V」)。もちろん、音楽番組の制作スタッフにも『紅白』という晴れ舞台がある。

しかし、バラエティ番組の制作スタッフにはこれといった「晴れ舞台」がない。NHKは多数の(音楽性の乏しい)バラエティ番組も制作し放送しているが、それらの視聴率は、朝ドラ、大河、『紅白』に遠く及ばず、とても国民的番組とも晴れ舞台とも言いようのないものばかりだ(但し、筆者の見る限り、視聴率が低くても、内容がつまらないとは限らない。『サラリーマンNEO』などかなり面白いものも少なくない)。

娯楽芸能番組制作陣のなかで唯一晴れ舞台らしい晴れ舞台を持たないバラエティ番組のスタッフたちはけっこう人数が多いため、彼らが一致結束して「オレたちにも晴れ舞台をよこせ」(人気タレントを大勢動員する「権力」を味わわせてくれ)という声を上げると、NHK局内では反対するのが難しかったようだ。

その結果、音楽番組である『紅白』に本来関与すべきでないバラエティ系のスタッフが毎年毎年ちょっかいを出し、視聴者が思わずチャンネルを替えたくなるようなくだらないパフォーマンスが歌の合い間にだらだらと挿入される、という視聴率獲得上明らかに好ましくないことが「伝統」の如く永年続いて来た(らしい)。

上記の新聞記事(産経前掲記事「NHK『紅白歌合戦』“歌の力 歌の絆”」)を見たとき、筆者は「ほんとかよ」と疑ったが、じっさいに放送を見てみると、たしかに邪魔くさいパフォーマンスはほとんどなくなっていた。どうやらようやくNHK経営陣はバラエティ番組制作陣を制圧し、『紅白』に対するガバナビリティ(統治能力)を確立したようだ。

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●2011年問題●
それにしてもNHK経営陣はなぜ急に「やる気」になったのだろう。また、バラエティ番組制作陣はなぜ国民的番組での晴れ舞台をあっさり?諦めたのだろう。

1951年のラジオ放送のみの時代から毎年続く『紅白』は1989年から放送時間枠を前に拡大し、途中にニュースをはさんで第1部、第2部に分ける形をとっており、夜7時台に始まる第1部の視聴率は(関東地区では)常に第2部の視聴率より悪いので、経営陣が問題にするのは第2部の視聴率なのだが、第2部の視聴率は2004年に初めて40%台を割って歴代最低の39.3%を記録して以降、2005年に42.9%に回復し、2006年にまた39.8%に落ちたとはいえ、ほぼ横ばいだ(ビデオリサーチWeb 2008年1月2日「NHK総合『紅白歌合戦』の視聴率」)。

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【但し、日本で唯一の視聴率調査会社であるビデオリサーチは、地上(波)放送の番組を(録画でなく)放送されている時刻にリアルタイムで見た世帯の視聴率しか公表していない。この理由として考えられるのは、「録画視聴者はCMをスキップして見る可能性高いので、録画視聴率では民放番組の広告媒体としての価値を測れないから」そして「地上波以外の衛星放送(BS)の視聴率は極端に低いので、それを公表すると『こんなに不人気なもののために税金を使って放送衛星を打ち上げたのか』という非難が国会などで沸き起こる恐れがあるから」だろう。おそらくビデオリサーチ(の親会社の電通)がNHKと民放に配慮して、BS視聴率や録画視聴率の公表を自粛しているのだろうと思われる(が、NHKや民放の幹部は当然、それらの数字を内々に教えてもらっているはずだ)。
が、NHKは地上波放送番組をBSでも同時、あるいは同日の異なる時間帯に放送しているので、それを加味すると『紅白』の関東地区視聴率は一度も40%を切っていない可能性が高いし、『風林火山』の関東地区年間平均視聴率は民放の他のいかなる連続ドラマよりも高い可能性がある。】

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とすると、とくに著しい視聴率の悪化もないのに、「3年がかりで『紅白』再生プロジェクト」を始める必要がなぜあったのか…………表向きは「再来年(2009年)の第60回メモリアル紅白を視野に入れ」た計画ということになっているが(産経前掲記事「NHK『紅白歌合戦』“歌の力 歌の絆”」)、それなら、なぜ第50回や第55回の節目には、バラエティ系スタッフを追放する英断を下さなかったのか、という疑問が残る。

