「アジアシリーズ」でロッテを追放

ストは的外れ

〜ストは的外れ〜シリーズ「球界再編」(3)〜

Originally Written: July 27, 2004(mail版)■ストは的外れ〜週刊アカシックレコード040727■
Second Update: July 27, 2004(Web版)

■ストは的外れ〜シリーズ「球界再編」(3)■
労働組合(プロ野球選手会)が無能な経営者(球団)に向かって「有能になれ。ならないとストするぞ」と脅しても成功するはずがない。現在、無能な球団(ロッテ)を(少しは)マトモな球団の手で追放する陰謀が進行中で、このほうが合理的だ。
■ストは的外れ〜シリーズ「球界再編」(3)■

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プロ野球パ・リーグのオリックス、近鉄両球団の合併に端を発する球界再編に関して、「ファンや選手への説明が不十分」「選手の雇用や球界の将来に不安をもたらす」ことを理由に反対する(凍結を求める)プロ野球選手会の主張(選手会Web04年7月10日「大阪近鉄・オリックス合併問題―選手会臨時大会での決議事項と今後の方針」)はおおむね正しい。

が、それを実現する方法はない。古田敦也選手会長は「ストも辞さず」という強硬方針で選手会内部を結束させているが、それは的外れだ。

たとえば、12球団の経営者がみなずる賢くて「儲かっているくせに、もっと選手に年俸を払えるくせに払わないのは許せないから『賃上げ』しろ。しないとストするぞ」と選手会が主張しているのなら、これは十分勝算がある。

ところが、現在選手会が直面している問題は、(一部の)経営者たちが(ずる)賢いことが原因なのではなく、バカであることが原因なのだ。

すでに小誌(04年6月28日号「かんたん1リーグ〜シリーズ『球界再編』(1)」)で述べたように、ロッテ、近鉄の両球団は、巨人・阪神ファンしかいなくて観客動員が難しいことがわかり切っている東京・大阪近郊に故意に本拠地を置いてわざと赤字と不人気を作り出して来た、という世界の市場経済の歴史でも稀有な事情がある。

球団経営者の頭がマトモであれば、客のはいらない場所で店を出すより、客のはいる場所(たとえば73〜78年にロッテの本拠地があった仙台)に店(本拠地)を移すはずだ。が、この2球団の経営者にはこうしたビジネスの常識が通じない。

12球団(経営者)の加盟する「日本野球機構」に対して選手会が04年7月13日に提出した要求書(および前掲の選手会Webの、7月10日の決議事項)には、TV放送権料の一括管理・再分配などにより、「一部の球団に資金が集中する現行(のTV放送権)制度を正す」という項目があるが、これは長期的に見れば理想的だ。たとえば、日本ハム、ダイエーの両球団は、客のはいらない東京・大阪近郊に見切りを付けて本拠地を札幌、福岡といった地方都市に移して観客動員を激増させている。この両球団が「このような努力をしてもなお赤字なので、やはりTV放送権料の再分配による救済を」と要求するのなら、それは理にかなったことだ。

が、これはロッテ、近鉄の両球団にはあてはまらない。この2球団はなんの経営努力もせず、故意に赤字を作っているのだ。わざと赤字にしておいて「巨人がTV局からもらうカネを分けて助けてくれ」などという甘えは、世界中のいかなる市場経済でも認められない。もしこのような極端に不道徳な論理を許すなら、それは渡辺恒雄・巨人オーナーの「巨人中心主義」よりはるかにタチの悪い禍根(球団経営は儲からなくて当然、というモラル・ハザード)を球界に残す(機構として公認する)ことになり、以後いかなる改革も不可能になるだろう。

放送権料の再分配などによる、各球団の平等な共存共栄のシステム(Jリーグや米大リーグでは採用済み)は、ロッテ、近鉄の経営者(親会社)を球界から追放しない限り、絶対に導入できない。

