節目節目で政局を左右する

東京地検特捜部

〜米保守本流の別働隊〜

Originally Written: Nov. 17, 2003(mail版)■東京地検特捜部〜米保守本流の別働隊■
Second Update: Nov. 17, 2003(Web版)

■東京地検特捜部〜米保守本流の別働隊■

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【「道路公団改革のゆくえ」は → こちら

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ジェームズ・ウルジー元米CIA長官は「北朝鮮の残虐な金正日独裁体制を終わらせるために、米国は(CIAなどを使って)クーデターなどの政権転覆工作をすべきではないか」と聞かれた際、「米国人のいない北朝鮮で、米国のできることは限られている」と否定的見解を示した(03年9月21日放送のテレビ東京『日高義樹ワシントンリポート』)。

ということは、裏を返せば、米国人が大勢常駐している日本では、米国のできることは限られていないのだ。
もちろん、米国籍の工作員が直接日本の政府高官を暗殺して政権を転覆するのは容易でない。日本のような治安のいい民主主義国家で要人が殺されれば、たとえ「病死」と発表しても、与野党やマスコミが疑うので、そう簡単に米国の都合のいい人物に権力を握らせることはできない。

が、常駐している大勢の米国人に手懐けられた日本の指導的人物を多数操れば、何も暗殺などしなくても、たとえばスキャンダルの暴露による失脚などの形で「反米的な」人物を政界から追放することは「平和的」「民主的」に実現可能だし、現に過去に行われている。

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●ロッキード事件●
その典型は、田中角栄元首相を「金権政治家」として失脚させた「ロッキード事件」(ロ事件)という名のスキャンダル工作だ。

これは何もおどろおどろしい(マニアックな)陰謀論ではない。少なからぬ識者もそう思っており、たとえば毎日新聞記者の岩見隆夫は「田中角栄の『無罪』論」を述べ、国際謀略の可能性を示唆している(毎日新聞Web版00年10月8日)。

謀略の構図は、世界のエネルギー市場を支配する国際石油資本(メジャー)が、メジャーに逆らって「資源外交」を展開した日本の首相、田中角栄を、ロ事件という(別件逮捕ならぬ)「別件スキャンダル」で冤罪の罠にかけて葬った、というものだ。

【この事件では、世界十数か国の政府高官が米ロッキード社(ロ社)製航空機の輸入問題で追及されているので「角栄 vs. メジャー」の構図で説明するのは間違いだ、という反対意見があるが、それは、ビジネスの現場を知らない評論家の、単なる思い込みだ。
ダムを作るとき、灌漑、発電など複数の目的で作れば「多目的ダム」になる。1本の映画にも異なる目的で複数の会社が出資することがあり、たとえば03年11月公開の邦画『g@me』は、フジテレビにとっては「1〜2年後に地上波で放映するための映画」だが、ポニーキャニオンにとっては「主題歌のCDを売るための映画」だ。
ロ事件という「多目的スキャンダル」で利益を得た「出資者」は、石油、航空機製造、マスコミ、米政界、反原発運動など世界の広汎な「業界」にまたがるが、人脈上その大半が米保守本流(米共和党、メジャー、とくにロックフェラー財閥系石油資本)につながるのは間違いなく、イタリアやトルコへのロ社の工作暴露で他の航空機製造業者が利益を得たとしても、それは異業種が参加していないことの証明にはならない。】

73年の第一次石油危機では、産油国とメジャーが共謀して原油価格を一気に4倍にして大儲けする一方、日本経済はスタグフレーション(輸入原油の暴騰による超インフレと産油国への所得移転によるデフレ)で大打撃を受けた。これに懲りた当時の日本政財界は、メジャーの支配を受けないエネルギー調達を模索し、首相だった角栄は「資源外交」を開始した。それは、メジャーを通さずに産油国から直接輸入するルートの開拓と、オーストラリア(豪)のウラン開発・輸入による原子力発電の推進から成っていた。

しかし、世界最大級の石油輸入国である日本で原発が普及して石油依存度が下がると、世界の石油相場は下がる。
米系メジャーは、石油危機の前に、タールサンド(粘り気の強い石油を多量に含んだ砂)やオイルシエール(粘着性のある石油を含んだ頁岩)の多い北米の荒れ地を大量に買い占めていたが、中東油田地帯に比べて相当に生産性の低いこれらの荒れ地から生産できる石油は、石油の値段が4倍ぐらいに高騰していれば採算に乗るものの、値下がりすれば採算割れして、荒れ地は「ただの荒れ地」に戻ってしまう。第一次石油危機直前の73年4月と6月の米国のエネルギー教書には「米国はタールサンド、オイルシエールの開発に取り組む」と明記されているから、角栄の資源外交は、米国にとって絶対に容認できないものだった( 経済企画庁『昭和48年 年次世界経済報告』 科学技術庁『昭和49年版 科学技術白書』)。

