発言撤回させても「あとの祭」

続報:「マラッカ海峡」発言

参議院選挙の争点か

Originally Written: May 20, 1998
Last Update: May 20, 1998

前回(14日)の本誌速報記事「ついに出た『マラッカ海峡発言』」で紹介した、11日の山崎拓・自民党政調会長の「マラッカ海峡発言」を、山崎自身が、半ば否定した。産経新聞15日付朝刊によると、山崎は14日福岡市内で講演し、新しい日米防衛協力のための指針、 いわゆる「ガイドライン」の定める「周辺有事」の範囲は、従来の日米安保条約で言う「極東」になるとの考えを明らかにしたという。

この講演での発言を産経新聞も朝日新聞もそろって、与党自民党幹部の「極東限定」(マラッカ海峡除外)発言として報道した。

周辺事態は「極東」
山崎政調会長 地理的範囲に言及
(産経新聞15日付朝刊3面=比較的大きな記事)

マラッカ海峡「周辺」とせず
防衛指針で山崎拓氏
(朝日新聞15日付朝刊7面=かなり小さな記事)

しかし、両紙から山崎発言の文言を抽出してみると、実は、そんな「あからさまな」ことは山崎は言っていない。記者たちの勝手な解釈を除いて、厳密に山崎の発言だけを並べると、こうなる。

「ガイドライン関連法制は日米安保条約に基づく取り決めで、その枠内だ。安保条約の第六条事態(極東有事)に対応するもので、対象地域を無理を承知で論ずれば『極東』という地理的概念を外に置くことはできない」(産経、朝日共通)

「『極東』とは『フィリピン以北を指す』との国会での政府答弁もある」(産経のみ、1960年の政府統一見解では「極東」は「フィリピン以北ならびに日本およびその周辺の地域で、韓国および中華民国[=台湾]の支配下にある地域も含まれる」と定義されている)

「経済上の見地から日本の平和と安全に重大な影響を及ぼす可能性があっても、マラッカ海峡を周辺事態の対象地域とすることには無理がある」(産経、朝日共通)

「コーエン米国防長官は『台湾海峡をはじめ、ひとつでも地理的範囲から除外すればあしき前例になる』と懸念を示している。わたしは『範囲を特定せず、戦略的あいまいさを保つ方が関係国に誤ったメッセージを伝えない』との米国の考え方を支持する」(産経のみ)

なんと言うことはない。要するに、大したことは言っていないのだ。産経のほうが扱いが大きいので、山崎の発言がより多く報じられている。それを全部つなげて要約するならば、

「無理を承知で論じて範囲を限定すれば、『周辺』はフィリピン以北の極東でありマラッカ海峡は含まれないが、無理をしないで日米の共通認識を言えば、台湾海峡であれ(マラッカ海峡であれ)なんであれ『周辺』の地理的範囲から除外はできない」

と言っているにすぎない。
だいたい「無理を承知で論ずる」こと自体が不自然である。なぜ、山崎はこんな「無理」をしたのか?

おそらく、11日の山崎の「マラッカ海峡」発言か、またはその発言を受けて筆者が書いた本誌の「速報」(いずれ別の機会に詳しく述べるが、本誌の読者のなかに朝日新聞の論説委員クラスの大幹部がいることは間違いない)、のいずれかに恐れをなした朝日の幹部が、山崎に同行して福岡まで飛んだ「番記者」に「すっぽんのようにしつこく山崎をマークして、『マラッカ海峡発言』を否定する回答を引き出せ」と命じたのではないか、と思えてならない。「無理を承知で論ずれば……」という山崎の発言の中の「まくらことば」が、まさしく、それを物語っているのではないか。

14日の福岡での発言で山崎自身認めているように、従来、日米間では「周辺有事」の「周辺」の地理的範囲は「無理して論じない」ことで合意していたのだ。

あたりまえだ。「インドネシアの政権がつぶれて、マラッカ海峡の治安が悪化するかもしれないから、ガイドライン協議では、マラッカ海峡を『周辺』に含めて検討している」などと、日本のような大国の政府高官や政治家が発言してみろ。たちまち、インドネシアの通貨ルピアは大暴落だ。

11日の山崎の発言は、すでに首都ジャカルタで暴動が起きてルピアが暴落したあとだったから目立たなかったものの、もし「平時」にこんな「無礼な」発言をしたら、重大な「フライング」として日・米・インドネシアの各政府から厳しく糾弾されたであろうことは言うまでもない。

重要なのは、朝日かどこかの記者の「すっぽんマーク」にネをあげて「無理を承知で」言わされた14日の発言ではなく、うっかり「本音」をはいた11日の発言のほうであることは、賢明な読者なら、おわかりだろう(サッカーの守備じゃあるまいし、(>_<;)新聞記者は政治家に「すっぽんマーク」などすべきでない)

シンガポールのゴー・チョクトン首相は、すでに98年1月の時点で、インドネシアの治安の悪化がマラッカ海峡の航行の安全を脅かす可能性に言及し、「もしインドネシアでイスラム原理主義が噴き出したら、マラッカ海峡の安全はどうなるのか」との深刻な懸念を告白している(朝日新聞98年3月2日付朝刊4面、「東南アジア シンガポールから 同盟を考える」船橋洋一・前朝日新聞アメリカ総局長)