両球団の経営者が(球団経営能力はなくとも、にんげんとして)マトモであれば、球団経営から撤退し、適当な親会社をみつけて球団を売却するはずだ。が、彼らはそれすらしない。およそ常識や倫理観のかけらもない、極端な無能者なのだ。

おそらく、彼らが球団売却をいやがる最大の理由は「新しい親会社が(新本拠地で)利益をあげて、自分たちの無能ぶりが証明されるのはイヤ」というメンツの問題だろう。

彼らの手から2球団を強制的に引き剥がして新しい親会社に託せるなら、それは理想的だ。が、現行の法制度ではそれは不可能だ。野球協約と日本の商法は、これほどのバカが球団を抱え込んで手放さない、という異常な事態を想定していないので、手の打ちようがないのだ。

バカどものメンツを立てながら唯一可能な改善策が、合併によってロッテ、近鉄の発言力を半減させることだった。これは巨人、オリックスの主導で進められた陰謀だが、おそらく真の首謀者は西武だろう。なぜなら「合併→球団数削減→1リーグ制移行」のあとに彼らが展望している「3軍を創設してアマチュア球団と共同リーグ」「プロ野球の国際化(アジアシリーズの導入)」(産経新聞04年7月8日付朝刊24面「渡辺オーナー一問一答」)などは、アマチュアスポーツ界とのかかわりや(五輪などの)国際スポーツビジネスの経験を持つ者でなければ思い付くはずのない構想で、それに該当する経営者は、12球団のなかでは、かつては社会人野球チーム(プリンスホテル)を経営し、長野五輪招致も実現したJOC(日本オリンピック委員会)会長、西武の堤義明オーナーしかいないからだ。

経営者側の一連の動きについて、古田は「ファンや選手への説明が不十分」と責める。が、「2球団の経営者がバカだから合併に追い込むしかなかった」という説明を、渡辺や堤がおおやけにできるはずがない(そんな説明をして2球団を怒らせたら、すべては水泡に帰する)。むしろ選手会こそが、無能な球団経営者については日々実感しているはずなのだから、真相(深層)を察してファンに説明すべきではないのか。

●特別委員会●
選手会は現在「ストも辞さず」の構えで(04年中の)球団合併を阻止する、と言っている。合併のための野球協約改正は、選手の契約にかかわることなので、選手にも意見を言う権利があり、その意見が通らなければストもありうる、というのだ。

日本野球機構の「憲法」である野球協約の19条には「(プロ野球)実行委員会の審議事項中、選手契約に関係ある事項については特別委員会の議決を経て、これを実行委員会に上程する」とある。特別委員会は「(セパ)両(リーグ)連盟会長、両連盟の球団(経営者)代表委員各2名および両連盟の選手(会)代表委員各2名、計10名をもって構成」され、「実行委員会議長(豊蔵一セ・リーグ会長)が議長となり、議長が必要と認めたとき随時招集される」。

組織上、豊蔵は12球団のオーナーたちに「雇われた」形になっている(権限が弱い)ので、オーナー側は豊蔵に特別委員会を開く必要を認めさせないことも可能だ。が、選手会(労働組合)側は「特別委員会を開催しないとストするぞ」と主張できるので、特別委員会の開催は実現する可能性がある。

実現すれば、「議案の可決は出席委員数の4分の3以上の賛成を必要」とする、という19条の規定があるので、選手会代表委員計4名が、球団合併のための協約改正などの議案に反対すれば、法理論上は合併を阻止できる。

しかし、近鉄(ロッテ)の経営者には法理論上「廃業の自由」もある。合併がだめなら(売却はせずに)球団を解散して、全選手を自由契約(解雇)にすることも可能だ(自信のない無能者ほど、くだらぬメンツにこだわるので、おそらくそうするだろう)。そうなると、合併の場合と違って、当該球団の全選手が「プロテクト選手枠」や「再ドラフト」で再雇用されるという保証はなくなる。これは選手側にとって、合併より不利だ。

