皇室と靖国神社の「寿命」

〜シリーズ「靖国神社の財政破綻」(2)〜

Originally written: Aug. 28, 2006(mail版)■皇室と靖国の寿命〜週刊アカシックレコード060828■
Second update: Aug. 28, 2006(Web版)

■皇室と靖国の寿命〜週刊アカシックレコード060828■
GHQは終戦直後、皇室と靖国神社が数十年後に自然消滅するよう制度設計をし、約60年後、そうなりつつある。
■皇室と靖国神社の「寿命」〜シリーズ「靖国神社の財政破綻」(2)■

■皇室と靖国神社の「寿命」〜シリーズ「靖国神社の財政破綻」(2)■
【前々回「4年後は意外にラク〜シリーズ『06年W杯サッカー本大会開幕』(5)」は → こちら
【前回「靖国神社の財政破綻〜靖国問題は20年以内にすべて『解決』」は → こちら

筆者は2年前の04年、TV出演も多い著名な医学博士と会食する機会を得、その際皇室が話題になり、次のような意見を拝聴した:

「米国ってのはこわい国だ。(終戦直後の日本占領統治時代に)自分で手を汚して天皇制を廃止することはしなかったけれども、大半の宮家を廃絶することで結果的にいつか自動的に天皇制が消滅するようにした」

終戦直後、天皇の弟宮以外の11宮家の男子皇族(親王、プリンス)が臣籍降下して皇族でなくなって(また、1947年の皇室典範改正で庶系庶子への皇位継承が否定され、事実上「側室制度」がなくなって)、皇位継承権を持つ男系男子(男の皇族から生まれた男子、神武天皇のY染色体を持つ者)の出生数が著しく減ったのは間違いない。が、昭和天皇兄弟とその息子には「正妻」の出産1回につき確率50%で男子が生まれるのだから、そうすぐには皇位継承者に困ることはない、と終戦直後には予測されたはずだ……と筆者は04年当時は思っていた。

が、この博士は医者である。あとで反芻してみると、やはり医学博士の計算は数学的に正確だった。
たとえば、皇族男子が常に子供をN人持つと仮定すると、その子供の代の男系男子は、N人×50%=「N/2」人(N=1なら0.5人、N=2なら1.0人)。その仮定のもとで孫の代の男系男子は「N/2」×「N/2」人=「Nの2乗/4」人(N=1なら0.25人、N=2なら1.0人)。

もちろんNの値は夫婦ごとに0から数人の間で変動する。が、たとえば、結果的にある代の天皇の正妻(皇后)に男子が1人しか生まれなかった、というケースが一度でも発生すると、その天皇の血をひく男系男子の人数は、その次(孫)の世代全体で「確率的に0人か1.0人かそれに近い人数」にまで減ることになる。

米国(米軍の占領当局、連合軍最高司令官総司令部GHQ)が日本を統治していた終戦直後には、男女産み分け技術などは普及していなかったので、宮家の数を激減させて側室制度をなくせば、数世代以内に、皇室典範が皇位継承権を持つと定める男系男子はほとんどいなくなるだろう、ということは当時のGHQには、当然予測できたはずだ。

現に、06年8月現在、昭和天皇の曾孫(今上天皇兄弟の孫)の世代の男系男子は0人なので(秋篠宮紀子妃殿下が06年9月に出産予定だが、たとえ男子が誕生しても、たった1人なので)、「天皇制をわざと不安定化させたうえで(当面)存続させる」というのがGHQの意図なら、まさに終戦後61年を経て、その不安定化工作はみごとに奏効していることになる。

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●米国の陰謀?●
筆者がこの博士の意見に心底納得したのは、今年06年、靖国神社の財政問題に気付き、「同じような自然消滅工作がほかにもあった」と悟ったときだ。
同神社の現状を肯定する人々のなかには「終戦後、GHQには靖国神社を破却しようという意見もあったが、結局そうしなかった」といくばくかの感謝と尊敬の念を込めて語る者が多いが(産経新聞06年8月11日付朝刊4面「詳説・戦後 第2回 靖国 4-1」)、べつにGHQは、第二次大戦前・戦中まで陸海軍省の直属機関であった官僚機構(国家機関)としての同神社を、そのまま安定的に存続させたわけではない。