74年10月、月刊誌『文藝春秋』(74年11月号)に田中角栄の「金脈政治」を批判する記事が載り、その発売直後に角栄は東京外国特派員協会(外人記者クラブ)で会見する。当時の外国特派員の大半は日本語の読めない記者によって占められていたので、角栄はまさか日本語で書かれた雑誌記事が話題になるとは夢想だにしていなかった。

が、会見直前、上記の記事やその関連資料の英訳版が何者かによって特派員たちに配布され、一転して会見のテーマは「金脈問題」になった。なんの準備もしていなかった角栄は会見でしどろもどろになり醜態をさらし、これがきっかけで角栄は退陣する。

【これは、87年7月31日深夜(8月1日未明)放送のテレビ朝日『朝まで生テレビ』に出演した元豪外交官グレゴリー・クラーク(のちの多摩大学学長)の説である。彼にとって角栄は、ホイットラム豪首相と日豪原子力プロジェクトを進めようとした英雄なので、角栄の「冤罪」に対して黙っていられなかったのだろう。ちなみに角栄と相前後して、ホイットラムも意味不明の理由で失脚している。】

ところが、角栄は首相の座を降りてもなお、田中派(木曜倶楽部)という自民党最大派閥を率いて、政権への影響力を維持した。当然、原発推進路線や資源外交は継続される。

すると76年2月、米議会上院に(間違って)配達されたロ社の書類が開封され、同社の各国政府への航空機売り込み工作を示す資料が出てきたので、これを上院外交委員会の多国籍企業小委員会が調査することになった。

その結果「ロ社が航空機トライスター売り込みのため巨額の工作資金を日本、イタリア、トルコなど十数か国に流し、そのうち全日空にトライスターを売り込むために、総合商社の丸紅などを介して、複数の日本政府高官(いわゆる「灰色高官」)に1000万ドル(当時のレートで約30億円)の工作資金を渡した」と判明。

76年8月、上記の1000万ドルのうち5億円が角栄に渡ったという、受託収賄罪と外国為替管理法違反の容疑で、東京地検特捜部は角栄を逮捕した。

角栄は(贈賄側の丸紅幹部や、収賄側の他の政治家などとともに)起訴され「公判中の刑事被告人」となるが、出身地(新潟県長岡市)では絶大な支持を保ち、有罪判決を受けても衆議院に議席を維持し、自民党を離党して無所属議員となりながらも多数の自民党議員を率いて田中派を支配し、事実上誰を自民党総裁(首相)にするか決めることのできる「キングメーカー」であり続けた。

マスコミは連日、角栄を「金権政治家」「目白の闇将軍」と非難し続けたが、日本の保守政財界は角栄の資源外交が国益を守るために必要とわかっていたので、彼の権力は揺るがなかった。

反面、角栄は下層階級の出身で低学歴だったので、東大卒など高学歴の財界人や官僚からは生理的に嫌われており「原発推進を米国に見逃してもらうための人身御供」として差し出された可能性は否めない。ロ事件の被告のうち、東大卒の丸紅専務、伊藤宏は、早々と検察側の言い分をすべて認めて執行猶予付き有罪判決で裁判を終えてしまったが、一、二審はおもに伊藤の供述を根拠に角栄に実刑判決を下し、角栄は最後まで無罪を唱え、最高裁判決を待たずに93年に死亡した。

【「灰色高官」の1人で、86年に有罪判決が確定した、事件当時運輸政務次官だった佐藤孝行は、派閥の「親分」である中曽根康弘(のちの首相)の身代わりに起訴された、という説が政治記者のあいだでは有力だ。ちなみに、中曽根は東大卒で「いけにえ」の佐藤は明大卒。】

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●日本法曹史上の汚点●
角栄の無罪判決は一度も下りず、検察側の主張は一、二審では認められた。
が、角栄が受託収賄で有罪になるためには、検察側の主張のうち

#1: ロ社側の工作の事実を証明する、同社のコーチャン副会長(当時)の、「嘱託尋問調書」の合法性
#2: 現金(5億円)授受の事実
#3: 首相時代の角栄が民間企業である全日空の導入機種選定に関与できる、という「首相の職務権限」の存在