●ストは不可能●
すでに、経営者側と選手会側は2つの点で一致している。1つは、赤字経営の一因となっている、一部スター選手の高すぎる年俸を引き下げるべきこと、もう1つは全選手の雇用を保証すべきこと、だ(産経前掲記事、前掲の選手会Web)。

違いは「雇用を保証する方法」だけだ。渡辺ら経営者側は「再ドラフト」「各球団の選手保有枠拡大」「3軍創設」を主張しているが、選手会側は「合併阻止」「球団数の現状維持」を主張しているのだ。

選手会(古田)の「球団数削減で縮小感を出すと、将来の野球人口の減少につながる」という主張は正論だが、「賃上げ」や「雇用の保証」とは異なり、法理論上、労働争議(ストライキ)の要求事項にはなりえない。

すでに高額選手の「賃げ」を甘受すると表明した選手会側に対して、経営者側が義務としてすべきことはもはや「雇用の保証」以外にない。

選手会側がストをちらつかせることで実現できるのは、せいぜい「特別委員会の開催」「球団経営実態(財務諸表)の公開」「3軍選手の年俸や身分の保証」ぐらいだ。

他方、ストは選手会側にとって経済的に打撃となる。一般企業のサラリーマンと違って「個人事業主」である選手たちは、ストを理由に給料(年俸)を減額されるからだ。

選手が毎年球団と取り交わす統一契約書様式第7条によれば「球団は(スト)1日につき参稼報酬(年俸)の300分の1を減額することができる」。選手会には労組として組合員(および組合員の外国人)選手の報酬減額分を補填する義務があるが、年俸3億円の選手には1日のストで100万円を払う必要があり、その経済的負担は小さくない(報知新聞Web版04年7月10日)。もちろん、ストで試合が中止されれば、入場料やTV放送権料ははいらないから、球界全体として減収になり、そのしわ寄せはいずれ選手側にもはね返る。

結局「費用対効果」から見て、ストはできないだろう。選手会は「ロッテの無能経営者を温存したいのか」と非難されないうちに、合併反対の主張を撤回したほうが賢明だ。

●ロッテへの罠●
04年7月26日、セパ両リーグ会長と12球団の社長(代表)が集まって開催されたプロ野球実行委員会で、ロッテを含むパ6球団は、1試合数億円と言われる巨人戦のTV放送権料などの利益ほしさに、1リーグ制への移行を強く主張した。

その際、オリックスと近鉄の合併による1球団削減だけでは「11球団1リーグ制」になってしまって、常に1球団が試合ができない状態になるので、パでもう1組合併させて「10球団1リーグ制」をめざすことも、パ6球団のあいだで再確認された。が、パの残り4球団、つまり、日本ハム、ロッテ、西武、ダイエーのうちどれとどれが合併するかはまだ決まっていなかった。

だから、委員会の冒頭で、パ側が上記の主張を展開した時点では、ロッテの経営者(瀬戸山隆三・球団代表)は「必ずしもロッテがどこかと合併する必要はない」「合併するにしても有利な条件でできるかもしれない」と思っていたはずだ。

ところが、議事が進むうちに、とんでもない提案が出て来る。
セパ両リーグの上位に位置する日本野球機構の運営資金源になっている、両リーグの優勝者が覇権を争うという意味での「日本シリーズ」が、1リーグ制移行で開催できなくなることへの代替案として、巨人(三山秀昭球団代表)が「アジアシリーズ」を提案したのだ。

それは、韓国、台湾などのプロ野球リーグの覇者と日本の「1リーグ」の覇者が戦い、さらにその勝者が、米大リーグのプレーオフに参加する、という遠大な構想で、実現すれば「スポンサーもつくだろうし」(三山)、日本シリーズよりはるかに利益の大きいビッグビジネスになる可能性がある。だから、1リーグ制推進派のパ各球団も前向きに検討せざるをえまい。