無理もない。インドネシア政府に「当事者能力」がなくなった場合、そして難民の漂流や「海賊行為」が大量に発生した場合、シンガポールや、隣国マレーシアのような小国には、それを取り締まれるだけの海軍力はない。いちおうシンガポールには米空母の寄港を前提にした海軍基地が建設中であり、「常駐なき安保」(ここには米海軍はふだんは駐留せず、有事のときだけやってくる)が近く実現可能とはいえ、前回も述べたように、マラッカ海峡に機雷が撒かれた場合は、それを除去する能力を持たない米海軍は、まったくたよりにならない。

したがって、海上自衛隊機雷掃海部隊が、全世界の圧倒的な支持のもとにマラッカ海峡に出る(出ないと世界がおさまらない)という「周辺事態」が起きる可能性は依然として存在する。ただし、どんなに国際世論の支持があったとて、それは、明らかに自衛隊の「参戦」であり、政府見解で従来憲法が禁じるものとされてきた「集団自衛権の行使」につながるものである。憲法(9条)の条文自体はともかく、少なくとも政府見解(憲法解釈)を変更しないことには、この真の「周辺有事」には対処できない。

もし、今夏(98年7月)に予定されている参議院選挙の前に、インドネシアが内戦などに 突入し、暴徒(に化けたアメリカのスパイ?)がマラッカ海峡に機雷を撒けば、間違いなく、マラッカ海峡問題は、参議院選挙の最大の争点になる。

おそらく、自民党は分裂するであろうし、民主党や旧公明党勢力でも、深刻な党内対立が生じよう。

そうなったときには、小沢一郎・自由党党首を首班とする内閣が今年98年中に誕生すると いう、筆者の一連の「インドネシア石油危機」関連予言の一部が、また的中するということになる。

筆者は、「98年に小沢政権ができる」という予言(じゃなくて科学的予測)を97年夏から行っているが、政権を作る方法については、CIA等のアメリカの諸機関に「任せてある」ので、具体的な方法までは正式な 「予言」では述べていない。

しかし、政府と与党自民党は、98年1月からの通常国会(6月まで)の終盤には、「ガイドライン」関連の法案の提出という難題を抱えている。自民党は衆議院では(小沢新進党からの離党者などを取り込んで)過半数を占めているものの、参議院では依然として過半数に達せず、閣外協力をしてくれている社民党の賛同なしには、円滑な法案審議をすすめられない状況にある。

社民党が「マラッカ海峡への派兵」(集団自衛権の行使)に賛成するとはとても思えない。山崎があわててフライング発言を取り消したのは、産経新聞も上記の15日付の記事の別の箇所で述べているように、「範囲」をごまかして社民党の支持を取り付け、国会で法案審議を円滑に進めたかったからだ。しかし、もし法案の審議中または成立前に、たった1個でもマラッカ海峡に機雷が撒かれれば、中東から日本に石油を運ぶタンカーの乗員たちはこわがって乗船を拒否するであろうから、たちまち日本は「石油危機」に陥ってしまう。さすれば、国会は、この問題に明白な答えを出さざるをえなくなる。「ごまかし」はきかない。

もし、筆者がCIA長官で、ロックフェラー系石油財閥を中核とする米保守本流グループから「日米軍事同盟の再構築につながる政権を作れ」とか「日本国民に憲法9条を改正したくなる気分を持たせよ」と命じられていたとしたら、必ずインドネシアの「暴徒」を操って機雷をマラッカ海峡に撒かせる。

「暴徒」どころか、インドネシア軍の一部も、すでにCIA等の米国のスパイ工作機関の手に落ちている可能性がある。

「インドネシア国軍はこれまで『政治改革』を求める学生らに対し、『対話』を呼び掛けるなど、極めて注意深く対応してきた。[中略]それがなぜ、スハルト大統領がエジプトでの十五カ国グループ(G15)首脳会議に出席のために留守にしている最中に、銃撃とい う強硬手段に出たのか。なぞが深まっている。[中略]
 興味深いのは、学生等と直接対峙していた部隊ではなく、近くの高架道路に配備されていた別の部隊が狙い撃ちしていた、という目撃証言があることだ。国軍内部に指揮系統の乱れがあるのではないか[後略]」(朝日新聞14日付朝刊9面「インドネシア国軍が発砲 指揮系統に乱れか 国防相失脚狙う見方も」ジャカルタ13日=吉村文成[朝日新聞記者])

「十二日のジャカルタで起きた暴動で六人が死亡した事件は、軍司令部の指示で治安部隊が発砲したのではないようだ。私服の軍人や警官が身の危険を感じて発砲したか、学生を挑発し、軍内部を分裂させるための謀略のいずれかだろう」(朝日新聞15日付朝刊9面「視点 政権の行方、軍次第 京大東南アジア研究センター 白石隆教授」[朝日新聞]外報部・稲田 信司)

「米軍は先週[5月3〜9日の週]、インドネシア軍への教育訓練を急きょ中止。インドネシア軍に降下訓練などを指導していた米軍教官はただちに引き揚げた。現地の急速な治安情勢の急速な悪化で軍出動もありうると警戒したためという」(朝日新聞14日付朝刊3面「時時刻刻 緊張高まるインドネシア 反政府側結束の動き 治安部隊と対立激化 米「最悪のシナリオ」ジャカルタ=吉村文成、平井正夫、ワシントン=水 野孝昭、政治部[朝日新聞記者])

この時期、この「米軍教官」が教えていたのが「降下訓練」などの通常の軍事教練だけであった、と信じる「素直な」政治学者やジャーナリストは、いったい世界中に何人ぐらいいるのだろうか?

(敬称略)

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