GHQは同神社を宗教法人として国家から独立させると同時に、日本国憲法を日本に押し付けたのだ。この憲法の9条で日本は(第二次大戦まで持っていたのと同じ形の)軍隊を持つことを禁止され、20条では「政教分離原則」により国家が宗教に関与することを禁止され、89条では国家が宗教法人を公費で援助をすることを禁止された。

つまり、同神社は焼却も破壊もされなかったものの、戦前・戦中まで得ていた最大の財源である「公費」を奪われたので、新たな財源を探さざるをえない事態に追い込まれ、財政を不安定化されたうえで当面存続を許されたにすぎないのだ。その結果、同神社は、同神社に合祀される戦没者の、遺族からの寄付(や参拝者の賽銭、玉串料)にその財政を依存することとなった。

戦没者と同居経験を持つ「一次遺族」(妻子)は、戦後、第二次大戦の戦没者200万柱以上を大量に合祀することで劇的に増え、その結果として彼らからの寄付が急増し、同神社の財源は膨張した。が、戦後の憲法9条によって、日本は帝国陸海軍の後継たる軍隊を持つことは禁止されたので、戦後新たに発足した自衛隊の殉職者が同神社に合祀されることはなく、このため一次遺族の数は(遺族自身の死亡により)減ることはあっても増えることはなく、他方「二次遺族」(戦没者の孫)は一次遺族ほどには熱心に寄付や参拝をしないため、戦後60年を経て一次遺族の減少が顕著になった21世紀にはいって、同神社の財源不足はもはや隠しようがなくなった(06年現在、最年少の戦没者遺族は61歳)。

したがって、05年現在の日本人の平均寿命、82歳(世界銀行2005「平均寿命の高い国・地域」)から計算すると、(失礼ながら)「あと約20年で一次遺族はいなくなり、靖国神社の主要財源である遺族からの寄付もほとんどなくなり、(憲法89条の改正がない限り)同神社は倒産する」というのは常識的な予測であろう。

GHQは終戦直後の時点では、日本人の平均寿命が80歳以上にまで延びるとは予測していなかっただろう。当時GHQが憲法89条と同時に押し付けた憲法96条では、恐ろしく実現し難い憲法改正規定を設けたので、日本政府が公費で靖国神社を援助することは半永久的に不可能であり、「自ら手を汚さずとも、靖国神社は数十年以内に倒産する」と、当時のGHQは予測していたに相違ない。

日本の軍人はみな、第二次大戦中「死んだら靖国で会おう」「天皇陛下万歳」と言って決死の覚悟で戦い、その結果、米国は真珠湾攻撃で大被害を受けるなど苦戦した。その仇敵日本を倒して占領した米国が「二度と日本が米国に牙を剥くことがないように」と考えて、戦前・戦中の日本人の精神力の源泉であった天皇制(皇室)と靖国神社を廃絶しようと考えたとしても不思議ではない。

が、GHQは、日本人の反発を防ぎ、占領統治を円滑に進め、日本を米国の同盟国に育てるために、上記のように「自らは手を汚さず、数十年後に自動的に天皇制や靖国神社が消滅するように仕向ける」という、ずる賢い方法を考え付いたのだ。

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【「皇位継承権を持つ男系男子が足りなくなったら、皇室典範を改正して、女系天皇や女性天皇(女帝)を認めればいいではないか」という意見もあろう。が、それをすると、憲法1条との関係で天皇制が危機に瀕する。詳しくは次回。】

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●富田メモは「公然の秘密」●
ところで、日経新聞(06年7月20日付朝刊1面「昭和天皇が不快感」)がスクープ報道した、昭和天皇が靖国神社への、東条英機元首相らA級戦犯14柱の合祀に反対であったことを示す、富田朝彦元宮内庁長官(元内閣調査室長)のメモ(「富田メモ」)について、中川秀直・自民党政調会長は、こう述べている:

「まあ、富田メモはねえ、(昭和天皇)陛下の想いとしては、以前から伝わっていたものだとボクは思うんですよ。いまここでそんな大騒ぎすることではないんじゃないのかな、と」(06年8月6日放送のテレビ朝日『サンデープロジェクト』「“3代の総理”を知り尽くすキーマン中川氏!」)

