米国の望みは政権交代

小泉退陣後に帰国?

〜米国は拉致家族の帰国に反対か〜

Originally Written: Jan. 22, 2004(mail版)■小泉退陣後に帰国?〜米国は拉致家族の帰国に反対か■
Second Update: Jan. 22, 2004(Web版)

■小泉退陣後に帰国?〜米国は拉致家族の帰国に反対か■
北朝鮮による日本人拉致事件の被害者5人の家族が帰国すると、小泉政権への支持率は上がり、04年7月の参院選でも与党自民党が圧勝する。が、ブッシュ米政権が発足以来日本に求めているのは構造改革による日本経済の根本的回復であり、それを達成する気のない(表面的な改革でお茶を濁す)小泉政権の延命は、日米同盟強化にはつながらない。「駐イラン米大使館人質事件」の先例から見て、ブッシュ政権は、小泉政権下での拉致家族の帰国を、妨害するはずだ。
■小泉退陣後に帰国?〜米国は拉致家族の帰国に反対か■

■小泉退陣後に帰国?〜米国は拉致家族の帰国に反対か■
【前回の「「そのうち派兵慣れ」は → こちら

小誌記事「サダム・フセイン拘束のウソ」で述べたように、米民主党の政権は安保・防衛政策に関して伝統的にだらしない。93〜01年のクリントン政権は、台湾海峡沿岸に中国が(台湾が中国から民主的に独立するのを妨害するための脅しとして)弾道ミサイル数百基を配備することを許し、そういう脅威から台湾を含む米国の同盟国を守るためのMD(ミサイル防衛構想)を米国防総省が推進しようとするとその開発実験日程を遅らせる小細工をし、また、北朝鮮がほんとうに核兵器開発を放棄したか確かめずに(放棄したとみなして)援助を与える「米朝合意」を結んだ。この「合意」をまとめる特使を務めたのが、同じく米民主党のカーター元大統領だったが、この机上の合意を北朝鮮が骨抜きにして違法な核開発をしていたことがのちに判明したために、04年1月現在、世界がその核をあらためて放棄させるために「6か国協議」などの方法を模索して苦労していることは周知のとおりだ。

そのカーターの、大統領在任中(77〜81年)の政策はもっとひどかった。彼は米CIAの要員を無意味に過剰に削減したため、ソ連のアフガン侵攻を予知できず、またイランの反体制派(ホメイニ師率いるイスラム原理主義派)の動向もわからず、彼らがイスラム革命で政権を奪うことも予測できず、それは、彼らの支援を受けた学生たちがテヘランの駐イラン米大使館を占拠し大使館員を人質にするという、米国にとっての歴史的な屈辱につながった。

●CIAの謀叛〜無能な指導者を排除せよ●
80年の米大統領選の年、米国民の最大関心事はテヘランに捕らわれている数十人の同胞の運命にあった。
が、80年11月の大統領選の投票日が近づくにつれ、再選をめざして立候補していたカーター大統領が、イラン革命政府と取り引きして人質の解放を勝ち取りそうな情勢になってきた。

CIAは気が付いた、もし投票日前に人質が解放されると、それはカーターの手柄と宣伝され、彼は再選されてしまう、と。

しかし、元々この人質事件はカーターの無能さゆえに引き起こされたものだ。自分の失態を自分で解決する「マッチポンプ」で、あたかも自分が偉大な指導者であるかのように偽装して一時的に米国民をだまして再選される、というのは民主主義を悪用した詐欺行為であり、今後4年間、またCIAが、再選された無能な大統領のもとで苦しめられることを意味する。

このカーターの卑劣なやり口に、CIAのみならず米国防総省、米共和党や米保守本流グループは激怒した。そしてカーターの再選を阻止するため、投票日前に人質を解放しないようにイラン革命政府に働きかけたのだ。

カーターの対立候補は共和党のレーガンで、彼の選挙参謀は実業家のケイシーだったが、ケイシーは80年秋の選挙運動期間中、突然ナゾの訪欧をする。当時、その目的は一切公表されていなかったが、のちに欧州でイラン革命政府関係者と接触していたことが暴露された(仏アルテ・フランス03年制作『CIA 知られざる真実』、日本ではNHK-BS1が03年11月25〜27日に放送)。

ケイシーらの工作が奏効して、人質解放は投票日後(新大統領の就任後)にずれ込み、カーターは落選し、81年、レーガン共和党政権が誕生する。この政権で、ケイシーはCIA長官のポストを得、またカーター政権下のCIAで幹部だったカールーチ(CIA副長官)らも国防長官などの要職に就いたことから、CIA幹部がレーガン陣営と結託してカーターの再選阻止に動いたことは間違いない(前出『CIA 知られざる真実』)。