のすべてが成立する必要がある。つまり、権限のある人に「その権限を私たちに有利に行使して下されば利益があります」と言って利益を与えた場合だけ、もらった側が収賄罪(与えた側は贈賄罪)に問われるのであって、#1〜#3のうち1つでも欠ければ無罪だ。

が、3つとも怪しい。
#1の嘱託尋問は、米国内にいて、まったく来日しなかったコーチャンの証言による一種の伝聞証拠にすぎず、(日本の法廷で)被告・弁護側の反対尋問を受けていないから、日本の刑事訴訟法では無効のはずだ。が、日本の裁判所はなぜかこれを有効とした。

#3の職務権限論はもっとくだらない。
日本の首相やその部下の政府高官から、法的根拠なく民間企業(たとえばタクシー会社)が「国産(車)を使わず輸入品にしなさい」と言われてハイと従った例など1つもない。法令で許される限り、どんな商売道具を買おうが民間企業の自由だ。これは常識の問題であり、裁判で争うこと自体ばかげている。

#2の現金授受についても、検察側の主張する場所と方法と日時では物理的に不可能という説がある(岩見前掲記事)。 まさにロ事件の裁判は日本法曹史上最大の汚点だ。

この異常な司法判断の理由は2つ考えられる。
1つは日本の大半のマスコミが「角栄悪い」の非理性的な報道を数年間、ほとんど毎日洪水のように垂れ流したこと、もう1つは一審の東京地裁の担当判事の1人が心臓発作で急死したことだ。

急死の真相はともかく、日本のマスコミを異常な偏向報道に総動員する工作能力を持つ何者かが存在する以上、検事や判事が「自分も死ぬかもしれない」と連想して、正常な判断を躊躇しても不思議でない。
10年を超すロ事件裁判の期間中、大勢の検事が辞表を出し、また最高裁は異例の、一、二審以上の年月をかけて最終審判決をひたすら先延ばしにし、角栄の死亡を待った(死亡と同時に、裁判自体がなかったことになるので、最高裁は冤罪判決で「手を汚す」ことは免れる)。地検特捜部の名物検事だったHも、定年を待たずに検察を去り、晩年は慈善事業に打ち込んでいる。下劣な法解釈をして無実の政治家を葬ったことへの、良心の呵責による転身だろう。

ロ事件の残したもの……それは、金権政治を糾す司法の正義などとはほど遠いものだ。いちばん重要なことは、日本の司法、とくに東京地検特捜部が、米保守本流の利益のためなら平気で恣意的な法解釈をする、という事実が判明したことだ。

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●東京地検特捜部 vs. 旧田中派●
米保守本流の意を受けた東京地検特捜部と、田中角栄とその後継者との戦いは、76年8月に始まり、いまも続いている。

角栄は、竹下登(のちに首相) 青木幹雄(参院自民党幹事長) 小渕恵三(首相) 橋本龍太郎(首相) 小沢一郎(新生党代表幹事) 羽田孜(首相) 金丸信(自民党幹事長) 野中広務(同) 鳩山由紀夫(民主党代表) 武村正義(新党さきがけ代表) 細川護煕(日本新党代表・首相)ら大勢の政治家を育てて田中派を拡大し、「日本列島改造論」を打ち出して旧国土庁を創設し、都会の納税者の税金を農村地帯に公共事業予算として流し込んで道路を造りまくる「道路族議員」も育てた。 道路特定財源の自動車重量税は角栄の発案だし、また「朝日新聞-NET(のちのテレビ朝日)-大阪毎日放送 vs. 毎日新聞-TBS-大阪朝日放送」のねじれた提携関係を(大阪の毎日放送と朝日放送を入れ替えて)解消し、新聞とTVをペアにして系列化して、郵政省のマスコミ監督権を強化をしたのも彼だし、郵政族議員を育て上げたのも彼だ。また、米国よりも先に中国との国交回復を実現して中国利権に迫り、親中国・北朝鮮派の政治家(金丸、野中)を育てたのも彼だった。