筆者は、中川とは面識がない。が、中川と筆者の間には皇室に詳しい共通の知人がおり、その知人も「昭和天皇がA級戦犯合祀への反対を表明した発言の記録があることは、以前から政官界中枢の一部では周知の事実だった」と述べているので、おそらく日経のスクープ報道の数年前から、少なくとも二桁以上の人数の政官界要人が「富田メモ」の存在を知っていたと考えられる(中川も上記の知人も、日経のスクープにまったく驚いていない)。

なぜか「靖国擁護派」の産経新聞や保守系評論家の岡崎久彦や櫻井よしこは事前には知らなかったようで、彼らは富田メモが報道されるや否や困惑し、にせもの(捏造)の可能性を指摘し、「宗教法人としての靖国神社の現状は(A級戦犯合祀も含めて)変えるべきでない」(富田メモに影響されるな)という主張を展開している(産経新聞06年7月21日付朝刊2面「主張」、06年7月23日放送のテレビ朝日『サンデープロジェクト』「昭和天皇発言メモの波紋」)。

筆者は心情的には産経や岡崎とほぼ同意見だ。が、彼らはずるい。
彼らの主張どおりに靖国神社の現状を維持し続ければ、いずれ同神社が財政破綻に陥ることはわかり切っているではないか。知っていながら、なぜこの問題に言及しないのだ!

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●単なるカネの問題●
「靖国問題」の本質は宗教や思想とは関係ない。単なるカネの問題だ。
85年の中曽根康弘首相の公式参拝(の前に行われた、公式参拝が合憲か違憲か、の政府としての検討)とは、実は、「参拝の際に神社に納める、玉串料の公費支出」の合憲性を確かめるための挑戦だったのだ。なぜなら、たとえ数万円とはいえ、玉串料(供花料)の公費支出が憲法(89条)のもとで可能となれば、同神社への公費支出の道が開けるからである(その後、97年の最高裁大法廷判決で玉串料公費支出は違憲と判断され、01年以降の小泉純一郎首相の参拝では公費支出は控えられた)。

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【70年代に国会で審議された「靖国神社国家護持法案」(79年に廃案)も、06年7月に麻生太郎現外相が言い出した「靖国神社の宗教法人化」も、いずれも同神社への公費支出の道を開く試みである。また、福田康夫元官房長官が官房長官在職中の02年に私的諮問機関にまとめさせた「靖国神社に代わる非宗教の国立慰霊施設」(代替慰霊施設)建設案も、同神社の深刻な財政状況を理解できない頑固な(愚かな?)関係者を「商売がたき」の登場をちらつかせて恫喝して、「さっさと非宗教法人化しないと倒産を早めるぞ」と警告するための「親心」と考えるとよく理解できる。】

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一説には、靖国神社の年間予算は10億円と言われている(『國民新聞』03年5月25日「靖国神社 苦しい財政」)。職員が約100名おり(産経新聞06年8月11日付朝刊4面「詳説・戦後 第2回 靖国 4-4 靖国Q&A」)、その人件費だけで5億円前後はかかると思われるので、おそらくこの推定予算額はそう大きくはずれてはいまい。

その神社の財政は、一次遺族の減少により日に日に悪化の一途をたどっている。たしかに01年以降、小泉首相の参拝で若年層に「参拝ブーム」が起き賽銭収入は増えたが、一過性の流行にすぎず、安定収入源を得たとは言い難い。

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【靖国神社は、付設博物館「遊就館」の新館建設や祭神情報のデータベース化(IT化)など、事業総額100億円規模の「創建130周年記念事業」を20世紀末に企画し、その半額の50億円を寄付で賄うことを決めたが(國民新聞前掲記事)、99年に募金を始めた寄付金が思うように集まらず(4年間で25億円)、結局募金期間は05年3月まで延長された(靖国神社Web「記念事業竣成の御礼の御挨拶」)。
もしも祭神情報のITシステムが東芝や富士通などの「ITゼネコン」によって構築されていたら、問題だ。ITゼネコンは自社独自のOSでシステムを構築することが多いので、そうなるとそのメンテナンス作業は富士通なら富士通の社員にしかできなくなり、メンテナンス費用は構築を受注した企業の言いなりになってしまう(05年1月18日放送のNHK『クローズアップ現代〜自治体 vs ITゼネコン』)。
やはりこういうシステムは、メンテナンスを安く別会社に発注できるようにするため、技術情報が広く公開されているWindows、Linuxなどの汎用OSで構築すべきだ。06年現在、靖国神社の意志決定機関である「総代会」にはITゼネコンの関係者がいるので、「遺族の寄付が不当に高いメンテナンス費用で食い潰されていないか」と少し心配だ。】