計画どおりに行けば3年後、2009年末に「再生」作業が完了し、その翌年、2010年末の『紅白』は新しく確立された伝統に基づいて制作されることになるから、2007年の第1部でごくわずかに見られたお笑いタレントの登場も完全に駆逐され、純粋な音楽番組になっているだろう。そしてその約半年後、2011年7月25日までには地上波アナログ放送が停止され、地上(波)放送がデジタル放送のみになる。そうすると、NHKは放送にスクランブルをかけ「受信料を払っていない世帯には番組を見せない」ことが技術的に可能になる。

この「スクランブル化」について、NHKは表向きは否定している(2008年1月現在NHK Webに掲載されている「寄せられたご意見に副会長 永井多恵子がお答えします。→ 1.NHKはスクランブル方式を導入するべきだ。」)。

が、それはあたりまえだ。
現在、全国約5000万世帯のうち(正確には2006年3月31日時点で51,102,005世帯。総務省Web 2006年3月31日「住民基本台帳に基づく人口・人口動態及び世帯数」)、受信料不払い世帯は約990万(2006年3月末時点の未契約世帯数)とも言われるが(読売新聞Web版2006年10月6日「NHK、受信料不払い世帯へ“最後通告”」)、彼らは筆者のような者が支払う受信料に「ただのり」してNHKの番組を見ている。地上デジタル放送への移行を知らせるNHKや民放各局のCMに促されてデジタルTV受信機を買った世帯のなかには当然、「タダでNHKの(地上)デジタル放送(地デジ)が見られる」と信じて受信機を買った者も相当数いるはずだ。
この「地デジただのり主義者」は、もし将来NHKの地デジがスクランブル化されると事前に知らされていれば、デジタル受信機は買わなかった可能性が高い。現在、NHKの地上アナログ放送のみを「ただのり」で見ている受信料不払い世帯は、デジタル放送で将来スクランブル化が予定されているとなれば当然、たとえ経済的余裕があってもデジタル受信機の購入を故意に避けると予測される。そしてそのせいで、2011年になってもデジタル受信機を購入していない世帯が著しく多いという事態になれば、国会で与野党が彼らの票ほしさに「法律を改正して、地上デジタル放送への完全移行(アナログ放送の停波)を(無期)延期すべき」と言い始めるだろう。そうなれば、NHKのスクランブル化は半永久的にできなくなるかもしれない。

つまり、2008年現在、NHKが「スクランブル化したい」と言わないのは、スクランブル化をしたくないからではなくて、将来、(地上)デジタル受信機が十二分に普及して確実にスクランブル化できるようになってからスクランブル化するために、その条件が整うのを待っているから、と考えることができるのだ。

この問題を考えるうえで参考になりそうな資料がある。放送行政の所管官庁である総務省が、NHKの(地上デジタルではなく)BSデジタル放送のスクランブル化に関する放送・通信業界関係者や一般視聴者から集めた意見の概要だ(総務省郵政事業庁Web 1999年1月26日「NHKのBS放送のスクランブル化に関する意見募集結果」)。これによると、BSデジタルに限るとはいえ、NHKの放送をスクランブル化することに賛成の意見は、受信機メーカーの業界団体である日本電子機械工業会や電機メーカー社員、中小事業者の放送事業への新規参入を容易にするために必要だとする匿名の放送事業者、受信料不払い世帯に対する不公平感を持つ一般視聴者や、日本ケーブルテレビ連盟などから多数寄せられている。

反対意見も多数あるが、そのうち「デジタル放送とアナログ放送の視聴者の負担の仕方が異なることは、無用の混乱をもたらす」という類の意見(NHK、テレビ朝日)や、「地上放送は受信料、BS放送は有料スクランブル放送となれば……NHKの受信料制度が変質し……NHKの商業化(民営化)に道を開く」とする意見(日本民間放送連盟)は、2011年7月のアナログ停波以降は意味がなくなるので無視してよかろう。

