臨時速報・米中間選挙

共和党はわざと敗北した

〜やはり「真の争点」は統帥権だった〜

Originally Written: Nov. 7, 1998
Last Update: Nov. 7, 1998




米国時間11月3日、アメリカ全土で下院議員全員と一部の州の上院議員と州知事を改選する中間選挙(中間選挙の「中間」とは、大統領選挙の行われる閏年と閏年の中間という意味。ちなみに閏年にも下院議員全員と一部の州の上院議員、州知事が改選される)が行われた。同日深夜(日本時間4日朝)には早くも大勢が判明し、クリントン大統領の不倫もみ消し疑惑の逆風で不利と見られていた連邦与党の民主党が、予想外に善戦していることがわかった。

一般的に、中間選挙は連邦野党、つまり大統領の反対党(今回は共和党)に有利と言われる。そのうえ、民主党の大統領のみだらな不倫疑惑が追い風になったから、共和党は大勝をめざし、かさにかかって大統領の不倫問題を各選挙区で争点にした。アメリカでは政党の選挙用のTVCFは巨大ビジネスになるほど一般的なので、共和党はしきりに「大統領はウソつき……共和党に入れましょう」などとテレビを使って宣伝した。

ところが、今回、共和党は上下両院で過半数は維持したものの、当初予想されていたほどの大勝はできず。上院は現状維持、下院では議席を減らした。アメリカ国民は、もうクリントンの不倫騒動にうんざりしていたからだ。この点をとらえて、日米のマスメディアはいっせいに「共和党は不倫もみ消し疑惑を使って大統領を弾劾し、辞任に追い込もうとしたが、失敗した」と報じた。つまり、これで、いかに共和党が多数を維持したとはいえ、議会のクリントン弾劾の動きは弱まり「非難決議」程度の消極的な動きで一件落着してしまうだろう、との見方が支配的になったのである(弾劾手続きを円滑に進めるには、共和党は上院で60議席以上取る必要があったが、結局非改選とあわせて55議席にとどまったからである)

しかし、筆者はそのような見方は間違いだ、と本誌で一貫して述べてきた。「弾劾されない、辞任しない」というのが筆者の予測だった。理由は、軍の統帥権の問題が重要だから、というものであった。

クリントン民主党政権では、不思議なことに共和党員のウィリアム・コーエンが国防長官を務めている。通常の米国防省(米軍)の指揮官はコーエン国防長官だが、憲法上の最高司令官は合衆国大統領、すなわち民主党のクリントンにある(宣戦布告権は憲法上議会にあるが、ベトナム戦争は宣戦布告なしに始められた「正当防衛の拡大版」だったから、結局大統領には戦争を始める権限があることになる)。つまり、どちらが軍隊を指揮するのか、という問題をめぐって、共和党と民主党はずっと激しく対立してきたのだ。

米軍には不倫に関して厳しい軍規がある。98年初頭、女性として初めて戦略爆撃機のパイロットになったエリートのフリン空軍中尉は不倫がばれて軍を辞めるはめに陥ったし、ラルストン空軍大将も過去の不倫が露見して統合参謀本部議長への昇進を見送られた。にもかかわらず、クリントンは州知事時代から何人もの女と(共和党員のスター独立検察官の報告書によれば、そのうちの1人とはオーラルセックスなども含む)みだらな不倫を繰り返していたにもかかわらず、なんの処分も受けずに「全軍の最高司令官」の座に居座っている。これは、ほとんどの米軍兵士にとって吐き気を催すような状況だ。

クリントンを不倫スキャンダル付きで大統領の座にとどめておけば、つまり「飼い殺し」にしておけば、大統領はコーエン以下共和党員で固めた軍幹部たちの反対を押し切ってまで独断で兵士に命令を出すことは難しいので、共和党は実質的に米軍の指揮を取ることができる。来年1999年から、クリントンの任期の最後の年となる2000年にかけては、「インドネシア石油危機」(マレーシアへの波及やマラッカ海峡封鎖)や「半導体2000年問 題」(これにより、たとえば韓国の発電・送電設備の何分の一かは停止し、銀行、水道、通信、軍隊、警察、鉄道のネットワークがダウンしてパニックが起き、半導体内蔵のハイテク兵器も一部使えなくなることから、一時的に北朝鮮との軍事バランスが逆転する恐れがある)といった世界情勢を激変させかねない問題(というより激変させようとする陰謀?)が控えている。共和党を支える米政財界保守本流は、米軍を適切に指揮、統制して、自分たちの利益が最大になるようにしたいであろう。

ところが、もしクリントンが辞任してしまうと、さしあたり不倫疑惑のなさそうな民主党のゴア副大統領が大統領に昇格してしまう。この場合は、共和党は大統領の権限を形式化することが、そうでない場合に比べて明らかに困難になる(つまり、民主党を支える非主流の「イギリス・ユダヤ系」の利益が最大になるように米軍を指揮してしまうかもしれないのだ)

したがって、共和党は、絶対にクリントンを辞任させたくないはずだ、というのが筆者の見解だった(ゴアのスキャンダルを探しだしてあらためて「脅迫し直す」のは、仮に可能だとしても非常に手間がかかる)。これは、「インドネシア石油危機」そのものの中心的な問題ではないので、とくに「 予測的中度判定基準」の対象には入れていなかったが、11月4日以降、読者の方々のアクセス数が毎日30%ずつ上がっているので、どうも今回の中間選挙の結果を「予言的中」と判断してアクセスして下さった方が多いようだ。心より感謝申し上げる。

選挙結果を敗戦と受け止めた共和党では、米国時間6日夜、議会共和党の実質的リーダー(党首の制度はないが、実質的に党首)のギングリッチ下院議長が引責辞任することを表明した。彼が議会における不倫疑惑追求の急先鋒だったことを考えれば、また議会制民主主義国家で有権者の審判が下ったことを考えれば(いかに「飼い殺し作戦」に成功したとはいえ)辞任しないわけにはいかないだろう。しかし、ギングリッチは今回の選挙で大勢が判明した直後に記者会見で言っている。

「共和党が、下院で3期連続多数を維持したのは70年ぶりだ」

そうなのだ。この選挙結果は共和党にとっては快挙のはずなのだ(これは、共和党寄りの最高裁判事が民主党に有利な選挙区割りに違憲判決を下した結果によるもので、今後半永久的に民主党は下院で多数を取れないであろう)

11月4日放送NHK-BS1の『BSニュース22』の中で、アメリカン大学のリクトマン教授は「共和党は弾劾を強行すれば負けるとわかっていて強行した」(選挙中に弾劾手続きにはいった)と述べた。

これは、筆者とほとんど同じ意見であり、筆者の結論を傍証してくれる。やはり、共和党は、わざと負けたのだ。

(敬称略)

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