そうなると、ロッテは一転して窮地に立たされる。なぜなら、ロッテは日韓両国で球団を保有しているからだ。 ロッテグループは、日本で千葉ロッテ・マーリンズを、韓国ではロッテ・ジャイアンツを経営している。アジアシリーズが実現すると、理論上は日韓間で「ロッテ対ロッテ」の覇権争いもありうる。

これはどう見ても「八百長の温床」であり、その試合結果にファンが納得することはあるまい。

かつて、ラジオのニッポン放送(フジテレビの大株主)が横浜(ベイスターズ)球団の株をマルハ(旧大洋漁業)から大量に買って筆頭株主になろうとしたとき(スポニチWeb版01年11月15日)、渡辺は、同系列のフジテレビがヤクルト球団の株も20%持っていると知って、同一企業が複数の球団を経営することを禁じた「野球協約183条に違反する」と激怒し、葬り去った(スポニチWeb版01年11月17日)。

結局、マルハ保有株はTBS(東京放送)が買い取り、TBSが横浜の筆頭株主となったが、このとき渡辺の怒りは(例外的に?)正論として、世論の支持を得た。2つの球団の親会社が同系列となると、片方を優勝させるために片方が「捨て石」になって、シーズン中に主力選手をトレードで譲渡して助けたり、直接対決でわざと負ける八百長試合をしたりする恐れがあるし、たとえそうした不正の事実がなくても、ファンが試合結果を見て不正と疑えば「シラけて」しまって、スポーツとして成り立たないからだ。

この「横浜・ヤクルト問題」の先例があるので、1リーグ制移行の条件として「アジアシリーズ」の実現を、巨人や西武が強く主張した場合、ロッテは日韓いずれかのプロ野球から撤退することを余儀なくされるはずだ。おそらく撤退するのはより赤字幅の大きい日本側で、そのため近い将来、千葉ロッテ・マリーンズは、福岡ダイエー・ホークスか西武ライオンズに吸収合併され、合併後の新球団ではロッテの出資比率は30%以下になり、球団名から「ロッテ」「マリーンズ」の文字は消えるだろう(小誌04年7月1日「●ロッテを粛清●」も参照)。

●受益者負担の原則●
04年7月26日放送のフジテレビ『すぽると!』で、電話(テレゴング)を使って「プロ野球は1リーグ制と2リーグ制の、いずれがいいか」と視聴者にアンケート調査を実施したところ、2リーグ制支持が87%に達した。これをファンの「世論」と考えれば、1リーグ制へ向かって球界再編の進む現状は「非民主的」となる。

が、2リーグ制を支持するファンに聞きたい、「いったい、2リーグ制を維持する、つまり、6球団全体で年間150億円も赤字を出しているパ・リーグ(産経新聞04年7月27日付朝刊16面、佐藤賢二ダイエー球団代表)を維持するコストは、だれが負担するのか」と。

球団経営はおもに入場券・キャラクターグッズの売り上げとTV放送権料(と親会社からの補填)で成り立っている。したがって、パ・リーグ球団の試合の入場券もグッズも買わず、その試合がTVで放送されてもまったく見ない(その視聴率に貢献しない)などという無責任な者には、2リーグ制の維持を主張する資格はない。

パ・リーグの選手の名前もろくに知らないような(野球ファンではなく)セ・リーグファンの意見は世論の名に値せず、無視してもかまわないはずだ(上記の「87%」は実質「20%」にも満たないだろう)。

筆者は、88年の「10.19」から、近鉄の野茂英雄投手が大リーグに移籍する前年まで、実は近鉄ファンであった(野茂の移籍後は大リーグファンになった)。

生半可な「野球通」よりはるかに深く、筆者は野球を知っている。次回はそのことを証明して御覧に入れる。

【この問題については次回以降も随時(しばしばメール版の「トップ下」のコラムでも)扱う予定です。
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 (敬称略)

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