(地上波)民放各局のほかの反対意見の大半は、要するに「商業化(民営化)した、強大なNHKと(CMスポンサー獲得)競争をさせられたんじゃたまらない」という、視聴者のためではなく、わが身のための意見であり、これは、民放各局以外の当事者、すなわちNHK、総務省、国会の与野党や視聴者の大半が地上波を含むNHK全体のデジタルスクランブル化に合意すれば(2011年7月以降は)あまり問題にならないだろう(というか、デジタル録画機、DVRの普及でCMスキップが蔓延する時代に、わざわざNHKがスキップされるものの獲得競争に乗り出すとも思えない)。

反対意見のうち唯一視聴者の立場に立ったものは、「災害時の緊急放送を流すという公共性を考えると、NHKはスクランブル化すべきでない」という意見だが、それを言うならそもそもデジタル化などすべきでない。なぜなら(後出のCS放送の場合はアナログでもそうだが)デジタル放送ではBSでも地上波でも、電波をエンコード(暗号化)して送信し、家庭で受信したあと受信機内でデコード(解読)してから画面に映し出すため、必ず数秒間のタイムラグが生じるからだ。この数秒間の遅れは、一刻を争う地震や津波についての情報伝達の緊急性を考えると、「致命傷」になりかねない。

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【放送関係者が、元々災害緊急放送に向かないデジタル放送を、視聴者の希望も聞かずに勝手に推進しておいて、NHKの商業化(民営化)が取り沙汰された途端に「災害時に向かないからスクランブル化するな」などと急に「人命尊重」のような意見を言い出すのは、明らかに偽善である。】

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そんなに災害が心配なら、NHKを「分割民営化」して、そのうち「NHKニュース専門チャンネル」(あるいは、あまり面白くない番組ばかり流す「NHK総合チャンネル」)のみを受信料すら徴収しない完全無料のスクランブル放送にし、他のNHKチャンネルにスクランブルをかければいいではないか。
いずれにせよ、2011年7月25日のアナログ停波以降は、NHKがスクランブル化してはいけない理由は、視聴者、国民の立場で考えればほとんどないのだ。他方、スクランブル化すべき理由としては、2008年現在、受信料不払い世帯の増加による負担の不公平という現実が厳然と存在する。

極端な言い方をすれば、NHKは、2008年の現時点では、受信料不払い世帯が少々増えても、彼らが(だまされて?)地上デジタル受信機を買ってくれる限り、かまわないと思っているかもしれない。なぜなら、2011年7月以降は、不払い世帯に「あかんべえ」をして「受信料を払わないやつには見せないぞ」と堂々と言える条件が整うからだ。

NHKの職員たちは永年、税金にもスポンサーからの広告収入にも依存しない、政府や企業から完全に自立した独立性の高い番組作り、つまり「言論の自由」を謳歌して来た。
大河ドラマや朝ドラの制作スタッフは「CMを入れる時間」を気にすることも「スポンサーのイメージダウンにつながるセリフ」を書くのを我慢することもなく、やりたいようにやって来た。報道番組のスタッフも同様で、日立、東芝などのITゼネコンが永年地方自治体のITシステム構築受注の際(互換性の低い独自OSを押し付けてメンテナンス業務を独占受注して)不当に儲けて来た実態を告発した『クローズアップ現代』(2005年1月18日放送の「自治体 vs ITゼネコン」)や、韓国の一流企業サムスン電子の半導体製造技術が東芝の「パクリ」であり、韓国の「独創技術」のレベルが相当に低いことを暴露したNHKスペシャル『日本の群像 再起への20年(8)』(2005年12月25日放送の「トップを奪い返せ〜技術者たちの20年戦争」)は、東芝やサムスンをCMスポンサーとする可能性のある民放には制作不可能だろう。
NHKの職員たちはこの制作体制を維持したいはずで、不払い問題を解消しつつこの体制を守るには、(後出のCS放送のように、CMと受信料の両方に依存するのではなく)スクランブル化によって徴収する受信料のみを主要な財源とするシステムに移行する以外に、選択の余地はあるまい。