これを「民主主義に反するCIAのクーデター」と見るか、それとも無能なカーターの政策こそ「民主主義を悪用した詐欺」と見るかは、人によって意見の分かれるところだろう。が、とにかくCIAという組織が「無能な指導者を排除する」という使命感を持っていることは、これで判明した。

●日本経済は日米同盟の基盤●
では、CIAはいま日本の小泉政権をどう見ているだろう。
CIAは04年1月現在、カーターを追い落としたレーガン政権と同じ共和党の、ブッシュ政権のもとにあり、人脈的にも「追い落とし」当時のメンバーとかなり近い。「無能な指導者を排除する」のがCIAの使命なら、そして小泉が彼らから見て無能なら、当然排除されるはずだ。

これについては、ブッシュ現米政権が発足直後に、日本に何を求めていたかを思い出すとよくわかる。
01年3月、発足直後のブッシュ政権は、前任のクリントン民主党政権と違い、日本に(日米貿易不均衡是正のためとはいえ、日本の族議員らを利するムダな公共事業を強いるだけの)内需拡大を求める外圧はかけるべきでない、と表明していた(産経新聞01年3月16日付夕刊2面)。

とくにパウエル国務長官は、日本の経済力を、単なる日本の国内問題や日米間の経済問題としてではなく、日米安保すなわち米国の安全保障政策の「基盤」ととらえ、それを日本が(小手先の公共事業による短期的な景気回復ではなく、抜本的な構造改革によって)力強く回復させるべきであることを訴えていた(産経前掲記事)。

つまり、銀行の不良債権処理や財政再建などの抜本的改革によって、構造的に日本を強くしてくれる政権が、米国の国益にかなうのであって、表面上、口先だけでできること、つまり反テロ(アフガン)戦争やイラク戦争への支持表明ぐらいでは、ブッシュ政権はべつにそれほどうれしくないのだ。

もちろん米国はその外交防衛政策について同盟国の支持がほしい。が、弱い国の支持など大して価値はない。イラク戦争などに関して日本の支持がほしいのは、日本が世界第2の経済大国だからであって、日本が韓国程度の中小国なら、べつに支持してもらっても大して意味はない(現に韓国の「イラク派兵」より日本の「派兵決定」のほうが米国政府の評価は高い。米国時間04年1月20日の、ブッシュ大統領の一般教書演説でも、日本はまだ陸上自衛隊本隊600名をイラクに派遣してもいない段階で、英豪に次ぐ第3の「米軍のイラク統治協力国」とされ、何千人もの軍を派遣済みの韓国は4番目だった)。

●拉致家族の帰国を阻止せよ〜小泉退陣こそ構造改革●
小泉首相は就任前から「自民党をぶっ壊してでも構造改革をする」と公約していたので、ブッシュ大統領は彼を強く支持した。が、小泉は公約を反故にした。赤字国債発行額を30兆円以下にする公約は忘れられ、財政再建はいっこうに進まない。構造改革の目玉として打ち出した道路公団(JH)民営化による、ムダな道路建設の抑制も、結局ムダな公共事業に寄生する自民党の道路族議員たちが大喜びするような、ルーズな形で、03年12月に落着してしまった。

この無能な小泉の政権が続けば、日本経済はどんどん弱くなり(国家分裂の危険をはらむ不安定な非民主主義国家・中国ではなく)経済大国・日本との同盟を機軸にアジア(のみならず全世界)で外交防衛政策を展開するという、米保守本流の永年の主張が米国内で説得力を失い、(いずれ成長が止まるとはいえ、当面)経済力の伸びつつある中国との連携を模索したい、という非主流派(米民主党、リベラル派)などの発言力が増すかもしれない。

前回述べたように、日本の経済力が強ければ、日米あわせて世界経済(GDP)の約半分という圧倒的な力を背景に、両国は世界を「ひざまずかせる」ことができるので、冷戦後の世界秩序の構築、すなわち新しい国際法、国際機関、産業技術の業界標準などを作るのは容易だ。たとえばMD(ミサイル防衛システム)の開発・配備、テロ支援国への(先制)攻撃の合法化、次世代エネルギー・燃料電池の規格などは日米で意思統一しさえすれば、欧州や中国を無視しても、ほぼ全世界で通用する基準や制度を作ることができる。

しかし、日本が経済力の弱い国に転落してしまうと、米国は今後「主として組む相手」をゼロから選び直し、ケースバイケースで相手を変える必要も出て来る。これは政治的コストがかかりすぎる。

ならば、もう構造改革のできない小泉や、族議員を多数抱えて改革を渋る自民党は、日米同盟強化のために役に立たない、とCIAや米保守本流が判断して、日本の政権交代を画策するのは自然なことではないか。