(旧)田中派は、角栄が刑事被告人となったことで、弟子の竹下に乗っ取られて竹下派(経世会)となり、以後竹下派(現橋本派)は角栄の娘の田中真紀子(のちの外相)の恨みを買うが、竹下とその後見役の金丸は、都会人口が少なかった時代の、農村に不当に有利な選挙区割りを維持して道路族、郵政族の議員を多数当選させ、彼らを率いて都会の納税者の税金を農村で浪費する利権政治を続け、また親中国・北朝鮮人脈に基づき中国や北朝鮮にODA(政府開発援助)やコメ支援を与え、間接的に両国の(核)軍拡を支援し、しばしば日米同盟の強化を阻害した。

93年3月、東京地検特捜部は金丸を脱税容疑で逮捕し、その政治生命を断つ。
これによって重石のはずれた竹下派は、竹下や小渕らの小渕派と、小沢や羽田の羽田派に分かれ、さらに後者は自民党を抜け出して新生党となり、細川の日本新党や武村のさきがけ、公明党、民社党、社会党などを糾合し、細川を首相とする非自民連立内閣を実現させる。

細川内閣発足に先立って、その立役者である小沢が著した『日本改造計画』(講談社93年6月刊)はCIAの手で英訳され、全世界で発売されたが、その英語版の序文は、なんとJ.D.ロックフェラー(4世)米上院議員が執筆した(講談社インターナショナル94年9月刊の英語版初版本のオビに「CIA訳」とある)。

これによって、小沢がロックフェラー人脈にスカウトされて旧田中派から引き剥がされ、米保守本流の「お気に入り」となったこと、また今後いかなるスキャンダル工作によっても失脚させられない(CIAが小沢を守る)ことが全世界に明らかになった。

【旧田中派に「残留」した野中は、のちに小沢のことを「悪魔」「国を売るような者」と罵るが、それは、小沢が角栄の教え子でありながら、角栄の仇敵ロックフェラーの配下になったことを指している。】

ところで、英語版の序文の中でロックフェラーは、小沢が作った細川政権を「日本で初めての都市型政権」と呼んでいる。つまり、米保守本流は日本に都市型政権を作りたかったのだ。

やはりロ事件は「多目的スキャンダル」であり、ロックフェラーらの米保守本流が角栄をたたいた理由は石油だけではなかった。

旧田中派が、道路族、郵政族を使って、米国の重要な同盟国である日本の資源を浪費する時代遅れの農村型政治を続け、日本の国力が十分に発揮されないことが、米保守本流はいやなのだ。

米保守本流は冷戦に勝ち、ソ連・東欧の、資源を浪費する、効率の悪い社会主義体制を崩壊させ、これら諸国を「構造改革」して民主化、市場経済化し、米国にとっての重要な市場とし、また同盟国とした。かつての東欧の社会主義国ポーランドは、いまや仏独よりもはるかに米国に忠実な同盟国で、米国を助けるためにイラクに派兵しているほどだ。

ならば、米保守本流は日本の構造改革のため、みたび東京地検特捜部を使って、旧田中派(現橋本派)をたたくはずだ。

地検特捜部は、76年に角栄を、93年に金丸をたたいた。おそらく03〜04年には、旧田中派道路族のドン、青木幹雄を始末するはずだ(「小泉と青木と暴力団〜『小泉内閣vs.藤井道路公団総裁』の泥沼」を参照)。

さすれば04年6月の通常国会会期末には、小泉内閣不信任案が可決される可能性があり、可決されれば、04年夏の参院選は衆・参同日選になる(「首相秘書官の逮捕?〜『小泉内閣vs.藤井道路公団総裁』の泥沼(2)」を参照)。

03年11月9日の衆院選(過半数は241議席)の結果、民主党(177議席)が政権を取るには次の衆院選(同日選)で少々議席を伸ばしても足りないし、公明党(34議席)と連立してもまだ足りない情勢となった(「『民・公連立』の密約」を参照)。

東京地検とも「連立」して自民党(旧田中派)を壊さない限り、政権は取れない。そのことをいちばんよく知っているのは、93年の非自民連立政権樹立の経験を持ち、いまは民主党員となっている小沢だ。

すでに03年9月、自民党に不利に、民主党に有利になるように、東京地検は秘書給与詐欺疑惑を問われていた田中真紀子元外相を、衆議院の解散直前にわざとらしく不起訴処分にし、彼女が「反自民の旗手」として03年の衆院選に立候補し当選することを許した(真紀子は、竹下らが田中派を乗っ取って以来、彼らと敵対する小沢と親しい)。

これこそまさに、地検がいまだに米保守本流の支配下にあることの証拠だ。

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【この問題については次回以降も随時(しばしばメール版の「トップ下」のコラムでも)扱う予定です。
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 (敬称略)

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