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●NHKの危機感●
おそらく、現在民放TVの在京キー局(地上放送)に勤めている正社員のなかに「将来自分の職場がなくなってしまうかもしれない」という危機感を抱いている方はほとんどおられまい。民放は総務省の認可を必要とする免許事業だが、免許は毎年必ず(自動的に?)更新され、関東地区に限って言えば、今後強力な同業者のライバル(地上放送キー局)が新規参入して来る可能性はまったくない。経営陣は万一会社存亡の危機を迎えても、政治家(郵政族議員?)に陳情すればなんとかなると思っており、現に2005年、当時フジテレビの筆頭株主だったニッポン放送の株が新興企業のライブドアに大量に買収されて、フジテレビがライブドアの傘下にはいりそうになったときにも、大勢の政治家が動いてライブドアに手を引かせている。

これに比べて、NHK職員の危機感は半端ではない。なぜなら、NHKは民放のような株式会社組織ではなく、放送法に基づく受信料収入に依存する特殊法人だからだ。
たとえば、総理大臣や総務大臣の諮問機関が「NHKを廃止すべき」という答申を出し、それが政府提出法案になって、国会で過半数の賛成を得れば、NHKはなくなってしまう。
だから、NHK職員はみな「ある日突然、自分の職場がなくなってしまうかもしれない」という危機感を民放とは比べ物にならない深刻さで抱いているし、番組制作スタッフは「将来どんな経営形態になっても生き残りたい」ために、自分たちの放送人としての実力を示す尺度である視聴率を、民放以上に気にしている。

彼らはNHKの経営形態が変わる可能性を現実のものとして深刻に考えているが、そのシナリオのなかには、NHK全体の「一括スクランブル化」のほかに、(NHKのチャンネル数や支局数、職員数が民放各社に比べて圧倒的に多く、既存の民放との公正な競争が難しいことから)当然「分割民営化」もあるはずだ。

2008年現在、NHKのTV番組はニュース(報道)、スポーツ、教育(教養)、ドラマ、音楽、バラエティなどのジャンルに大別できるが、これらの番組は、地上(波)放送のNHK総合、NHK教育、衛星放送のBS1、BS2、BShiの合計5チャンネル(5波)でごちゃまぜに放送されている(同じNHK総合でも2011年7月まではアナログとデジタルがあり、NHK教育、BS1、BS2でも同様だが、番組がほとんど同じなので、ここではそれぞれ、あわせて1波とする)。2011年7月以降もこの5波のデジタル放送が維持されると仮定し、スクランブル化を導入し、地上波のうち1波を「災害緊急時のためのノンスクランブル放送」とし、残りの4波をスクランブル化するとすると、4波ではジャンル別の棲み分けによる「分割民営化」が行われる可能性がある。

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【現在NHK-BS1はおもにニュースとスポーツ、BS2ではドラマ、音楽、バラエティ、映画、教育・教養を、それぞれ専門にしているが、分割された「旧NHK」の総チャンネル数は5より少なくなる可能性もある。】

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それはつまり、NHKが「ニュース専門チャンネル」や「教育専門チャンネル」「ドラマ専門チャンネル」「音楽・バラエティ専門チャンネル」など分割され、それぞれが独立採算制に移行することを意味する。

となると、いままで平等(?)だったNHK職員の給料は配属先によって大きく差が付くことになるだろう。つまり、いちばん高給の、いちばん儲かるチャンネル(局)はどこか、という問題が発生するのだ。

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【「分割民営化」されない場合は、ジャンル別の棲み分けではなく「カネのとれるいい番組は、スポーツでもドラマでもすべてBShiの「高額スクランブル放送」に集め、それ以外は地上波やBS1、BS2」といった「低額スクランブル放送」で流すという、あたかも飛行機の座席の「ファーストクラス〜エコノミークラス」にも似た「クラス分け」をする可能性もある。また、地上デジタル波は画質を落とせば3波に分割して同時に3つの異なる番組を放送することもできるので、地上デジタルの1波を3分割して、そのうちの1波(1/3波)のみを災害緊急放送に備えて、ニュースとつまらない番組ばかりの「エコノミークラス」(貧乏人専用チャンネル?)にし、残りのすべてを「ビジネスクラス」や「ファーストクラス」にする手もある。この場合、大河ドラマや『紅白』は確実に「エコノミー」からはずされるだろう。】