族議員というのは与党にいるから族議員なのであって、野党に転落すれば、いくら陳情してもムダな公共事業や道路建設を推進する権限はないので、もうだれも陳情には行かなくなるから「族議員」ではない。また、現在野党の民主党は、これまでその種の陳情をまったく受けたことがないし、03年11月の総選挙では高速道路無料化、つまりムダな道路を造るJHの廃止を公約していたので、民主党政権ができてもそれに陳情する者はだれもいない。

つまり、たとえ民主党の国会議員が全員バカでも民主党政権ができれば「自動的に」族議員政治は終わって税金のムダ遣いが減り、逆にたとえ自民党の総理総裁や幹事長がどんなに人格者でも(党内に多数の族議員がいるので)自民党政権では族議員政治は終わらないのだ。

おまけに、前回述べたように、民主党が政権をとっても、すぐにイラクに派遣されている自衛隊が撤退することはないし、また(米民主党と違って)日本の民主党は、米共和党が推進するMDに積極的に賛成している(読売新聞03年12月20日朝刊4面)。

ならば、日米同盟強化のため、自民党から民主党に政権を交代させたい、とCIAは考えるはずではないか。

「無能な指導者に人質奪還の手柄は与えない」という、カーター政権末期に実施されたCIAの不文律は、人脈的に見ていまも生きていると考えられるから、おそらくいまCIAはひそかに北朝鮮と接触し、「小泉が政権を握っている間は、拉致家族を帰国させるな」と頼んでいるはずだ。構造改革のできない、したがって日米同盟を真に強化することのできない首相が「拉致家族奪還」の手柄だけで延命することは、米国の国益にならないからだ。

●政権交代と家族帰国のシナリオ●
キッシンジャー元米国務長官は「04年3〜4月は一時的にイラクでは反米武装勢力の活動が活発化するが、その後急速に沈静化する」と予測(予告)している。彼は、03年のイラク戦争の開戦日と大規模戦闘終結の日を予言して的中させた実績があるうえ、単なる学者ではなく、米国防長官の諮問機関である国防政策委員会の現役メンバー(つまりインサイダー)なので、その発言は「予告」と受け取ったほうがよかろう(04年1月4日放送のテレビ東京『日高リポート』)。

小泉政権は04年3月に陸上自衛隊本隊約600名をイラク南部の復興支援に派遣するとほぼ決めているので、キッシンジャーの予測が正しければ、そこで戦闘に巻き込まれる危険性が高い。

その際、政府・自民党は、イラク特措法制定に際しては(正当防衛のための)武器使用基準を適切に緩和することなく、またその後同法に基づいて自衛隊派遣を決めたため、派遣された隊員は戦闘上不利な事態に追い込まれ、同法が原因で死傷するかもしれない。

そのような事態になれば、同法の欠点を指摘し派遣にも反対していた民主党は、一気に政局の主導権を握ることができる。自民党内の反小泉派や公明党と連携して(04年6月の、通常国会会期末に)小泉内閣不信任案を可決し、同内閣を衆議院の解散・総選挙に追い込むことも可能だ(その場合、04年7月の参院選は衆参同日選になる)。

そして、選挙の結果自民党が野党に転落し、民主党(と社民党または公明党)が政権に就いたあとの04年8月以降、北朝鮮が先に帰国した蓮池夫妻ら拉致被害者5人の家族を帰国させ、羽田空港で民主党の首相がそれを出迎える。さすれば、民主党政権に対する日本国民の支持は磐石になり、自民党は以後数年間野党に留まって、族議員たちは事実上族議員でなくなり、彼らの影響力は消滅し、一気に構造改革が進む…………筆者がCIA長官なら、このシナリオを実現するために全力を尽くす。なぜなら、これこそ米国の国益だからだ。

そのためには、北朝鮮には小泉が退陣するまで拉致家族を帰国をさせないように働きかけ、また、イラク南部では04年3月(たぶん14〜29日頃)に自衛隊が窮地に陥るように工作する。

こういう任務のためにこそ、CIAはあるのだ。

【もし、どうしても北朝鮮が(CIAにさからって)日本の対北朝鮮経済制裁法案の成立に怯えて、小泉政権に対して拉致家族を帰国させるなら、CIAは確実に小泉内閣を退陣させるために、04年3月下旬、イラクに派兵された自衛官を殉職させざるをえなくなる。べつに筆者が殉職を望んでいるわけではないが、日本国民が選挙で無能な政権の存続を選んだりするから、そうならざるをえないのだ。それについては次回。】

【この問題については次回以降も随時(しばしばメール版の「トップ下」のコラムでも)扱う予定です。
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 (敬称略)

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