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●時間の問題●
現在、靖国神社は「靖国神社が倒産するのが先か、憲法89条を改正(して公費支出を)するのが先か」という問題に直面している。もちろん、現在の国会では、最大与党の自民党にも、野党第一党の民主党にも憲法改正(改憲)を論じようという機運はある。が、改憲のテーマは安全保障、人権、環境問題などであり、与野党ともに「政教分離原則を緩めて、特定の宗教法人への公費支出を認めよう」とはだれも言っていない。まして改憲のための国民投票の手続法などまだ一度も審議されてない。

いったい、あと何年、靖国神社の財政はもつのか。憲法89条を改正するとしたら、いつまでにすればいいのか。それが無理なら同神社は、倒産か、宗教法人格の返上による国営化(再国有化)か、の二者択一を迫られることになる。

だから、「靖国問題」を論じるには、同神社の財務状況の公表と、それに基づく「倒産シミュレーション」が不可欠だ。それを無視してこの神社のありようを論じることには、いかなる意味もない。

とくに、戦死者の慰霊・顕彰施設としての靖国神社の存在そのものに「軍国主義的だ!」と反対する方々に申し上げたい、

「あなたがたがジタバタ反対運動などしなくても、あと20年も放置しておけば、どうせ倒産する(から、本来あなたがたの出番はない)」と。

おそらく、同神社が生き延びる道はもはや、国営化、つまり、宗教法人格を棄てて特殊法人になって公費支出を受ける以外にはあるまい。そうなれば、国会でその支出の予算を審議する際に、国民は与野党を通して意見が言えるので、A級戦犯の分祀(合祀撤回)を求める世論や国会議員が多ければ、その際にそういう決定がなされるはずだ(「分祀」の方法は小誌前回記事 「靖国神社の財政破綻」を参照)。

富田メモは、そういう状況を想定し、同神社の財政問題を心配する、皇室を含む関係者の意を汲んで日経新聞に提供されたと考えるべきだ。なぜなら、「皇族に関係の深い政治家」(実妹が三笠宮寛仁親王妃の麻生太郎?)が関与した、同神社の宮司に旧皇族を迎えてその威光を利用して宗教法人としての靖国神社の解散(特殊法人化)を狙う計画が取り沙汰されているからだ(『週刊ポスト』06年8月18-25日号 p.p 26-27「靖国保守本流派が決起!」)。

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【小誌は01年の小泉首相の初参拝後、愛国的な読者の方から「たとえGHQが靖国神社をいったん廃絶したとしても、民族精神さえあれば再建できる」というメールを頂いた。が、現在の同神社を取り巻く状況を見てわかることは「民族精神だけでは再建どころか維持もできない」「精神よりもカネが必要」という現実だ(もしGHQによって天皇制や靖国神社がいったん廃絶されていたら、二度と再建されなかっただろう)。】

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だから、靖国擁護派は「富田メモは捏造かもしれない」などと論じて「無駄な抵抗」をするのは、もうやめるべきだ。

抵抗するならカネを出せ。それも毎年数億円だぞ。出せないなら黙ってろ。

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次回は「女系女帝 vs. 南朝〜秋篠宮妃男子出産でも解決されない皇統断絶の危機」か「ポスト安倍〜短命政権の宿命」の予定。】

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【小誌をご購読の大手マスコミの方々のみに申し上げます。この記事の内容に限り「『中途採用捜査官@ネット上の密室』の小説家・佐々木敏によると…」などの説明を付けさえすれば、御紙上、貴番組中で自由に引用して頂いて結構です。但しホームページやメールマガジンによる無断転載は一切認めません(が、リンクは自由です)。】

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