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上記のチャンネル分けを仮定して試算すると、いちばん儲かるのは間違いなく「ドラマ専門チャンネル」になる。
たとえば、米FOXテレビの人気ドラマ『24』シリーズの新作DVDを東京都内の、筆者の自宅付近のレンタルビデオ店で借りると、DVD1枚に2話(2回)はいって580円だ。『24』の1話は(CM抜きで)約44分だが、これはNHK大河ドラマの1話分(放送終了後の1分間のミニ番組と番宣を除いて43分30秒)の長さとほぼ等しいので、大河ドラマ1話分は新作レンタルビデオ(DVD)料金で換算して290円の価値があると言える。

大河ドラマは毎月約4話(3〜5話)ずつ「新作」が放送されるので、これを有料化すると「NHKドラマ専門チャンネル」は、大河ドラマだけで毎月、各視聴世帯から約1160円ずつ徴収できることになり、この金額は現在の地上放送受信料1300円にほぼ等しい。

2007年の大河ドラマ『風林火山』(地上波)の関東地区の年間平均視聴率は18.7%(産経新聞2007年12月18日付大阪朝刊26面「NHK大河『風林火山』(関西)平均視聴率は15.9%」)で、これはおそらくフジテレビの月曜夜9時の連続ドラマ枠(月9)の関東地区の年間平均視聴率より低い(月9『ガリレオ』の関東地区自己最高記録は10月15日放送の初回の24.7%、『風林火山』のそれは2月4日放送回の22.9%。産経前掲記事「年間視聴率トップ50」)。

しかし、日本にはフジテレビ系列局の受信できない(受信しにくい)地域がある一方、BShiやBS2を利用すればNHK(の大河ドラマ)を視聴できない地域はまったくない。BS視聴者や録画視聴者まで加味して、1話ごとの日本列島上の「絶対視聴人口」を測定し、その時間枠ごとの年間平均値を出すことが可能なら、「大河」の平均視聴人口は「月9」のそれを上回るはずだ。

それに、NHKブランドに対する日本国民の信頼は非常に厚い。NHKの大河ドラマと朝ドラは、それぞれ1963年、1964年の放送開始以来、どんなに不評のときでも視聴率が1桁になったことが一度もなく、「大河だから」「朝ドラだから」とりあえず見るという「視聴習慣」を持つ視聴者が全国通津々浦々に根強くいる。

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【TBSの日曜夜9時のドラマ枠「日曜劇場」の関東地区視聴率は、2007年1〜3月の『華麗なる一族』放送中は毎週20%以上の高率を記録したが、この作品の放送終了後には大幅に下落し、10〜12月放送の『ハタチの恋人』放送時には最低で1桁の6.4%まで落ちており、大河ドラマのような安定性はない(『週刊文春』2007年12月6日号 p.157 「視聴率7つのナゾ ドラマの視聴率が『お笑い』より低いカラクリ」)。】

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まさに「大河ドラマ」と朝の「連続テレビ小説」は放送界最強のブランドであり、この2つを排他的に独占放送するスクランブルチャンネルがあれば、1世帯あたり毎月1300円以上は確実に徴収できる。

全国のTV視聴世帯を5000万とし、大河と朝ドラの視聴世帯を(両番組の視聴率から計算して)あわせて20%(1000万世帯)と仮定すると、「NHKドラマ専門チャンネル」は毎月130億円、年間1560億円の収入を得る計算になる。NHKドラマのなかでもっとも制作費のかかる大河ドラマの制作費については、2004年の『義経』が、1話平均8000万円、年間40億円の予算だったという週刊誌報道があったので(また、朝ドラの制作費はこれよりはるかに安いので)、そして、ドラマ制作スタッフは東京、大阪、名古屋の3局以外にはほとんどおらず担当職員の人件費は報道部門のそれよりかなり安いので、このチャンネルは収入に比べて著しく支出が少なく、とてつもない黒字を稼ぎ出す超優良企業となり、CMスポンサーにまったく頼らずにやっていけるだろう(し、「貧乏人専用チャンネル」に財源を寄付してやることもできるだろう)。

反面、報道専門の「NHKニュース専門チャンネル」などは、国内外の多数の支局の職員を維持するコストがかかるわりには視聴率が低いので、確実に赤字になるだろう。NHK自身もこのことはよく知っており、だからこそ「受信料の口座振替」を促す宣伝チラシには毎年必ず、「稼ぎ頭」の大河か朝ドラの主演俳優の顔写真が使われ、けっして夜7時や9時のニュース番組のキャスターの写真が掲載されることがないのだ。

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【NHKのニュース番組は、大河と朝ドラについて「脚本家が決まった」「出演者が決まった」などのイベントがあるたびに(単なる局内の問題にすぎないのに)必ず全国ニュースの中で紹介(報道)するが、それは、報道部門の職員がドラマ部門の職員に対して「こんなに宣伝してあげてるんだから、将来NHKが分割民営化された場合でも、オレらを置き去りにして独立しないでくれよ」とお願いするためのラブコールだと考えると、よく理解できる。】

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●『紅白』から「お笑い」が減った理由●
永年、NHKのバラエティ系スタッフは『紅白』に甘えて来た。歌と関係のない、どんなにバカげた自己満足型のパフォーマンスを『紅白』でやってもどうせ大勢の視聴者が見てくれるとタカをくくっていた。が、NHK全体がスクランブル化された場合、とくにNHKが「分割民営化」され「NHK音楽(バラエティ)チャンネル」ができた場合、看板番組の『紅白』がバラエティ化し、視聴者の不評を買ったままだと、(そのときNHKが分割されていても、そうでなくても)「あんな『紅白』をやるようなチャンネルにはカネは払えない」という世帯が相当に増える可能性がある。事前の世論調査(マスコミ各社の調査だけでなくNHK独自のアンケート調査も含む)でそういう結果が予測されれば、音楽系のスタッフはバラエティ系のスタッフに「あんたらとは一緒にやれない」「チャンネルを分けてくれ」と主張するだろう。そうなると、バラエティ系のスタッフには行き場がない。

ビデオリサーチの毎週の調査結果を見ると、バラエティ番組(とくにお笑い番組)には高視聴率のものがたくさんあるように見える。たとえば2007年12月23日放送のテレビ朝日(大阪朝日)『M-1グランプリ2007』(Mは漫才の略)の関東地区視聴率が18.6%(関西地区では30.4%)もあり、これは12月16日放送の『風林火山』最終回(地上波)の関東地区視聴率18.0%より高い(産経新聞2007年12月25日付大阪夕刊12面「M-1グランプリの(関西)視聴率は30.4%」、ビデオリサーチWeb 2007年12月19日 「種目別高世帯視聴率番組10 VOL.50 2007年12月10日(月)〜12月16日(日)」 )。また、12月10日に放送されたフジテレビのバラエティ番組『SMAP×SMAP』の関東地区視聴率は19.3%もあり、これも上記の『風林火山』最終回よりも高い。

このように、総じて人気バラエティ番組の視聴率は人気ドラマより高い。が、これにはからくりがある。
視聴者はバラエティは食事中に、あるいはパソコンや携帯電話をしながら「ながら視聴で」いい加減に見ていることが多い。逆に、好きなドラマは録画して、自分の都合のいい時間にじっくり集中して(CMをスキップして?)見ることが少なくなく、そのことは番組表サイト『Gガイド.テレビ王国』が集計しているパソコンから録画予約された番組ごとの予約件数ランキングの上位にドラマや映画が多く、レギュラーのお笑い番組が少ないことでわかる。が、国内唯一の視聴率調査会社ビデオリサーチは録画視聴率を公表しないので、公表された数値だけを見ればドラマよりバラエティ(お笑い)が人気があるように見えてしまう。ただそれだけのことだ(『週刊文春』2007年12月6日号 p.157 「視聴率7つのナゾ ドラマの視聴率が『お笑い』より低いカラクリ」『Gガイド.テレビ王国』Web 2008年1月3日「テレビ王国ランキングレポート」を見ればこのカラクリは一目瞭然だが、2008年1月7日現在掲載されている年末年始(12月27日〜1月2日)のランキングに限っては、この時期に連続ドラマの本放送がほとんどなく、逆にバラエティの特番が多いため、参考にならない)。

通信衛星(CS)放送(有料スクランブル放送)のスカイパーフェクTV(スカパー)には、その名もズバリ「時代劇専門チャンネル」「日本映画専門チャンネル」というチャンネルがあり、ニュース専門のCNNjやスポーツ専門のJSports、音楽専門のMTVや、事実上の海外ドラマ専門チャンネルになっているFOXなどがある。しかし「バラエティ専門チャンネル」などというものはない。バラエティ番組は(レンタルビデオ店にDVD版がある『サラリーマンNEO』やNTVの『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで』など一部の例外を除くと)「わざわざカネを払ってまで見る」ものではないのだ。

だから、スクランブル化を視野に入れさえすれば、『紅白』の音楽系スタッフが同僚のバラエティ系スタッフを「恫喝」するのは元々簡単なはずだった。おそらく2007年にNHK局内では、それまで「極秘情報」のため最高首脳クラスしか知りえなかったスクランブル化など大改革の予定(日程)が、もっと下まで、たとえば各番組のチーフプロデューサー(CP)クラスにまで「アクセス可」になったのだろう。そしてその結果、バラエティ番組のCPたちが震え上がって『紅白』に「ただのり」するのを諦めたのではあるまいか。

ちなみに、2007年の『紅白』第2部(地上波)の視聴率は、バラエティ陣の「自粛」にもかかわらず回復せず、ワースト記録(2004年の39.3%)こそ免れたものの、前回2006年の39.8%からさらに落ちて39.5%を記録した(サンスポWeb版2008年1月3日「鶴瓶ポロリ期待効果!? 歴代ワースト免れ紅白視聴率39.5%」)。
「『紅白』再生」は道半ばということか。
(^^;)

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●期待でなく予測●
念のために申し上げるが、筆者は2008年現在のNHKや民放の経営形態にも放送サービスにもほとんど不満を持っていない。NHKの受信料制度や民放のCM付き放送も含めて、現状が永遠に続けばいいと思っている。
だから、今回の記事も、放送ビジネスを扱った過去の記事も純粋な「予測」であって「期待」ではない。以前、民放社員と思われる読者の方から、2005年3月21日配信の小誌「CMスキップ戦争〜シリーズ『砕氷船ライブドア』(3)」)や同4月18日の「TVCMのURL表示制限〜シリーズ『砕氷船ライブドア』(4)」)について「そんなことは論じるな」(そんな現実は見たくない)という趣旨のお叱りのメールを頂いたことがある。

しかし、問題の本質は筆者の予測ではなく、筆者を含めて日本のTV視聴者がだれも頼んでいないのに、勝手に放送のデジタル化を始めてシステムを変えてしまったTV各局の経営にある。自分たちで勝手に、経営の根幹を揺るがすような改革(改悪?)を始めておいて、それについて「論じるな」はないだろう。

論じてほしくないのなら、いまからでも遅くないから、デジタル化は中止すべきだ。

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【中朝国境地帯の情勢については、お伝えすべき新しい情報がはいり次第お伝えする予定(だが、いまのところ、中朝両国の「臨戦体制」は継続中)。】

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【この記事は純粋な予測であり、期待は一切含まれていない。】

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【2007年4月の『天使の軍隊』発売以降の小誌の政治関係の記事はすべて、読者の皆様に『天使』をお読み頂いているという前提で執筆されている(が、『天使』は中朝戦争をメインテーマとせず、あくまで背景として描いた小説であり、小説と小誌は基本的には関係がない)。】

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【出版社名を間違えて注文された方がおいでのようですが、小誌の筆者、佐々木敏の最新作『天使の軍隊』の出版社は従来のと違いますのでご注意下さい。出版社を知りたい方は → こちらで「ここ」をクリック。】

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【尚、この小説の版元(出版社)はいままでの拙著の版元と違って、初版印刷部数は少ないので、早く確実に購入なさりたい方には「桶狭間の奇襲戦」)コーナーのご利用をおすすめ申し上げます。】

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【小誌をご購読の大手マスコミの方々のみに申し上げます。この記事の内容に限り「『天使の軍隊』の小説家・佐々木敏によると…」などの説明を付けさえすれば、御紙上、貴番組中で自由に引用して頂いて結構です。ただし、ブログ、その他ホームページやメールマガジンによる無断転載は一切認めません(が、リンクは自由です)。】

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【この記事は純粋な予測であり、期待は一切含まれていない。】

【この問題については次回以降も随時(しばしばメルマガ版の「トップ下」のコラムでも)扱う予定です(トップ下のコラムはWeb版には掲載しません)。
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 (敬称略)

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